第41話


 ダンジョンから帰路を辿っているときの空気はあまりにも暗かった。


 誰も何も発さず、沈痛な面持ちで重い足を引きずるだけ。


 最悪の雰囲気だったけれど、それをフォローする余裕は俺にもなかった。


 あるはずのものがない。そのショックは大きく、深夜になってもまだ尾を引きずっている。


 どうして? 


 記憶違いでないのは、アルが女だったときの件で理解している。


 ならば、報酬アイテムはあったはず。物語通りに進んでいるのならば、絶対にあるはず。


 なのに、なかった。


 ゲーム通りではないということは、何かが原因で物語の筋道が逸れた?


 そうならば試験で首位を取るのはかなり難しい。あるはずのものがないのだから、これから魔導書があったダンジョンを巡っても目的のものを得られる保証がない。


 だからといって、研究に舵を切るのも難しい。もう残り僅かな期間で、他の三人をしのぐ魔法を開発するなんて不可能に限りなく近い。


 そもそもの話。何かが原因で物語の筋道が逸れきったのなら、試験は愚か、アルのハーレム計画すら意味を持たない。


 俺は物語の筋道がそれていない前提で、アルのハーレム計画を立てたのだ。未来が不透明なら、四人を試験で首位にしたところで、ハーレムルートに入るかわからない。ただ首位にしただけという結果に終わる可能性は十分にある。


 急に疲れがぐっと来た。今までのことが徒労であったと知ったときの虚しい疲労感に力が抜けていく。反感を買って、死。そんな未来だけは濃く鮮明に見え始める。


 暗い絶望感を抱えたまま結局寝付けず、翌朝を迎えてしまった。


 今日が始まると、またモユたちと試験に向けて努力しなければならない。


 俺の誤った選択に巻き込んでしまったこと、失敗が確定しているのに努力を続けること、頑張る理由すらないこと、様々なことに気が重くなる。


 なんとか立ち上がったはいいものの、部屋の扉は崖のようにそびえ立っていて、圧すら覚える。


 もういいか、と挫けそうになったとき、重い扉が外から開いた。


「あれ、開いた。無用心ですよ、レイン様。貴族の住まう寮と言っても危険がないわけではないんですから。貴方は狙われてもおかしくな……レイン様、なんか弱ってません?」


 言われた通り弱っていた。だけど、こいつにそう言われると、子が甘えるように、親友に強がるように、反骨精神が芽生えて力が戻る。


「弱ってねーよ。ただロレンツォ、いいところに来てくれた。一緒に考えて欲しいことがある」


 えー……来なきゃ良かった、という顔をするロレンツォを引っ張り、俺はカフェテリアに連れ出した。


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