第23話
殺人を決意した清々しい笑顔のフランに、モユが俺を守るようにして立ちはだかった。
「何か用かな?」
モユの背中が大きく見える。
「ごめん、ちょっとレインに用があるんだ〜……退いて?」
「それは出来ない相談だね。何たってレインくんは私の班員だから、害なす人からは守らないとね」
ピキ、と空気が凍る。
「そっか。まあ皆の前だし、やめとくよ。モユ? このこと覚えておくね」
「うん。しかと覚えておくがいいさ〜」
すんなりとフランは立ち去り、自分の班員を集めはじめた。何も変わらぬフランの様子に、クラスメイトはさっきのことは見間違えだったんだと、各自班長のもとへ向かう。その班長は一連のやりとりを見た後、妙にメラメラとしたオーラを纏っていた。
「じゃあレインくん、このあと作戦会議するのに、場所とっておくね。そうだな、16時にカフェテリアに集合でどうかい?」
「え、あ、うん。了解」
「それじゃあね!」
とモユはるんるんで教室から出ていった。すると、がくぶるのアルが来て、耳打ちされる。
「レ、レインさん、何があったかわかりませんが、あとでフランに謝りに行きましょう」
「気が進まない、がすぎるけど、もとより謝りには行くつもりだったよ」
フランが俺とアルと組むことを楽しみにしているのはわかっていたので、謝るつもりだった。
ちなみに、さきに断りを入れなかったのは、説得されたりしてフランの班に入らされることを恐れたのが50%、言い出せば殺されるかもしれないという恐怖に先送りにしたのが50%だ。いや、ほぼ後者かもしれない。
「ちゃんと、誠意を持って謝りましょう。フラン、めちゃくちゃキレてます。モユさんに煽られて、相当キレてます」
「そう? さっきの会話はそこまで煽ってたように思えないけど?」
「レインさんはモユさんの目を見ましたか?」
「目?」
「はい。目が語ってました」
目は口ほどに物を言うとも聞く。俺は背中しか見えなかったけど、一体、どんな目をしていたのか。
「どんな目をしてたの?」
尋ねるとアルは深呼吸してから言った。
「あ、あー! 選ばれなかった雑魚じゃん! 雑魚、雑魚! よわ、え? よわ? よわわ〜、よわよわの、よわわ〜。ざこざこざこざこざ〜こ♡ え? 選ばれなかった? なんでなでなでなんでぇ〜? なんで選ばれなかったのぉ? み、魅力? 魅力でしょうか、先生? ごめんね、ボクに魅力がありすぎて? はわわ〜、負け犬さんだぁ〜、はわわ〜。負けちゃったの? 可哀想〜。って、ってかあれ? え? 何もしてないのに勝っちゃった? ごめんね〜、あまりに強すぎてごめんね〜。あ、泣かないで! 元気出してよわたん! 応援してあげるね? よわたん、いぇい! よわたん、いぇい!」
口程、どころじゃねえ。
他二人もメラメラしてたのはこれが理由か。
改めて、良好なハーレムなんてお伽話だと思う。
やはり、アルに頑張ってもらうしかない。
「アル」
「何ですか?」
「モユともフランとも仲良くするんだよ」
「……出来ますかね?」
「アルなら出来る、やるんだ」
「まあモユさんの班に入ったからには、頑張ってはみますけど……」
流石、主人公。前向きだ。
やはりアルは主人公に変わりないし、きっと良好な関係を築いてくれるに違いない。今のところ物語から外れていないし、ハーレムルートも不可能ではないだろう。
ただ、そう簡単にいかないことは間違いない。
色々と障害は考えられるが、まずなにより、苦手な分野で優秀なヒロインズを差し置いて一位にならなければならないのだ。
「ところで、レインさん?」
「なに?」
「レインさんの言う通りにモユさんの班に入りましたけど……」
「言う通りに?」
「……奇遇にも、一緒の班になりましたけど、どうしてモユさんの班に決めたのですか?」
もちろん、ハーレムルートのため。ミレニアの皆のため。自分の命のため。だけど、それらは答えることができないし、別にある気持ちを理由にする。
「モユは魔法を使えないわけではないけど、他三人に比べたら大きく見劣りする。だから人が集まらないのはわかってたし、力になりたいなぁ、と」
「レインさん……すみません。最近の僕の扱いが酷すぎて、レインさんが優しい人なのを忘れていました」
話した理由は第5位くらいなので優しくはない。けど訂正しても美味しくないので、黙っておく。
「そういうことだから頑張ろうね、アル」
「はい! そういうことなら、やる気が出てきました! まずは作戦会議、いい案を考えておきます!」
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