第14話

 そうだ新都、行こう。


 と思い立ち、会議で決まった計画が始まるのを見届けてすぐ、俺とロレンツォ将軍は新都へ旅立っていた。


「新都は凄いな」


 広さで言えば、ミレニアの倍ほど大きい。その上、町の賑わいがすごい。いくつもの大通りに馬車がひっきりなしに走り、市場は間隔もないくらいにテントが並び立っている。


 どこを見ても、人人人。客引きや雑談、人の声が聞こえないことはない。商店のドアなんか閉まる暇がないくらいで、ずっと開きっぱなしなんじゃないかと思う。


 都の最奥には、そんな人々、建物を見下ろすように、城のような連邦の議事堂が建っている。他にも、図書館、ゲームで通うことになる学園など、ここにないものがないくらいに様々な建物もある。


 いずれは、ミレニアもこの都のように発展すればいいなあ。


 なんて思いながら町歩きしていると、新都にある王家の別邸に到着した。


「レイン様、宿泊、滞在の手続きが終わりましたよ」


 案内された一室で待っていると、滞在についてのあれやこれを終えたロレンツォ将軍が帰ってきた。


「ありがとうございます」


「いえ。これから、どういたしますか? 観光でも?」


「遊びに来たわけではないのですよ。ロレンツォ将軍には、早速、水晶の換金。そのあとは、もてるパイプを使って、公爵領の噂を流してもらいます」


 新都にきた目的の一つはこれ。各国の商人、貴族が集まる新都ならば、水晶の需要があって、換金が容易だ。それに多くの人がいる新都に噂を広げれば、母数が多い分、成果は見こめるだろう。


「はあ。まあ、わかりましたが、それより、その水晶の出どころ、一体どこなんです? そろそろお話くださいませんか?」


 会議の日から、ずっと聞かれてるんだよな。てか、疑われてる。


「後ろ暗いことはないので、心配しなくてもいいです。それに、出どころも、そのうち話します」


 別に話してもいいけれど、信じてもらえないだろうから、こうやって濁していた。


「承知しました。では、私は換金と知人を尋ねますが、その間、レイン様はいかがなされるのですか?」


「俺は劇場に行きます」


「ええ……。遊びに来たわけではないって仰ったのに」


 心外だ! 恨めがましい目で見るな! 


「遊びではありません! 会議でポンドの言ったことを思い出してください!」


「はあ。たしか、観光業は、なにより知名度がものを言うが、ここミレニアの知名度は高くはないぞ、と」


「ピンポイントで当てるの凄いですね」


「そりゃまあ、レイン様が、知名度についてはあてがある、と仰ってたので、そのことかと」


 この人、なんやかんや、聡いよな。将軍やってるだけあるか。


「まあそうです。そこで、知名度を上げるために、劇団に宣伝をしてもらおう思ってます」


「劇団に、ですか? たしかに、町民から商人、貴族まで、多くの人々の目に触れるいい案か、と思われますが。でも、一体、どうやって?」


「スポンサーになる」


 頭の上にハテナが浮かんでるな、ちゃんと説明するか。


「演劇には大道具、役者、脚本家、様々な費用がかかる。だから、そういったものに出資する代わりに、うちの宣伝をしてもらう」


 ロレンツォ将軍は、なるほど、と頷いた。


「まあそういうわけで、俺は交渉に行ってくる。子供とは言え、仮にも一国の王子で公爵だ。話くらいは聞いてもらえるだろうさ」


「ですね。では、道中の護衛は、別邸の警備のものに頼んでおきます」


 護衛なんていらないけれど、ないのも不自然か。


「わかった。じゃあ警備の準備が整い次第、劇場に向かうことにする」



 ***


 開演してもいないのに、舞台の前にはあふれんばかりの人が並んでいた。


 貴族、大商人用の二階席から、手すりに腕を預けて見下ろしているだけ。なのに、人の熱気をありありと感じる。周りを見ると、沢山の身なりのいい老若男女が舞台に目を向けていて、熱気の元はここからもか、と思う。


 やっぱすごいなあ、演劇。


 オトダチの世界観は中世ファンタジー風。大衆の娯楽といえば演劇というのが定番で、この世界も例に漏れていないのだろう。


「うん、ここに目をつけて良かった」


 なんて独り言を漏らした時、肩を叩かれた。


「あ、別に、独り言で」


 と、振り向いたが誰もいない。


 また前を向くと、肩を叩かれた。


 振り向く、と、頬に指が刺さった。


「あはは」


 俺の頬を指で突っついてきた女の子を見て、俺は固まる。


 ミルクティー色の綺麗な髪、小悪魔な笑みがよく似合う美少女。


「どうしたの、黙っちゃって? あ、もしかして、ボクに見惚れちゃったのかな?」


 モ、モユ・サドラー!? どうしてここにいる!?

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