第43話


 授業中。課題の発表日が近いこともあり、誰もが顔に疲弊を浮かべているのが見て取れる。ただ浮かない表情の人間は僅かばかり。どこの班も順調に進んでいるのだろう。


 俺は僅かの人間に目を向ける。


 アル、モユ、エル。一眼で疲弊し切っていることがわかる。


 今からする俺の提案を聞けばどのような反応になるだろうか。


 きっと眉間にシワが寄るだろうけど、きっと目に火は灯る。


 責任は重い。けれども、やるしかないのだから気にはしない。


 授業が終わって放課後になると、教室にはモユ班四人だけが残った。


「さて、今日はどこのダンジョンに潜ろうか」


 暗い顔をするアルとエルに向けてモユがそう言う。明るくしようと声の調子を上げているのは見え見えで、二人の表情には変化がない。


「あはは……レインくんはどこがいいと思う?」


「モユ。俺から提案があるんだけど、いい?」


「うん? まあいいけど?」


「ダンジョンに潜るのはやめよう」


 俺以外の三人は目を丸くした。


「何を戯事を。ダンジョンに行くのをやめれば、どうやって魔導書を用意するつもりだ?」


 エルがキッと睨み付けてくる。


「研究に舵を切る」


「正気か? 今更研究を始めたところで、他の三班に敵うはずがないだろう。よくてラインギリギリの合格。下手すれば、用意もできない」


 モユが最も強く反発すると思っていたが、相手がエルで意外に思う。意見を変えたとはいえ、一時は「私は研究だ。このまま未提出なんてことになれば、モユの恥になるうえ、元首候補からも……」と言いかけていたのだ。どういう心境なのだろう、ってそんなことはまあいい。


「勝てる。というか、勝つ」


「うーん、嘘、ではないみたいだけど、どうやって勝つつもりなのかな?」


 俺から嘘の匂いがしなかったのかモユはそう尋ねてきた。


「どうやってもこうもなく、正々堂々と研究して勝つ」


 俺が考えたのはタネもしかけもない正攻法だ。


 期間において大きく遅れをとっているし、能力においてもかなり劣っている。だけど、正攻法で勝つ自信はあった。


 俺はどうしてダンジョンを選んだのかを振り返ってみた。


 ***


 入学後、最初の月末課題、魔法試験。


 ゲームでは二つのアプローチがある。


 研究コマンドとダンジョンに潜ることで魔法書を手に入れることの二種類だ。


 前者は、コマンド実行により、大成功、成功、失敗、の成果で研究ゲージをためて、最終的に溜まったゲージに応じた魔法を取得できるというもの。


 後者はそのままで、ダンジョンに潜って魔導書を見つけることにより、魔法を習得するというものだ。


 両者を比較すると、研究には時間を無駄にしない利点がある。


 ダンジョンに潜り攻略できるか否か、また、魔導書のあるダンジョンを見つけられるか否か、そしてその魔導書に価値があるか否か。そういった時間、運の危険性を排除し、着実に魔法習得を目指せる。


 だから安全牌を選ぶなら研究だけれど、モユと一位を取るにはそれでは難しい。


 研究コマンドは、班長の魔法技能に応じて、大成功確率があがる仕組みになっている。つまり、魔法技能が高いフランとモユでは、大成功確率に雲泥の差があり、同様の手法で戦えばまず負けるのだ。


 また、仮に運で大成功を繰り返したとしても、習得した魔法が練度不足で使えなければ、試験当日に使用することができない。モユの魔法の練度は低いので、それを上げる意味でも、ダンジョンに潜った方がいい。


 それに何より、魔導書のあるダンジョンを知っているので、時間を無駄にすることはない。


 ***


 そういう経緯でダンジョンに潜ることを選んだわけだが、それはロレンツォと話し脳内が整理されるまでの俺の考えだ。


 結果論としては間違えていたが、そう考えたこと自体は間違いではない。


 ただ固定概念に囚われすぎていた。


「レインくん、ボクもここ数日魔法を使うようになって知見が深まったとはいえ付け焼き刃。流石に正攻法は厳しいと思うけど?」


 そう。間違っていない。


 ゲームシステムでは『研究コマンドは、班長の魔法技能に応じて、大成功確率があがる仕組みになっている。つまり、魔法技能が高いフランとモユでは、大成功確率に雲泥の差があり、同様の手法で戦えばまず負けるのだ』とある。


 だから俺はモユに提案をした。


「うん、だから俺に班長を譲って欲しい」

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