第37話


 ついに俺たちは、目的の魔導書があるダンジョンを進んでいた。


 広く真っ暗な洞窟を、松明のオレンジの明かりを頼りに歩く。空気は張り詰めていて、どこから魔物に襲われるかわからない緊張感に、皆の口元が強く引き結ばれていた。


「足音……」


 松明を持ったモユがそう言うと、皆は足を止め各々武器を構える。


 耳を澄ませて待つと、前方、それと左方面からいくつもの足音が近づいてくる。


「左は俺がやる。前はエルとアルで食い止めて」


 自然と潜められた声でそう言うと、頷きが返ってきた。


 俺は魔法矢をたがえ、足音に向けて放つ。そして二射目をすぐに装填する。


 最初に放った矢が辺りを照らしながら進み、狼型の魔物の姿をうつした。


 3頭か。


「そこ!」


 二射目を放つと、無事直撃し、魔物のつんざくような悲鳴があがった。


 だが、まだ二頭いる。


 二射目の明かりで映した魔物の行動を予測し、三、四、と次々と矢を放つ。


 また一つ悲鳴が上がるが、もう一つは上がらない。


 弦を引き絞り、松明の灯で視認できる位置まで待つ。


 いつくるか、とごくり、と唾を飲んだ時、視界に牙を剥き出しにして駆け寄ってくる魔物を捕らえた。


 目で追うのも難しい速度で魔物が飛びかかってきたが、俺はギリギリまで引き付けて矢を放つ。


 魔物を矢は穿ったが、勢いを殺しきれずのしかかられ、後方に倒れる。首筋に歯を立てられれば、と恐怖を抱いたが、魔物は絶命していたようで、すぐに霧散した。


 体から重みが消えたところですぐに立ち上がり、前方で魔物相手に足止めをしていた2人のサポートに入る。


 アルの死角を狙った魔物を矢で穿ち、エルに飛びかかった魔物も矢で貫く。射線を管理しながら、そんな戦闘を数分繰り返すと、ようやく狼型の魔物の襲撃を防ぐことができた。


 戦闘が終わると、何度か攻撃を受けたアルとエルが壁に背を預けて座り込み、回復薬を飲んだ。


「はぁ。まだ、中階層でこれですか……。ハントウルフのダンジョンは苦しいですね」


「どうする? ここは引き返すか?」


 このダンジョンは適正レベルより少し高いため、中階層まで降りるのに、さっきのような苦しい戦闘が続いていた。


 これで休憩はすでに7度。安全策をとるならば、引き返すのもありかもしれない。


 ただ、このダンジョンに目的の魔導書があるのだ。モチベーションの低下が著しい今、引き返すのも微妙かもしれない。


「レインくん、このダンジョンに魔導書があるって噂だよね?」


「うん、まあ」


「そっか。なら行こう。ここからは松明の係はエルに任せて私も前線に立つからさ」


「いや、私は大丈夫だ。アルを休ませてやれ」


「ぼ、僕もやれます。というかやらせてください!」


 妙にやる気のアルにモユは笑った。


「元気だね。そんなに戦いたいの?」


「えっと、はい。このダンジョンに魔導書がなければ、ダンジョン攻略は最後になるかもしれないんですよね?」


「まあその可能性はあるね」


「だったら、最後までやり尽くしたいです」


「そっか、じゃあお願いするよ」


 やる気が戻ったところで、またダンジョン攻略を再開した。


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