第31話


 モユとローレルの機嫌を必死でとって夕食を終える。言うまでもないことだが、飯の味はしなかった。


 帰宅して自室に入ると、崩れ落ちるようにベッドに寝転ぶ。


 何度も何度も思うが、好感度が高いのは嬉しいけど、よろしいことではない。


 はあ、シリルには気を付けないと。


 シリル・デインヒル。北のデインヒルの王女で、王子様系ヒロイン。


 彼女は、デインヒル国が不作から飢饉に陥った経験から農業生産の向上を目指して元首候補になる。


 そのため、シリルに恩を売るなら、大量の食糧を支給しなければならない。だが、それは難しいことではない。ミレニアには金がある、先を見越して食糧を貯めておけばいいだけだ。


 それに、デインヒルにいる、偏屈な天才農学者のザートを紹介するだけでもいい。彼は不作になることを見越して、国に直訴するが、門前払いを食らうことになる。だが、飢饉後、彼は登用され、デインヒルの農業を立て直すのだ。


 そんなザートを早めに登用するよう、シリルを説得すれば、飢饉は起きずに済む。


 だから、恩を売るのは、ローレル、モユの時みたいに難しくない。


 問題は、シリルが超絶ちょろいということだ。


 シリルは元首候補として嘗められないように、男のように王子様のように矯正されて来た。そのため、女の子扱いに弱い。


 例を挙げると、こんなワンシーン。


「女の子に怪我させるわけにはいかないよ」


「わ、わわわ、私が、女の子!?」


 と顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせる。


 次にこんなワンシーン。


「そんなミスをするなんて、シリル様は可愛いですね」


「わ、わわわ、私がか、かわいい!? わ、わわわ、私のことを女の子として見てるのか!?」


 と顔を真っ赤にして目をぐるぐるさせる。


 最後にこんなワンシーン。


「あ、シリル様の髪、外の光を浴びるとより綺麗ですね」


「髪が綺麗? つまりは女の子っぽい? わ、わわわ、私が女の子!?


 とまあ、そんな感じでバカちょろいのだ。


 だから決して女の子扱いしてはいけないが、何がきっかけで女の子扱いに繋げられるかわからない。


 誕生日会で好感度を上げてしまわないように気を付けないと。


 俺はそう誓って、目を閉じた。


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