第32話


 教壇に立った先生が、描かれた魔法陣について解説している。


「ええ、ですから、魔法陣において、描かれる図形が、具現化する魔法の形状に対応していることになります。それはつまり、魔法陣の円の中、限られたスペースに形状を記す図形を描かなければならない、ということでもあり……」


 魔法学の授業を食い入るように受けている生徒達を尻目に、俺は昨日のモユの発言を思い出していた。


『上手くいかないことに、レインくんたちを巻き込んじゃったのかなって』


 上手くいかないこと……か。


 魔法の能力において、他3人に劣っていることからくる不安、それと同じ班になったことの申し訳なさ。


 そう思っていたけれど、他に真意がある気がする。


 だけど、関係はない、か。


 モユが上手くいくかどうかわからなくても、俺は絶対に上手く行く確信がある。


 なんせ俺はトップ確定の魔導書があるダンジョンを知っているのだ。


 最悪のケース。モユ班としてダンジョンの攻略が叶わずとも、俺1人での攻略は可能。俺が魔導書さえ持ち帰ること、その魔導書を扱えるだけモユの練度があがっていればそれでいい。


「それでは、これで授業を終わりにします。ここからは各自班活動に励むように」


 先生が去って、各々が元首候補の班長の元へと集まりだす。


 俺も例外ではなく、モユのところに移動した。


「レインくん、アルくん、エル、全員揃ったね」


 全員が集まると、モユは立ち上がった。


「じゃ、早速行こうか、ダンジョン攻略」


「そうですね、周りも本気ですし」


 アルの言葉に見回すと、どこも真剣な目で、今日やることなどを熱く話し合っている。


「モユ、まずはどこに行くのか、私に教えてくれ」


 エルがどこへ行くか悩むのも無理はない。選択肢が多いのだ。


 新都近くには、複数のダンジョンが存在する。各国からちょうど中央、ということも新都が造られた理由だが、資源であるダンジョンが複数存在する立地というのも理由の一つであったりする。


「今日だけはF級。で、明日から慣れるまで、D級とされるダンジョンに行こう」


 ゲームにおいて、ダンジョンは難度で、F〜Sランクに分けられているが、こちらにおいても同じ。Fが最も簡単で、Sが最も困難になっていて、それに準じる形でドロップアイテムなどの報酬もあがる。ちなみに、参考までに水晶の霊騎士がいた、水晶のダンジョンはAランクだ。


「え、明日から早速、D級ですか……。僕、ダンジョンに入ったこともないんですけど」


「ボクもだよ。でもさ、思っているよりも時間がない。月末課題でトップをとるならば、最低でもCランクダンジョンから出る魔導書を得ないといけないと思う。だからさ、能力の底上げの時間は出来るだけ少なくしたい」


「それはそうかもしれません。月末課題の発表日まで三週間を切っているこの状況。魔導書を探り当てる時間を考えれば、悠長に低ランクを順に上がっていくわけにはいきませんもんね」


「そういうことだよ。ま、エルとレインくんさえいれば、何とかなるだろうし」


 矛先を向けられたエルは胸を張った。


「任せておけ、モユ。昔みたいに、私のあとを付いてくればいい」


「あはは。期待してるよ、レインくんは?」


「あんまり、あてにしないで欲しいなあ」


「ありがとう。あの時みたいに、ボクのピンチには颯爽とかけつけて守ってくれるんだね」


 全然聞いてないんだけど。


 しかもエルがむすっとしちゃったし。


「ま、そういうことで、今日はFランクダンジョンに挑もう。明日からDランクに踏み入れるということを意識してね」


 皆が頷く。勿論、俺も異論はないので頷いた。


「それじゃあ、各々装備を身に纏ってダンジョンへ行こう」


「おー!!」


 と手を掲げたのはアルだけ。


「あ、あの何かすいませんでした……」


 顔を赤くしたアルには言及せず、各々がダンジョンへ行く準備に向かった。



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