第28話
お待たせいたしました。死ぬほど忙しい時期が終わったので、毎日更新再開します。夜22:00更新です。あと、他作も週一更新開始しますので、よかったら是非。
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ジュースを飲みながら、ポスポスとハンコを押し、昼からは優雅に昼寝。日差しが弱くなった午後3時以降に、リフレッシュのための散歩ついでの視察。夜に、観光に来たお偉方に挨拶しないといけないのは、ちと面倒だが、美味い飯を食えばそんなものは吹き飛ぶ。風呂に入ってふかふかのベッドに入り、起きるまで熟睡。
それがここ1ヶ月の華麗でまっこと雅な生活で、今日もそんな一日が始まる。
予定だった。
「レイン様、本日の予定ですが」
「ああ、カレン。今日は何だい? そうだなぁ、ハンコのお供は、リンゴジュースの気分かなぁ」
「いえ、レイン様の妹君のご来客がありますので、今日は是非お二人でお過ごしください」
「は? 何て?」
「ローレル様がいらっしゃいますので、レイン様はどうか兄妹で素敵な時間をお過ごしください。そのために、実は昨日に仕事を前倒ししておいたのですよ!」
「え、いや、じゃなくて、聞いてないんだけど」
「サプライズです!」
ちょっと得意げそうにしているカレン。
そっか! ローレルと会えるんだ! 久々に親しい妹と過ごせるなんて! こんなに嬉しいことはない! なんて嬉しい、さーぷらーいず、だ!
とは思わない。
「あー、ちょっと具合悪くなってきちゃったなぁー」
「ええ!?」
「うん、その、なに。ローレルのことは頼んだ、適当に満足させておいて」
さーてと、おふとん、おふとん。
ローレルには申し訳ないし、久方ぶりに会いたい思いはある。だけどモユ同様、ストーリーが終わるまでは関わらないことに決めている。
呆然とするカレンを置いて、部屋を出ようとしたその時、扉が開く。
自然に身構えたが、人を見て肩の力を抜いた。
「なんだ、ロレンツォか」
「え、1ヶ月ぶりの人に対して、なんだ、ってなんですか、レイン様」
「いや、それはごめん」
と謝った時だった、ロレンツォの脇から何かが飛び出してきて、絡みつかれる。
「久しぶり!」
声を聞いて、再び肩に力がはいる。視線を下げると、ミルクティー色の髪。女の子の甘い香りと小さいながらも柔らかな感触に、誰か察する。
「ロレンツォ、これは?」
「これって何だい、酷いなぁ、もう」
ロレンツォが優しい顔をするだけで、答えてくれないので、俺は渋々、モユに尋ねた。
「モユ、どうしてここに? あと離れて」
「うん、実はね。お父様から勉強するように言い渡されてね」
「勉強? あと離れて」
「そう勉強。あんなことがあったからさ、お父様も懲りて政務の勉強をし直しているんだけど、ボクや妹にもしっかりと知識を身につけておくべきだ〜って教育方針が変わってね。それに、自分じゃ不甲斐ないからって、ボクと妹がちゃんと出来るようになったら、代替わりをさせようとって感じでさ」
「はあ。それで今どうしてここにいるの? あと離れて」
「モジュー家にミレニアの第二の歓楽街を作るんだから、勉強の一貫で、現場を見ておかないとってね。あ、もしかして、ボクがレイン君に会いにきたと思った?」
あ、ちがうんだ。てっきり、俺に会いにきたもんだ、と思った。なんかそう考えると、自意識過剰だったみたいで恥ずかしい。そしてこの、からかい系ボクっ娘にいいようにされているようで悔しい。
「あ、心臓の鼓動が早くなった。やっぱり、そう思ってくれてたんだ。ねえ、嬉しい? ボクが来て嬉しい?」
「いや、それは全く」
そう言うと、モユは不意に離れた。そして悲しそうな笑顔を浮かべた。それは、月を映す夜の水面みたいな儚げな笑顔だった。
「あ、あはは。だよね、ボク浮かれてたよ。ごめんね、やっぱり、ボクみたいなのがいたら、鬱陶しいよね?」
罪悪感に駆られて、早口で喋る。
「違う、違う、違う! そう、嬉しい! 嬉しいなぁー、本当!」
「そうかなぁ、だってボク、君に酷いこと言ったし……」
「いや、そんなこと気にしてないから!」
「本当?」
「うん、本当!」
「じゃあ抱きつかれても嬉しい?」
「うん! ……うん?」
「やったぁ!」
またモユに抱きつかれた。
あれ? いいようにされてない? だとしたらどこが本当でどこが嘘?
こいつ、さらにしたたかに……というか、ゲームのモユに近づいてやがる。
そう思うと、気になることが出てきた。
「なぁ、ロレンツォ。モユは勉強していると言ってたけど、実際成績というか、その辺はどんなもんなんだ?」
「才能の塊ですね。吸収が早く、簡単な仕事なら既にこなせています。商業については、これから知識をつけると思うと、私なんかじゃ手も足も出なくなると思いますし、いずれ、モジュー家を大きく発展させるでしょう」
「そ、そう」
やはり俺の行動、侯爵家の顛末に関わらず、物語の筋は大きく変わっていない、か。きっとモユは、これから功績を残し、元首候補となるだろう。
そう考えると、やはり、どこで俺が悪役として仕立て上げられるかわからないからストーリーには関わってはいけないし、念のために恩を売っておかないといけない。
でも、それに意味はあるのだろうか。結局、運命の渦に飲まれ、俺には破滅の未来しか待っていないのではないだろうか。
いやでも、確実に歴史が変わっているのは変わっている。小さな綻びだとしても、まだ諦めるには早い。
次だ、次のヒロインに恩を売らないと。
そう決意した時、空気を凍らせるほど冷たい声が響いた。
「お兄様、その女、誰?」
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