第27話


「詫びに舐めさせろ」


 そんな声が聞こえたけれど、きっとそう、気のせいだろう。


「フラン、ごめん。聞き取れなかったから、もう一度言ってくれる?」


 尋ねると、黒い清々しい笑顔が返ってきた。


「詫びに舐めさせろ」


 ……聞き違いじゃないらしい。


 だとすれば、そんな提案受け入れられるはずがない。


「流石に、それはちょっと……」


「いいよ。それでいいってことならね?」


 殺意が放たれ、背筋が凍る。


 こ、こいつ本気だ。受け入れねば、関係の悪化どころの話じゃない。


「う、嘘! それで許してもらえるなら是非!」


「そう、なら遠慮なく」


 情欲の篭った瞳を向けられて、慌てて待ったをかける。


「ちょ、ちょっと待って。時間、時間に制限はかけよう」


 気づいたか、と言わんばかりに、フランは唇を尖らせる。だが織り込み済みだったようで、服のポケットから砂時計を取り出した。


「ちょうど30分の砂時計。これより少ない時間は妥協できないから」


 30分。それくらいなら何ともならないだろう。


 というより、そもそも舐められるだけ。何も怖がる必要はない。多少、くすぐったい時間が続くだろうが、それだけ。見た目以外全てを無視すれば、フランはただの超美少女。舐められることに嫌悪感はない。


 何だ。何も問題ないじゃないか。むしろ、それだけで最低な行いが許されるのだから、儲け物だ。


 ハハッ、ラッキー、と思う内心を表に出さぬように言う。


「わかった。じゃあ好きにしていいよ」


 フランはニタりと笑って、砂時計をひっくり返して机の上に置いた。


「じゃあベッドに座って」


 言われるがままにベッドに座ると、続けて指示が来る。


「左手を前に出して」


 利き手の逆を差し出すとフランはその前に屈み、そして優しく指だけで包んできた。


 柔らかい女の子の指がさわさわと動くと、くすぐったい感覚に耐えるようにと勝手に腹筋に力が入った。


 手のひらを、鳥の羽が滑るように優しく撫でられ、びくっと跳ねそうになる。今度は手の甲、指、また手のひら。何度も、優しく撫でられ、くすぐったさがじわじわと溜まっていく。


 何度も何度も続けられると、くすぐったさが快感に変わってきた。腹に力を入れてもぞくりとした快感が走るたびに堪らず息が漏れる。


 堪えるのに息を止めるせいで、顔が熱く息が苦しい。それでも唇を噛んで、じわじわと弱い快感に抗い続ける。


 苦しくなってきたけど、フランの柔らかい手つきは止まらない。


 器満杯の水に水滴がちょんちょんと加わるように、快感が溜まっていくのを唇を噛んで堪える。


 その時、ギリギリの状態の均衡を崩すように、フランの指が指の間に滑り込んできた。恋人繋ぎのような状態から、指の間を押し開けるように手を開かれ。


 まずい。


 指が開いたことによって力が抜けた。張っていた心の壁が無防備になるような、そんな感覚の中、フランの薄ピンクの唇が指に触れる。


「〜〜〜っ!?」


 湿った感触に快感の大波が押し寄せてきた。


 今まで小さな刺激に慣らされていたせいで、叫びたくなるほど苦しいにもかかわらず、追い討ちをかけるようにぬるぬると舌が指を這い回る。ちゅぱちゅぱと前後に吸われる刺激はあまりにも強く、勝手に目がぎゅっと閉じる。


 場所を変え、舐め方を変えられる。そのせいで、強い刺激に慣れることができない。ずっと強い快感に襲われ続けて、息が乱れに乱れる。


 不意にフランの動きが止まる。


 はあはあ、と荒い呼吸を整えながら、目蓋を開く。


 目の前には立ち上がったフラン。


 蕩け切って紅潮した顔。もう収まりが利かないといった顔。


 あ、あ、と絶望感に襲われながら、ちら、と砂時計を見た。


 まだ少し残っている。


 膝に重みを感じた瞬間、上半身が倒れた。


 馬乗りになられて逃げ場を失くされる。無防備となった恐怖は、上の服を無理やり脱がされてより強まる。


 フランが赤く艶かしい舌で自分の唇をちろりと舐めたかと思えば、距離が縮まって、首筋にぬるりとした感触が這う。


 堪えきれず、声が出た。


 もはや抗うなどと考えられないほどに頭が真っ白になり、思うがままに舐め尽くされる。そして、一際強い快感が走った時、声がかかる。


「ねえ? 一番舐めたいとこ舐めていい?」


 好きにして、と答えようと目を開けた時、とうに落ち切った砂時計が目に入る。


「だ、だめ! 時間!」


 何とか理性を取り戻し、そう言った。


「……まぁ、今日のところは満足したから、いいか。それに、案外ちょろそうだし」


 立ち上がったフランは、爽やかな夏空が似合ういつもの笑顔を浮かべた。


「またね! レイン!」


 フランが部屋から出ていくのを見届けると、脳の疲労からすぐに眠りに落ちた。


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