第33話
「レイン、ロレンツォ、面を上げよ」
ははっ、と顔を上げる。久方ぶりに見る父の顔は、以前となんら変わっていなかった。
「お久しぶりにございます、お父様。御壮健のようで何より」
「うむ。レイン、お前も元気のようで嬉しいぞ」
そう言う父の顔は全く嬉しそうじゃない。でもかといって、嫌そうではない。例えるなら、ただの社交辞令を言うときのような顔だ。
久しぶりに息子と会えたのだから、もう少し何かあってもいいのに。この人、ほんと、俺のことどうでもいいんだな。
「ロレンツォも久しいな」
「はっ」
「ロレンツォ、話は聞いている。見事ミレニアを発展させたようだな、この国の王として礼を言う」
それに、と父は続ける。
「モジュー家においてもよい働きだ。他国にローレルの父である、お前の名が売れることは、票が見込めなかった地域からの得票につながるからな」
「お褒めにあずかり光栄です」
「今後も、クウエスト家の子であるローレルと、この国のために励んでくれ」
父の言葉に、ローレルが人質であることの脅しと、ローレルの父として威張ることは許さないといった意思表示も含まれていた。
ロレンツォは当然気づいているだろうけど、顔色を変えずにかしこまった。
「承知いたしました」
「レイン、お前もだ。今後も国をローレルを支えるのだぞ」
意訳すると、お前も変なこと考えるなよ、ローレルの代わりに元首候補になろうとするなよ、だ。
「無論にございます」
「うむ。最後にレインよ、ローレルの誕生会においてだが、厳命すべきことがある」
「一体、何でしょうか?」
「お前は既に立派な公爵なのだ。国に仕える貴族としての誇りを持ち、ミレニアの名を取ってミレニア公と名乗るように」
クウエストではなく、か。
俺は辟易しているのを顔に出さないように、かしこまりました、と答えた。
***
父との謁見が終わって、ロレンツォは王都の邸宅、俺は久しぶりの自室へ向かった。
部屋に帰り、ソファーに寝ころんで寛ぐ。
ローレルを元首候補にすることに、父は何の迷いもしてなさそうだったな。
功績を立てている俺をさしおいて、何の功績もないローレルを元首候補に選んでいる、という今の状況。何の迷いもない、というのは明らかに不自然で、物語の修正力というやつが働いてそう。
物語の修正力、か。
存在するかしないか曖昧だったけれど、存在すると確定してもいいかもしれない。
だとすればやはり、ちゃんと恩を売らないとな。
そんなことを考えていると、扉がバン、と開いた。
「お兄様!!」
入って来たのは、訓練服姿のローレル。どうやら訓練後のようで、所々砂で汚れている。
「やあ、ローレル。扉はもう少しゆっくり開けようね、あとノック」
上半身を起き上げて、俺はそう言った。
「わかった。それより、1ヶ月ぶりだな、お兄様!」
それより、なんかい。というか、近づいてくるんだけど。
「ローレル?」
ローレルは何も答えず、俺の膝の上に乗って来た。訓練後というのに、汗の匂いはしない。その代わり、ローレルの甘い香りが濃いような気がした。
「お兄様、前は甘えられなかった分、今日は存分に甘えるぞ」
熱っぽい目で見下ろされ、危機感を覚える。
やばい、意識をそらさないと!
「あ、ああ、ローレル。きょ、今日も訓練してたの?」
「うん。訓練を欠かさない日はないな」
「へ、へえ〜、すごいね!」
「いや、強くなりたいから好きでしているだけだ。無力なのを知った、お義父様に呼び出されたあの日から……あれ?」
ローレルは不思議そうに首をかしげた。
「あの日、お兄様は私に何て言っていたっけ?」
ま、まずい! いい暮らしをさせろ、とか、可愛いお嫁さん、と幸せな家庭を築かせろ、とか、要求しまくったのを思い出されるのはまずい!
「よーし、よしよし。ローレルは頑張ってて偉いな」
「えへへ。じゃあご褒美を貰っていいな、お兄様?」
「それはよくな……んんっ!?」
息が苦しくなるまで、淫乱レッドにちゅるちゅると吸われた。
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