第14話


 興奮し切って、風邪をひいたように紅潮した顔。とろんと蕩けた情欲たっぷりの目。はぁはぁ、と荒い吐息。垂れ下がった綺麗な真紅の髪からは、カスタードクリームのような滑らかな甘さの香りが漂ってくる。


 まずい。完全にメスになってらっしゃる。


 押しのけるか? いや、ここで押しのけて嫌われては一貫の終わり。そもそもここで、押しのけるくらいなら、最初からやっとけって話だ。


 なら、説得……は無理なことはわかる。


 黙って受け入れるしかないのか、いやそれは大切な何かが壊れてしまう気がする。


 俺はあくまで兄だ。妹の反倫理的な行為はやめさせねばならない。それに、皆を平等に接する義務があると断言したその日のうちに、誰か一人を贔屓するわけにはいかない。


 などと、強がってみるが、ただ怖いだけ。ひたすらに怖いだけ。


 逃げるいい方法が思い浮かぶまで、時間を稼がないと。


「ローレル。や、やめよう、こんなこと」


「するが?」


「俺は皆と平等に接する義務が……うむっ!?」


 唇を舐められる。ぬるっとした感触にふわっと浮くような快感がきて、何も考えられなくなってしまう。だけど、ぞくぞく、と震えたローレルを見て、恐怖だけはしっかりと覚えた。


「好き。キス……好き」


 唇をちゅっと合わされたと思えば、啄まれる。ぴちゃっとした音に耳に響いて、こそばゆさに身が震えた。


 また啄まれる。何度も何度も啄まれる。


 唇が軽く引っ張られては戻る。そんな弱い刺激なのに、甘い快感が胸に溜まって、もどかしくなってくる。


 ローレルの顔がさらに甘く溶けて。それは見るだけで興奮の熱が伝わってきそうなほどで。そしてその顔が近づいてきて、唇を押しつけられる。


 今度は離されることはない。ただくっつけているだけなのに、甘い快感で頭の中がさらに白くなっていく。甘い胸のもどかしさも、加速していく。


 息が苦しくなって、口を開けると、下唇をはむように貪られた。上唇も同様に。はまれ、貪られる。次第に上下の感覚がなくなり、そのまま食べられてしまうのではないか、というくらいの激しいキスに、息つく間もなくなった。


 酸素の限界、胸のもどかしさの限界がせまり、口を開いた時だった。


 ここぞとばかりに、にゅるにゅると舌が口内に入り込んでくる。僅かに残った理性で必死に舌を逃げ惑わせるが、容赦無く絡みとられる。


 押され、引っ張られ、こねられ、吸われ。頬の裏から歯の裏まで舐めこそがれ。


 口内を蹂躙されるたびに、強い快感が一気に流れ込んでくる。もどかしさが解放されたカタルシスで、残った理性が吹き飛ばされる。もはや抗うことができず、自ら舌を伸ばし、このまま喰われることを受け入れた時だった。


「レイン、いる〜?」


 ドアを叩く音と声に、ローレルが体を起こした。


 冷静さが戻って、助かった、と安堵する。


 はあ。よくきてくれた、フラ……ン?


 急激に冷える。


 脳内がパニックを起こす。


 まずい、まずい、まずい、まずい、まずい。


 今の状況に、冷や汗がどっと湧き出た。

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