第9話


 論功行賞が終わってすぐ、部屋に帰った俺は旅支度を整えていた。


 論功行賞も内々で済まされたかあ。


 ゲームでは、国を上げてローレルを盛大に祝うイベントスチルが用意されていたが、あれはローレルを元首にするための戦略だったのだろう。


 とすると、ひっそりと済まされた俺は、やはり元首候補を外されたということで間違いないな。


 別に望むところではあるのだけれど、物語の大筋が変わっていないということが恐い。


 まあくよくよしていても仕方がない。ゲームでのレインは、クウエスト国の王子だった。だが今の俺は公爵になっていて、着実にゲームとは違う道を歩んでいる。


 蝶の羽ばたき。バタフライエフェクト。そんなのを期待してもいいかもしれない。


 ただ、淡い期待はしていても、現実から目を背けてはいけない。やれることはやらないと。


「お兄様!!」


 せこせこと荷造りをしていると、扉がばんと開いた。


 義妹が慌ててる。訓練服が砂で汚れてるところをみるに、訓練中だったのだろう。何かあったのだろうか。


「どうしたの?」


「どうしたの、ではない! この王城から出ていくとはどういうことだ!!」


「ああ。公爵位と領地もらったから、そこにいかないと」


「ダメだ!」


 ええ。ダメって言われても、いくしかありませんし。


「うう。砦から帰ってきて、またお兄様と楽しい日々を送れると思ってたのに」


 目に涙が浮かんでいる。そこまで慕われているとは。ただ脅されてキスしてただけなのに……え? まじでそれしかしてなくないか? 本当に慕われてる?


「本当にそう思ってる?」


「何で疑うんだ!!」


「いや、ごめん」


「私はお兄様といるのは楽しかったんだ。特にここ最近のお兄様は優しくて、甘やかしてくれて、何より、私の代わりに危険な場所に赴いてくれた!」


 ちゃんと、好いてくれてるんだな。それは嬉しい。俺も義妹のことは嫌いじゃない。別れたくて別れるわけじゃない。


 だけど、別れることは必要だと思う。公爵になったからってだけでなく、ストーリーの大筋が変わっていない以上、俺はここから義妹に嫌がらせをする可能性がある。俺の命的にも、ストーリーが終わるまでは関わらない方がいいと思う。


 そして何より、兄離れはしなきゃダメ! ちゅっちゅ、ちゅっちゅ、してちゃあ、ダメ! 兄として義妹の貞操観念が心配!


「わがまま言っちゃダメだよ、ローレル」


「嫌だよぉ」


「そんなんじゃ、騎士になれないぞ。心も強くあるんだ」


「うぅ……」


 何とか我慢しようと、必死に堪えてる顔をしている。


 そんな顔を見せられちゃあ、兄心というものが抑えられない。


「大丈夫。また会えるから」


 ぽんぽん、と頭を撫でると、義妹はこらえていた涙を流した。


「……うん、私頑張る。今度会うまでに、強くなってる」


「えらいぞ、よしよし……って、うわぁ!?」


 しばらく撫でていたら、いきなりタックルをもらって押し倒された。


 ええ、兄妹の感動の瞬間だったのに。


「お兄様、最後にちゅーして。それで我慢するから」


 ノーを言う前に、無理やり唇を奪われる。何度も何度も啄むようにキスされる。


 ようやく、顔が離れて、俺を見下ろす義妹の顔がはっきりとした。


 え、ちょ、何その赤い顔……って目、目が、ゲームで見た、メスの目になってる!


 抵抗しようとしたが、俺のレベルで下手すれば、大怪我を負わせてしまう。義妹が本気な分、力加減が難しい。


 な、なんとか、説得を試みないと。


「も、もう十分だよね?」


 何が? って首を傾げた。心なしか、息が荒い。ふーふー、言ってるし、目もマジで恐いんだけど。


「むぐっ!?」


 突如、口の中に舌がつっこまれた。小さい舌が口の中を這い回る。くるくると舌をからめられ、押され、吸われる。歯の裏から何から何まで舐めあげられて、ようやく離れた。


「足りない」


 ぽつりと呟いた淫乱レッドに、また口内を蹂躙されてしまうのだった。


 ***


「もう、お嫁にいけない」


「何変なこと言ってるんですか、王子」


 あなたの娘の淫乱レッドにひどいことされたんだよ。とは、言わないことにする。


「王子はやめてください。俺はもう公爵です」


「それもそうですね」


 俺はまた、ロレンツォ将軍とパッカパッカと馬を並べていた。


 今は領地に行く最中。どうしてロレンツォ将軍がいるのかと言うと、彼が体のいい厄介払いにあっているからだ。


 元首候補がローレルとなった今、その父であるロレンツォ将軍が力を持つことを父は憂慮した。そのため、年若い俺の後見人として、ロレンツォ将軍は公爵家に送られたというわけである。


「公爵領。レイン様は、どのような領地にしたいなどありますか? やはり、皆の笑顔が溢れる領だとか、子供を大切にする人たちの領だとか、ですかね?」


 それはもう決まっている。


「金、金、金、金!!」


「え!?」


「兎にも角にもカネだ! カネで溢れる領地にしなければならない!」


「え、ええ……」


 軽く引かれているが構わない。


 後に、商業重視政策を打ち出す、元首候補。からかい系ボクっ娘、モユ・サドラー。


 彼女に恩を売るためには、金を稼がなければならないのだ。


「ロレンツォ将軍! 領地についたら早速商業政策を進めますよ!!」


「は、はぁ」


 俺はこれからの計画を練りながら、領地へ向かっていった。

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