第10話
モユ・サドラー。今の名をモユ・モジュー。
サドラー国の大貴族、モジュー侯爵家に生まれた彼女は、優しい父母の下、蝶よ花よ、と育てられ、貴族令嬢として何不自由なく暮らしていた。
そんな彼女が8歳の時、事件が起きる。モジュー家のほぼ全ての収入源、金山の金が枯渇してしまうのだ。
溢れかえる失業者を抱えたモジュー家は、全財産を使って事業を興す。だが、モジュー家は、鉱山運営のみに力を入れていたため、他の事業のノウハウはなく、全てが失敗に終わる。
庫の金は尽き、借金は重なる。侯爵妃も病で亡くなってしまう。さらには、領民には暴動が起こされたり、と事態は悪化を辿る。
そんな悲惨な現実に心を痛めた侯爵は、麻薬と呼ばれる類の薬に手を染めてしまう。家財も何もかもクスリに変え、そしてついには、クスリ欲しさに、モユの妹を闇取引で売り飛ばすことになる。
そんな現状を知ったサドラー王国に、統治能力を持たぬ候爵家は接収されてしまい、モユは一人、野に放たれることに。
治安の悪い裏町で、殴られ、蹴られながら、ゴミ漁りをする毎日。そんな辛い生活の中、モユは強く誓う。
お金さえあれば幸せな生活が続いていた、お金を稼げるようになろう、と。
それからモユは、商家の奉公人になり、知識を得て独立。商才が花開いて、大商人として店を構えるようになるまでに成長。さらに港町を発展させ、対外貿易を盛んにし、王国の中でも随一の収益をあげる商会の頭にまでなる。そして13歳の若さで、商業組合の長に就任するとともに、モユの功績と実力を見込んだ王家と養子縁組が行われることになり、元首候補として名乗りを上げるのだ。
と、まあこれが、モユ・サドラーの背景。
ちなみに俺、レインは、闇取引でモユの妹を買い、侯爵と同じ薬漬けの奴隷にしている。そのため、モユに復讐として、薬漬けにされて壊されて殺されるのだ。
白目を向いて泡を吹き、裸でびくびくしている姿。
う、薬漬けで壊されたシーンを思い出した。ぜ、ぜったい、あんなことにならないようにしよう。
やはり恩を売らないとダメだ。
ゲームでは、事業が失敗して金がなくなったことで、モユの人生は狂った。だから、俺がやらないといけないのは、モジュー侯爵家にお金を出すこと。そして事業の運営をサポートすることだ。
そのためには、やはり金がいる。それもちょっとやそっとの額じゃない。息を飲むほどの大金だ。
なのに……。
「ぜんっぜん金がないじゃないか!!」
俺は資料を読んでそう叫んだ。
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