第13話


 取り出した水晶、これは水晶の幽騎士のフロアにあるものだ。魔物の大群を処理して上がった攻撃力で、ようやく削りとれた水晶である。


 俺は公爵領への出立までの時間、幽騎士のフロアに出入りし、当面の金策用にせっせと集めていた。


「城からかっぱらってたもので、まだ沢山あります。この水晶を軽く渡されただの、水晶を見せて採れるかもしれないだの、はたまた、換金して羽振りの良さをみせるだの、噂を流すのに自由に使ってください」


 あくまで噂を流す材料。ゲーム基準で言えば、水晶自体の価値は決して低くないが、これの売買だけで、やってけるほど甘くはない。


 まず第一に、入手が困難。商品価値のある程度の大きさを削り取るのは難しい。大きすぎれば、転送陣に収まらないし、小さすぎては売り物にならない。そのため、長い時間をかけて、ようやくちょうどいい大きさの水晶が採れるのである。


 また、換金も困難。ゲームみたいに、ぽんぽん、と売れればいいが、そういうわけにはいかない。水晶の需要なんて、金持ちの貴族くらいにしかないのだ。宝石商、装飾品工房、その辺を経由することも考えれば、みいりも良くはない。市場に流通する量が増えれば価格も下がることを思えば、俺一人がこつこつ集めて売買しても、到底目的の金額を稼ぐことはできない。


 そして何より、モジュー家の事業をサポートするには、信用がいる。金銭だけなら喜んでもらえるだろうが、何の実績もなしに、事業に口出させてはもらえないだろう。だからどの道、水晶に頼るわけにはいかないのだ。


 まあそういうわけで、噂を流す材料程度に止めておく。


「たしかに、これがあれば、信用性は増すが……」


 まだポンドは二の足を踏むみたいだ。軽く、うん、とうなずかないところは、ちゃんと商人組合の長って感じがする。


「ポンドさん、考えてみてください」


「何を?」


「デマで人を集めて金を稼ぐって、最高に悪くないですか?」


「悪い……」


「悪いことをして、この町に過去の栄華を取り戻し、人々を幸せにするって格好いいと思いませんか?」


 俺はそれを格好いいと思うような人間ではないけど、こう言えば乗ってくれる気がしていた。


「カッコいい……」


 案の定と言うべきか、ポンドは顔を輝かせた。


「し、仕方がないなぁ、その役目、引き受けよう」


 だが、とポンドは続ける。


「集めたあとはどうするんだ? 何もなければそこで終わりだろう?」


「はい。ですので、再開発している様子を見てもらい、出資、従事、居住を狙います」


「さっきから気になってたが、その再開発ってのは何だ?」


 ポンド以外も気になっていたみたい。みんなが俺に目を向けてきた。


「公営の賭博場を中心に、観光施設を建てる予定です。この町は、高い城壁に囲まれて治安が良く、街道があって交通の便もいい。その上、平和が続いている連邦で、娯楽は需要が高いと思う」


 ……と説明しているんだけど、うわあ。みんなの顔が暗い。


「恐れながら、賭場となりますと、町の住人の反発が懸念されるのですが」


 と町長。


「観光業か。設備投資に、運営費……賭場からの収益が見こめるとしても、人を呼べなきゃ厳しいな。観光業は、なにより知名度がものを言うが、ここミレニアの知名度は高くはないぞ」


 とポンド。


「さっきから聞いてたけど、人を呼ぶだの賭場だの観光だの、治安維持の警備隊が忙しくなるのはやだぜ」


 と警備隊長チーク。


 不満が出るのはわかっていた。でも他にいい方法が浮かばなかったので仕方ない。


「知名度についてはあてがある。で、町の住人の不満だけど、チークさん、あなたにお願いしたい」


「んな、めんどっちいことやだよ」


「難しいことは言わない。酒場や町で雑談して、不満を聞き出すだけでいいんです」


 今日も遊んでいたから遅れたような遊び人が、警備隊長という役職についているのに、資料をみた限りでは不満が出ていない。それはきっと、チークという人間が親しまれているからだろう。


 だから彼は、この役割の適任だと思う。


「なあ、公爵様。それって、遊ぶことが仕事って認識でいいか?」


「はい。懸念した治安に関してですが、ロレンツォ将軍に手伝ってもらう予定ですので、貴方は町の人の声を聞き、町長と俺に伝えてください。不満の声が大きくなる前に、手を打ちます」


 さらっと名前を出したロレンツォ将軍と町長が『俺?』って顔してるけど、無視しよう。


「あんた、いい人だな」


「それでも警備隊長として通常業務にも励んでもらいますよ」


 うええ、って顔したけど、文句は言ってこないので、次に行こう。


「で、人が増えたり、賭場、観光業、商人からの出資等々で、戸籍、法整備、徴税方……」


「任せてください! レイン様! 貴方からご褒美が貰えるのなら、私は何でもやりますよ!」


 食い気味に言ってきたショタコンは、すごく頼もしい。


「ありがとうございます、カレンさん。頼りにしています」


「はひい〜」


 でろでろのショタコンから順番に、全員の顔を見回す。


「今後の方針については、以上ですが、何か意見のある方はいらっしゃいますか?」


 みんなからは何も意見が出てこない。今日は一旦これでお開きかな。


「では、そう言うことで。後々に関することは、後日、詳細を詰めていきましょう」


 その日の会議はそこで解散となった。

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