第29話


 ガラガラとリヤカーを引くアルを最後尾に、俺たちは新都の町に出ていた。


「こんな荷車を引かせるなんて、一体何を買わせるつもりですか?」


「エル、久しぶりだね。こうして町歩きをするなんて」


「そうだな。モユ。あの頃は、私が手を引いて歩いてたっけか」


「あの、だから、何を……」


「諦めな、アル」


「うう……」


 なんて会話をしながら歩く。


 正直いうと、俺もモユが何を考えているかは知りたい。なにやら作戦があるみたいだけれど、俺のプランに合致しないようなら止める必要がある。


「あ、ついたよ」


 辿り着いたのは道具屋。ファンタジー感満載のお店である。


「いらっしゃい」


 と店主に出迎えられて、モユはニコニコ笑顔で言った。


「中級ポーション、全てください」


 目を丸くする店主、エル、アル。俺も丸く、はならなかった。


 なるほどなぁ。


 モユはこの街の中級ポーションを買い占めるつもりなのだろう。


 狙いは主に2つ。


 物資によるゴリ押しダンジョン攻略。ポーションでの体力回復で、戦闘継続能力を高め、足りないステータスを補うのだろう。


 そしてもう一つはダンジョンの占有。ダンジョンには学生だけでなく、冒険者も集まる。そうなると、同時に潜った場合は、モンスターやドロップアイテムの取り合いが生じ、効率が悪くなる。そのため、中級ポーションという手頃な回復薬を買い占めることにより、回復薬が手に入らず、ダンジョンに潜るのに二の足を踏ませる作戦だろう。


 まさに金持ちモユさんならではの作戦だ。ついヒモになるのも悪くないかも、とまで思ってしまう。


「レインくんはわかってそうだね」


「ダンジョンの占有と物資のゴリ押しが目的なら、わかってる」


「正解」


 アルとエルもああなるほどといった顔をした。2人ともそれだけでわかるなんて、大したものだ、と思う。


「モユさん、もしかしてさっき言ってた私ならではの戦い方ってこれですか?」


「そうだよ。金に物言わせて勝つ。これが私の戦い方だね」


 アルがしら〜っとした目をする。


「アルくんは自腹で買ってもらおうかなぁ〜」


「す、すみません! 僕、お金ないんです! 精一杯働くので、許してください!」


 お金は偉大だな、なんて思いながら、ふとエルを見た。


 何だか不満そうな顔をしている。おかしいな、全肯定して、さすモユしそうなものなのに。


 まあ文句を言うほどでもないならどうでもいいか。


「じゃあアルくんが立場を理解したところで、次のお店に行こうか。店主さん、学園の寮にモユ・サドラーあてで配送お願いします」


 ぺこぺこ、とする店主に代金を支払って店を出る。


「あ、あのモユさん。配送なら、僕にリヤカーを引かせたのは……」


「特に意味はないよ。じゃ、次いこっか、レインくん!」


 モユが腕に抱きついてくる。


 エルの視線が痛いので、軽く引き剥がして次の店へ向かう。


 それから新都中の店を回り終えると、既に日は暮れかけていた。


「や、やっとこれで終わりですね」


「アルくんご苦労様。でももう一軒だけ廻ろう」


「もう一軒……」


「そんながっかりしないでよ。君に装備を買ってあげようっていうんだから」


「え!? いいんですか!?」


「いいよ。今日、頑張ってくれたしね」


 死んだ目をしていたアルの目が輝いた。流石は主人公、男の子だな。まあ、女なんだけど。


「いきましょう、早く行きましょう!」


 うきうきのアルにモユは笑い、小声で言った。


「ちゃんと可愛いやつ選んであげるからね」


 

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