第34話


 翌日のダンジョン攻略は地獄だった。


 Dランクダンジョンという、適正レベル以上のダンジョン。身体中に傷を負い、肩が外れ、骨が折れる。気を抜けば即死、生死の境ギリギリを生きる戦闘が繰り広げられていた。


 わけではなく。


「き、気持ち悪いです……」


「ボクも苦しい」


「うぼええ」


 俺以外の三人は、ダンジョンを攻略する頃には、回復薬の飲み過ぎでグロッキーになっていた。


「そんなに苦しいの? 戦っている時は元気だったのに」


「違うんです。飲んでいる時は若干ハイになってるんです。でも、そのあとは、気持ち悪くて、うええ」


 回復薬にお酒みたいな効果があるんだなぁ、と思っていると、モユに尋ねられる。


「それで、宝箱はあったかい?」


 俺は首を振る。


 最後のボスを倒したあと、休む三人の代わりに、俺は報酬である宝箱を確認した。


 だが、中身は空っぽ。ゲームでは宝箱がないダンジョンだったけれど、ないのではなくて先に取られていたという設定だったみたいだ。


「そっか。じゃあ、明日からも頑張らないとね……」


「い、嫌です!! もう飲みたくありません!!」


 アルが断固拒否した。流されやすい彼、いや彼女が言うくらいだから相当辛いのだろう。


「でも、やるしかないよ。今更研究に舵は切れない」


「そ、それはそうですけど……」


「それに強くなった高揚感はあった。きっとそのうち、飲む量が減ってくるよ。減ってくるといいなあ」


「願望じゃないですか!?」


「まあまあアル」


 と俺が宥めると、と言うか、とアルに矛先を向けられる。


「レインさんはどうしてそんなに元気なんですか?」


「回復薬、飲んでないからな」


「ガンガン、魔法の矢を放ってましたよね?」


 与一の弓は魔力消費なし。そうでなくとも、飲まずとも余裕なくらい俺には魔力がある。


「鍛えてたから」


「鍛えてたで納得できないレベルなんですけど。というより、それだけ強いなら、もうレインさん1人で攻略した方が効率よくないですか?」


「それはダメ」


 モユの魔法の練度をあげる、モユのレベルを上げて魔力量を上げるためには、最低限のフォローしかしてはいけないのだ。


 とはいえ、そう言うと、色々と面倒そうなので適当なことを言う。


「アルの苦しむ顔が見たいから」


「へ、変態!」


 アルにそう言われてぞくりとした。何だか新たな扉が開きそうな気がする。


「アルが快楽に顔を歪める姿が見たいな」


「ド変態っ!!」


「アルくん? レインくん?」


 モユの低い声で、別の意味でぞくりとしたので、俺はすみませんと謝った。


「どうする? そろそろ帰るか?」


 アルとモユに先駆けて回復したエルがそう言うと、2人とも首を振った。


「ごめん、まだもう少し休ませて」


「僕も」


 わかった、と頷いたエルは俺に顔を向けた。


「レイン。少し話がしたい」


「俺はしたくない」


「そうか」


 と納得したわけではなく、腕を引っ張られて連れてかれる。


 モユたちから離れたところで、エルは口を開いた。


「貴様はどうしてそんなに強い?」


 見るからに不機嫌そう。なんて答えようか悩んでいると、いい、とエルは首を振った。


「今日の私はモユを守れていたか?」


 俺は首を振る。エルはこのダンジョンの適正レベル、もしくは少し下くらい。今日も自分のことで一杯一杯だった。


「だよな。なら、どうやったらモユを守れるだけの強さを手に入れられる?」


 それに答えることは難しくはない。だが、エルのことを思うと、何て答えるか難しい。


 ずっと思ってたことだけど、エルはモユを守ることに固執している。いや、守ることで得られるものに固執している。そしてそれは歪んだ感情だ。


 だから守る術を教えるべきか悩む。いや、教えるべきではないだろう。


「そんな簡単に強くなれないよ。それに、モユは守らなければならないほど、俺たちが守れるほど弱い女の子じゃないよ」


 エルは苦虫を噛み潰したような顔になる。


「……そうか。変なことを聞いて悪かったな」


 と謝ってきたはいいものの、顔に不服と書いてある。


 まあ、こういうのは当人同士で解決すべきもの。部外者の俺が口を挟むわけにはいかない。


 それから、俺とエルが戻ると、2人が回復していたので、学園に戻ることにした。


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