第22話


 フランに殺意のこもった声を贈られる。


 皆がフランの顔を見るが、ニコニコしていたので、聞き間違えだとして、視線を前に戻した。


 楽しみにしていたフランには悪いが、ここでモユを選ぶことは必須なのだ。


 記憶をフランと別れた夜まで巻き戻す。


 ***


「すいませんでした」


 アルの部屋。


 正座で向かい合うアルはしばらくの沈黙ののち、包容力のある笑みを浮かべた。


「謝ってくださったので許します。というより、不用意だったことも、隠していたことも悪かったですし。それに」


「それに?」


「そ、その、大切に思ってもらえてることがわかって、ちょっぴり嬉しかったです」


「ありがとう、アル。あと下の毛は剃った方がまだマシだよ」


「まだ生えてくることに望みを繋いでるんです。じゃなくて、やっぱ反省してないですよね?」


「反省はしてる。反省した上で、相談がある」


 アルが露骨に嫌な顔に変わる。


「こういうときのレインさん、絶対ろくなこと言わなそうなんですが」


 短い付き合いだが、俺のことをよくわかってる。


「これから始まる月末課題。おそらくだけど、ローレル、モユ、シリル、フランの四人が班長に選出される。アルはその中で誰の班に希望しようと思ってる?」


「え、それはフランですけど」


「俺はアルの秘密を知ったわけだ。それも吹聴されたら、困りに困るほどの」


「脅してるんですか!? フ、フランじゃダメなんですか?」


「脅してなんかないよ。ただ今のままだと口が滑るかもしれない」


「じゃ、じゃあ、ローレルさんは?」


「俺は口が重い方じゃないんだ」


「う、うぅ。なら、まだ、シリル様の方が……」


「アルが女の子だったなんて。あ、ごめん、独り言が」


「わ、わかりました! モユ様の班に入りたいです!」


「奇遇だな、俺もそこに入ろうと思ってたんだ」


「奇遇ですね……」


 よかった。アルもモユの班に入るつもりだったみたいだ。


 アルのハーレムルートに入る条件。それは元首候補、それぞれの苦手な月末課題で一位をとることだ。


 一番最初の月末課題は魔法試験。もっとも不得意なモユを、アルは主人公として一位に導く役目があったので、一安心である。


「じゃあそういうことで、よろしくね」


「……僕の学園生活が」


 嘆きの声を背中に受けながら、俺は去った。



 ***


 というわけで、モユの班に希望し無事配属。


 フランの殺意高めの視線、シリルのひぐぅという悲しそうな視線、ローレルのぐぬぬという悔しそうな視線に気づかぬふりをして、班分けの様子を眺める。


 ゲーム通りの魔法試験は、希望した班に所属できるが、一班につき、班長と同じ国の生徒は1人までしか所属できないルールだ。そのため多くの生徒は、他国の班長の班に所属しなければいけないため、いい成績を残したい生徒は、前評判からフラン、ついでローレルの班に希望し、女子はシリルの班を希望した。


 結果、フラン8、ローレル7、シリル6、モユ4という人数の振り分け。ゲームとも乖離していないし、妥当な結果だろう。


「それでは班わけが終わったところで、再度この試験について説明いたします」


 先生の説明に耳を傾ける。


「今回の魔法試験。月末までに各自協力して研究し、新たな魔法を開発して、新都の魔術師に発表してもらいます。こう聞くと難しいと思うでしょうが、既存の魔法を改善、改良した場合でも、新たな魔法とみなしますので、そう難度は高くないでしょう。また、ダンジョンに潜るなどして、新たな魔導書を手にした場合も開発とみなします」


「注意点としては、いくつ開発しても構いませんが、発表できるのは一つです。人数をかけて複数の魔法を開発するのもいいですが、一つに絞った方が賢明かと思われます」


「これからの午後は、課題に向けての活動にあててもらいます。我々教員は介入しませんので、自主性を持って行動するように」


 最後に先生は「質問は随時受付けますので、気軽にきてください」としめた。


 まあなんとも投げやりなことで、とは思うけれど、自主性を育てる意味合いならこんなものだろう。


 先生が教室から出ていくと、各班にわかれて、作戦会議……になる前に。


 フランが清々しい笑顔を浮かべて近づいてくる。


「ねえ、レイン。命乞いするなら、聞いてはあげるけど?」


 あまりの圧に、俺は死を覚悟した。



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