第28話


「魔法の発動の仕方について、レイン君。答えてもらえるかな?」


 昨日のフランのせいで気怠いが、先生に指名されたので立って答える。


「彫りに水を注いで満たすように、魔法陣に魔力を流し込むことにより、その魔法陣に対応した魔法を発動させることができます」


「うむ。その通りだ。魔法陣を知っていても発動できない条件についても教えてくれるかな?」


「発動できない要因は主に3つ。魔力の操作技術が足りない技術不足、実戦経験不足、対応する魔法を満たすだけの魔力がない魔力不足です」


 というのがこの世界の通説。実際は、練度不足と、レベル不足と、ステータス不足。ちなみに言うと、魔法の行使は、魔導書ありの場合となしの場合があるが、違いは魔法陣の形を覚えているかどうかの差異でしかない。


「完璧だ。皆拍手するように」


 ぱちぱち、と拍手を送られながら着席する。


 無事答えられたのも当然、俺もちゃんと勉強している。ゲームの世界とは言え現実。入試から学問まで何から何まで実在するので、やらねばならない。


 そう思えば、研究、というのも単なるコマンドではなく、実際に知識をつけて、魔法陣を描くことで新たな魔法を作り出す必要がある。


 アルは研究に乗り気だったけど、やっぱダンジョンに潜った方が楽で効率的だな。


「鐘がなったな。それではこれで、今日の授業を終わりとする。今月は魔法の授業を中心とするので、よく学び、月末課題に役立てるように」


 としめた教師が教室を去る。


「レイン君、早速デートに行こっか?」


 しばらく席でたらたらしていると、モユにそう声をかけられた。


 甘ったるくてドキドキするような言い方に、しっかりドキドキさせられて歯噛みする。


「物資調達に町に行くだけだよね?」


「それをデートって言うんじゃないかなぁ?」


「何でもデートって言いたがる女子的な感性は持ち合わせてないんで」


「何でもデートなんて言わないよ。レイン君とどこかへ行く時だけ」


 それは何でもの範疇では?


 と冷静に返そうとしたが、モユが小悪魔っぽい顔で言ったせいで、うっ、と詰まった。からかわれてるのがわかる分、悔しい。からかわれてるだけではないんだろうけど。


「あ、あの〜」


 おそるおそるといった様子のアルがいつのまにかいた。


「どうしたんだい、アル君?」


「い、いや、デートなら僕らはどうすれば?」


「エルは一緒に行くよ。アル君はお留守番ね」


「ええ!?」


 冗談だよ〜、とからから笑うモユに、アルが助けての視線を送ってくる。


 俺を生贄に生き残った奴なんて知らないので、ぷいと顔を背けた。俺はめんどくさい奴なのだ。


「れ、レインさん、怒ってます?」


「怒ってないよ、全然」


「ご、ごめんなさい!」


「別に謝られることなんてないけど?」


「す、すみませんってばぁ」


 そんなやりとりしていると、冷えた声をかけられる。


「イチャイチャしないでくれるかなぁ?」


 モユの冷たい笑顔を見て、即アルを許すことに決めた。


「アル、許す。今後、このやりとりはやめよう」


「そ、そうですね……」


 なんて会話が終わると、期を見計ったようにエルが近づいてきた。


「モユ、他の班も行動し始めたようだし、そろそろ私たちも動くか?」


 あたりを見渡すと、すでに俺たち以外の生徒は教室を出ていた。


「そうだね、ボクらも行こっか」


「ああ。難敵に挑むのだから、一刻も惜しい」


「だね。ま、でも、ボクも彼女らに劣ってると思ってないし、もう少し気を抜いて行こうよ」


 やけに自信ありげのモユに、アルが『え、でも、魔法の技量で大きく劣って……』と言いたげな不安そうな目を向けている。


 アル、君はどうしてそう正直なんだ。


「アル君、今日荷物もちね」


「まだ何も言ってないじゃないですか!?」


「まだ?」


「うっ、荷物持ち頑張ります……」


「よろしい。ま、アル君が不安なのはわかる。でも、安心してくれ。私には私の戦い方があるってことを今日見せてあげるから」


「はあ」


「じゃ、早速行こっか」


 モユが歩き始めたので、そのあとを俺たちはついて行った。


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