第8話


 夜、流星群が魔物の大群に落ちたと大騒ぎ。朝、魔物の大群が消えたことが確認され大騒ぎ。昼、事態の報告に、ぱっかぱっかとお馬さんに乗って、王都に向かっていた。


「まさか、流星によって魔物の大軍が滅びるとは。驚きでしたね」


「王子。あれは本当に流星だったと思いますか?」


「そうでしょう。何せ、それ以外に理由がつかない」


「まあ、それはそうですが……」


 ロレンツォ将軍とこんなやりとりをもうずっと続けている。


 昨日のこと。経験値の搾取……ではなく魔物の大群の殲滅を終えた俺は、急いで砦に戻った。そして騒ぐ兵達に向けて、寝ている間に何が起きたのですか!? と遅れてやってきた風を装った。


 その企みは成功して、兵士たちには疑いの目を向けられなかったんだけど、この人には何故か疑われてるんだよな。


 まぁ、流星と思われていることが俺の技だなんて証明できようがない。疑うだけ疑えば良いさ、一人に疑われたところで何てこたぁない。


 それより、だ。


 オトダチの物語では、ローレルが覚醒し、魔物の大侵攻を防いだことで、元首候補に名乗りをあげる。


 だけど、こういう結果になった以上、元首候補は俺のままだろう。それに、ロレンツォ将軍に戦功第一と言われるほど活躍してしまった。より一層、俺が推されることになるかもしれない。


 どうしよう、なんて言って断ろうかな。


 うんうん、唸りながらずっと考えていたが、それは無駄に終わることになった。


 ***


「レイン。此度の戦功をもってして、王家直轄領の一部と公爵位を与える」


 主要な役職が揃った王座の間。報告を終えてすぐに言い渡されたことに目を丸くする。


 公爵になるということは、王家にはいられなくなるということ。元首候補を王家から出したい父から、元首候補を外されたということ。


 いやまあ、それはいいんだけど、どうしてだ? 


 いくら流星が大群を滅ぼしたことになっているとはいえ、その前の戦いぶりは伝えられている。戦功をあげたのだから、喧伝すれば、民の支持率も上がり、有力な元首候補になるはず。それがわからない父ではない。


 それに、沙汰が早すぎる。俺が帰ってきたときのために、あらかじめ定めておいたとしか思えない。


 俺が弓の使い手であることにも、深く追及されなかったし、全部が全部に違和感がある。


「どうした、レイン? 不満か?」


「……いえ、謹んでお受けいたします」


「そうか。ならば、後日、論功行賞を行う。その日のために準備しておけ」


「はい」


 と、そこで父との謁見が終わり、王座の間を出た。


「お兄様!」


 久方ぶりに部屋に帰ると、義妹がいた。


 目を丸くする。


 え、着てるのは男用の服だよな。腰に差してるのは剣だし。


「お兄様、無事帰ってきてくれて何よりだ」


「あ、うん」


「私はもう二度とお兄様に会えないかと思ったぞ」


 口調もおかしい。


 違和感。甘えん坊の女の子だったのに、今は姫騎士のような、オトダチに出てくるローレル・クウエストのような。


「な、なあ、ローレル?」


「何だ? お兄様?」


「その、口調とか、服装とか、どうしたの?」


「私は自らの弱さからお兄様を死地に出向かせてしまった。だから、騎士のように強くなろうと決めたのだ」


「そ、そっかぁ。頑張ってるんだね……」


「ああ! それに聞いてくれ、お兄様! 訓練を受けて気づいたのだが、私には、剣術の才と膨大な魔力を使いこなす才があったのだ!」


「へ、へえ、すごいね」


 全てのピースがぴったりとハマり、違和感の正体がわかる。


 義妹は覚醒したのだ。それで、その才能を見込んだ父が元首候補にローレルを擁立しようと考えた。だから同じく元首候補の俺が邪魔になり、厄介払いとして公爵の地位を与えて遠ざけようとしたのだろう。弓の腕について深く聞いてこなかったのも、他の家臣に俺を推そうという気を起こさせないようにするためか。


 嫌な汗が流れる。


 ローレルが覚醒し、元首候補になるということは、ゲームと同じ道を辿っているということだ。


 ……物語の修正力ってやつ?


 首チョンパ。生き餌。薬漬け。


「なあ、お兄様?」


「な、ななな何でしょう?」


「口づけがしたいのだが」


「しましょう。ぜひ、しましょう!」


「やった! ん、ちゅ〜」


 でろでろにとろけた義妹を見ながら決意する。


 恩を! 恩を、売り続けないと!

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