第26話
今後の方針がダンジョンに決まったところで、初日の会議は終わり。
明日からは早速ダンジョンに潜るための物資調達など街に繰り出すが、今日のところはやることがない。
会議が終わってから自室でぐだぐだしたのち、アルを夕食を誘って食堂へ。
「レ、レインさん、紅茶いかがですか?」
食事中から、妙に不審なアルを訝しむが、特に気にすることなく受け入れる。
「ありがとう」
「は、はい」
食堂で紅茶を淹れてくれるアル。
出来上がったダージリンはとても美味しく、アルに感謝の思いを抱く。
うん。ここ最近、アルに酷い対応を取り続けてしまったな。
悪いことをしたと反省する。
女であろうが、主人公であろうが、アルが友達なのには変わりない。友達を大切にしないといけないのは変わりない。
「アル」
「な、何ですか? あ、紅茶のおかわりですね!」
妙にせかせかと用意してきたティーカップを受け取る。
厚意を無下にするのは悪いので、紅茶を飲んでから、アルに優しい口調で告げる。
「最近、アルに雑な対応しつづけて悪かったな」
「え」
「明日からもモユにからかわれると思うけど、今度からは助け舟を出すことにするよ」
「や、やめてください」
意外な反応に首を傾げる。
何で?
「もしかして、からかわれるのが好きになった?」
「ぜんっぜん好きじゃありません! い、いや、そうでもないような気もしますけど、そうじゃないです!」
ん? だとしたら、どういう理由だろう?
「その、なんというか、優しくされると決意が鈍ると言うか……」
「どういうこと?」
「い、いや何でもないです! 僕も死にたくないんです!」
何の話だ。ああ、死にたくない、ってダンジョンの話か。
要領を得ない言葉も、きっとダンジョンに潜ることの不安によるものだろう。
ならば、妙に紅茶を勧めてくる理由もわかる。
俺を紅茶で落ち着かせ、ダンジョンで慌てないようにしたいのだろう。
ほろり。自分のことで一杯一杯なはずなのに、俺を案じるアルの優しさに涙が出そうだ。
「レインさん、もう一杯いかがですか?」
「ああ、頂くよ。アル、俺が守るから、ダンジョンのことは安心していいよ」
白い頬に薄ピンクがさしたアル。だが、その表情はすぐに変わり、哀れみの目を向けてきた。
「……使い物にならなくなって、僕が守ることにならなきゃいいんですけど」
「小声で聞き取れなかったんだけど?」
「いえ! それよりこの後、レインさんのお部屋にお邪魔していいですか?」
「いいけど、どうして?」
「本を読ませていただけないかな〜、と」
目をそらしてそう言ったアルに、いいよ、と答える。
「じゃあこれ飲んだら、部屋に戻ろうか」
「あ、えと、もう少し飲みませんか?」
気遣いを無下にはできず、5杯くらい紅茶を飲んで部屋に戻る。
「じゃあ入って」
部屋の鍵やら荷物を棚の上におきながらそう言うと、アルはゆっくりと入ってきた。
「そ、それじゃあ、本を読ませていただきますね」
そうアルが本を読み出して数分したのち、尿意を催す。
「アル、トイレ行ってくるけど、自由にしてて」
「は、はい」
と部屋から出て、トイレへ。
部屋に戻ると、扉の前でアルと出会す。
「もう本はいいの?」
「は、はい、ありがとうございました」
「そっか。じゃあね、アル。また明日」
「……はい。生きてまた会いましょう」
アルはそう言って去っていった。
「さて、と」
大きく伸びをして、シャワーを浴びることに決める。
前の経験からしっかりと部屋の内鍵をしめて、浴室へ。
シャワーを浴びながら思う。
『……はい。生きてまた会いましょう』
そう言って去っていったアルを可愛く思う。
もうダンジョンに潜るみたいな気分なのだろうな。
可愛いけれど、気合の入りすぎはよくない。アルの緊張をほぐすために何か考えないとな。
そんな労も苦じゃない。それはやはり、アルがいいやつだからだろう。
なんて考えながら、シャワーを浴び終える。
浴室でパジャマに着替えて、そのまま出る。
黒い笑顔のフランがベッドに座っている。
目をゴシゴシ。
黒い笑顔のフランがベッドに座っている。
目をゴシゴシ。
黒い笑顔のフランがベッドに座っている。
どうして? 部屋の鍵は閉めたは……ず。
アルの顔が思い浮かぶ。
妙に勧めてきた紅茶はトイレに立たせるため。部屋に本を読みにきたのは、俺から部屋の鍵をかすめとるため。
今までの言動が全てつながる。
あ、アルめぇ! フランに鍵を奪うよう言われていたなぁ! やっぱあいつスパイだったじゃないか!
くっ、絶対、泣かせてやる、と歩き始めたが、冷たい声に凍りつかされる。
「どこいくの、レイン?」
「フ、フラン。そ、その、ごめん」
「楽しみにしてるって言った私に何も告げず、当日あっさりと別の嫌いな女の班に所属。別に他の班に所属することはこの際いいよ。でも、何の説明も断りもないのは違う。それは期待する私を軽視して、裏切ることだから」
「あ、あの、それは本当に申し訳ないと……」
「ううん、謝罪を聞きたいわけじゃあないんだぁ」
フランは黒い笑顔のまま言った。
「詫びに舐めさせろ」
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