第29話


 冷えた声に目を向ければ、目からハイライトが消えたローレルがそこにいた。


「や、やぁローレル久しぶりだね。元気してた?」


「ああ、元気にしていたぞ」


「そ、そっかぁ! 良かっ……」


「今この瞬間まで」


 ピキリと、凍った音がした。


「ねえ、レイン君。この女の子誰?」


 モユは、俺の腰に腕を回したまま、達磨さんが転んだみたいに振り向いた。


「い、いや、義妹だけど」


「何だぁ、じゃあ私にとっても義妹だね」


「は?」


 ローレルから発せられた、冷たく低い、は?。聞くものを凍りつかせる、は?。


 おおよそ、女児が出していい、は? じゃないんだよなぁ……。


「怖いよぉ、レイン君」


 ひしっ、と抱きついてくるモユだけど、絶対にこいつ恐いと思ってない。抱きつく理由できてめっけもんや、程度にしか思っていないだろう。


 そしてその行為は、当然ローレルの感情を逆撫でる行為なわけで。


「お兄様、その女やっちゃっていい?」


「何をやるつもりかわからないけど、やっちゃダメ」


「うう……」


 あ、ローレルが涙目になっちゃった。


「せっかく会えたのに、お兄様が私を無視して、変な女ばっかり優遇する。うう、お兄様なんて……」


「よ、よし!! ローレル、おいで!! さあモユ、離れるんだ!」


 危ない、大嫌いになられるところだった。嫌いになられたら恩を売った意味がない、将来殺される可能性が上がってしまう。


「酷いよ、レイン君。ボクじゃなくて、その娘を選ぶの? こんなに好きなのに、そんなことされたら、嫌いに……」


「よし! モユ、ステイ!! そのままでよし!! ローレルもおいで!」


 そう言うと、二人が膨れた。


「お兄様! どうして私を選んでくれないんだ!」


「レインくん! ボクじゃダメなの!?」


 うう、どうしたらいいんだよ……。


 助けを求めてカレンを見ると、なんか嬉しそうにしてるし。くっ、人ごとだからと言って! じゃあ、ロレンツォは……。


「モユ、ローレル。今すぐ喧嘩をやめるんだ」


「なぜだ?」


「そうだよ、どうしてだい?」


「ロレンツォが泣いてる」


「へ?」


「数年ぶりに会えた娘が、取引先のお嬢さんと、上司の息子を取り合っている、という事にどうしたらいいのかわからなくて泣いてる」


 すっと、モユが離れた。


「あの、ロレンツォさん、ごめん」


「そのぅ、お父様、悪かった」


 二人の謝罪に、ロレンツォは「謝られるのが一番キくのですけど」と涙声で言った。超、気の毒。



 ***


 あの後、ローレルは呼び出したチーク、モユはカレンに連れられて観光、ロレンツォは俺が慰める、ということで落ち着いた。


 たっぷり3時間かけて大のおじさんを慰め終え、俺は一人執務室に帰ってきた。


「ふぅ」


 と一息。


 ローレルもモユも俺のことを好いてくれていた。それは嬉しいことではあるのだけれど、手放しには喜べない。


 モユもローレルも俺に会いに来た、そして実際に会ってしまった。


 それは、いくら俺がストーリーに関わらないようにしても、あっちから関わりにこられれば避けられないということ。物語が始まった状態で会いにこられれば、ストーリーに関わる可能性があるということ。


 モユ、ローレルの件から、物語の修正力、運命があるとするならば、ストーリーに関わり、物語に巻き込まれてしまえば、どんな形で悪役に仕立て上げられるかわからない。


「好感度が低いと殺されちゃうけど、高いというのも考えものだなぁ」


 そう思うと、次に恩を売る相手、王子様系ヒロインことシリル・デインヒル、彼女に接する時は気をつけなければならない。


 というのも、彼女は……超絶チョロいのだ。


「レイン様!!」


 バン、と扉が開いて町長が入ってきた。慌てて来たようで息を切らしている。


「どうしたの、町長?」


「カレンとチークから伝令が!!」


「モユとローレルにつけた二人じゃん。どしたの?」


「モユ様はポーカーで勝ちを重ねすぎて、逆にローレル様は競馬で負けが込んで……」


「うん、二人とも出禁で」



————————————————————————————————————あたたかいお言葉ありがとうございました!更新頑張ります!

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