第44話
ゲームシステムでは『研究コマンドは、班長の魔法技能に応じて、大成功確率があがる仕組みになっている。つまり、魔法技能が高いフランとモユでは、大成功確率に雲泥の差があり、同様の手法で戦えばまず負けるのだ』とある。
つまり、班長の魔法技能が高い俺になれば大成功確率も上がる筈なのだ。
ロレンツォと話し、知っている未来とは異なる道を歩んでいると思うようになった。逆に言うと、アルのハーレムルートに囚われず、異なる未来を心置きなく歩めるということ。
ゲームシステム自体が世界の理として残っているのは、モユの魔法の上達やリポップしない宝箱で確認済み。
であるならば、モユの班長にこだわらずともいい。
それが班長の交代を申し出た真相だ。
「貴様! ついに野心をあらわしたかっ!」
「あくまで魔法が開発されるまでの一時的なもの。多分、公表もしなくていいと思う」
「だったら代わる必要はないだろ! 功績を掠め取ろうって算段か!?」
胸ぐらを掴んできそうな勢いで立ち上がったエルをモユは手で制した。
「レインくん、聞かせてくれるかな? 班長を代わったところで上手くいくと思わないんだけど?」
「うん、上手く行くかはわからない。ただまあだからこそ意味がある。失敗したときに俺が罪を被れる。モユにはノーダメージってわけだ」
でまかせを言うと、モユは呆れたようにため息をついた。
「理由は言えないかあ〜。それはボクが信用できないから言えないってわけじゃないよね?」
「勿論」
「そっか……うーん、うん。なら聞かない。でもさあ、レインくんに累が及ぶ可能性があるならボクも譲るわけにはいかないんだけど?」
失敗を前提とした考え。モユが悲観的だが、それはそうだろう。何の説明もなくただ班長を代わるだけで上手くいくなんて信じられるわけがない。
だから普通の反応だけれど何処か違和感がある。
自分で言うのもなんだけれど、モユは俺を買ってくれていると思う。そんな俺に何か考えがある、とわかっていて尚、失敗を前提とするだろうか?
『上手くいかないことに、レインくんたちを巻き込んじゃったのかなって』
班になって買い物に行った日のモユの言葉を思い出す。
思えば、初日からモユは悲観的だった気がする。
「レインくん?」
問いかけられて気を取り直す。
モユがどう思ってようと関係がない。成功を目指すのには変わりがないのだ。
「ああうん。モユが心配になるのはわかる。だけど判断するのは、研究についての話を聞いてからにして欲しい。昨日、新しい魔法を作る方法を思いついたんだ」
今度はでまかせではない。俺が研究に舵を切ると決めた二つ目の理由。
班長を代わるだけで大成功確率があがって研究し出したら上手く行きました!
となれば、それでいいのだけれどゲーム的すぎて本軸に置くのは怖い。
だから俺は現実的なアプローチとして新たな魔法を開発する案を用意した。
「方法って?」
「魔法陣を立体にするんだよ」
俺は魔法の授業を思い出す。
***
「魔法の発動の仕方について、レイン君。答えてもらえるかな?」
昨日のフランのせいで気怠いが、先生に指名されたので立って答える。
「彫りに水を注いで満たすように、魔法陣に魔力を流し込むことにより、その魔法陣に対応した魔法を発動させることができます」
「うむ。その通りだ。魔法陣を知っていても発動できない条件についても教えてくれるかな?」
「発動できない要因は主に3つ。魔力の操作技術が足りない技術不足、実戦経験不足、対応する魔法を満たすだけの魔力がない魔力不足です」
というのがこの世界の通説。実際は、練度不足と、レベル不足と、ステータス不足。ちなみに言うと、魔法の行使は、魔導書ありの場合となしの場合があるが、違いは魔法陣の形を覚えているかどうかの差異でしかない。
***
彫りに水を注いで満たすように、魔法陣に魔力を流し込むことにより、その魔法陣に対応した魔法を発動させる。
***
教壇に立った先生が、描かれた魔法陣について解説している。
「ええ、ですから、魔法陣において、描かれる図形が、具現化する魔法の形状に対応していることになります。それはつまり、魔法陣の円の中、限られたスペースに形状を記す図形を描かなければならない、ということでもあり……」
***
魔法陣は円の中に図形を記す。
つまりは覚えてさえいれば図形を形作る線に魔力を流し込むことで魔法は発動する。
だとしたらだ。
別に円に拘らず、円柱でも球でも可能ではないか、という話だ。
「立体……そっか! 凄いです、レインさん! 魔法陣って魔導書で覚えるし、ダンジョンからも本が落ちるので、平面のイメージしかなかったです!」
アルがキラキラした目を向けてくるところ悪いが、
「うん、でも思いつく人は珍しくないし、きっと先達はいるに違いないよ」
「え……そ、そうですかね? じゃあダメですか?」
首を振る前にモユが答えた。
「そうでもないよ。立体なんて残すには適さないし、普及なんて持っての他。平面で限られたスペースに書くことを思えば、余白はたんまりとあるし開拓の余地はある」
言おうとしていたことを言ったモユに、そうだよね? と目を向けられて頷く。
「そっか。これならまあ、何とかなるかな。うん、レインくん、ボクは研究でもいいよ」
「僕も研究でいいです。元から研究派だったし、ダンジョンから出なくて何も出せないのはまずいですから」
残るはエル一人。
眉間にシワを寄せていてどういう感情か窺うが、頷いたことで汲み取れなかった。
「よし、じゃあ新たに頑張ろうか」
モユがそう言い、班は研究の道を進むこととなった。
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