第6話
ソーマ砦。高さ20mからなる鉄壁の城壁、いくつもの側防塔、配備されている300人もの兵士。難攻不落の要塞と言っては過言である。3日後には、陥落するのだから。
たっけえなあ。下見たくないんだけど。
「レイン様。城壁の上にいては危険です。中にお戻りください」
城壁の上。強い風に吹きつけられながら、遠くの魔物の集団を眺めていると、声をかけられた。燃えるような赤髪に屈強な体躯、30代とは思えない渋い顔。彼はローレルの父、ロレンツォ将軍である。
「危険であれば尚更ここにいます。弓の腕には覚えがありますし、王族が危険な場所にいた方が兵らも奮起するでしょう」
「っ!? 王子! ありがとうございます!」
「礼を言うのはまだ早いですよ。魔物を討ち果たしてからです」
と言ったはいいものの、どうすっぺ。
俺には、与一の弓がある。それに大侵攻を防ぐために、リポップした霊騎士との戦闘を繰り返してきた。あいも変わらず、ステータスを見ることはできないが、90レベル以上はあると思う。この砦に詰めている30レベル前後の兵士らなら、片手で相手できるくらいの強さになっている。
当然、魔物の群れと戦うのにも十分な力は身についている。だけど、一人でめちゃめちゃに戦うのも目立ってしまう。大侵攻で株をあげたローレルが元首候補になったことを鑑みるに、活躍しすぎて注目を浴びるのはよくない。元首争いに巻き込まれ、物語から外れたところでひっそりと暮らすことが、難しくなるからだ。
う〜ん。どうしようか。
できれば、国境の兵士が守り抜き、俺はただそこにいただけ。って結果が欲しいんだけど。
なんて考えてたら、城壁の上にぞろぞろと兵士がやってきた。魔物の群れに目を向けると、集団に先行した魔物がぱらぱらとこちらに迫ってきている。
まあ、贅沢言えるような状況でもないか。ゲームの世界とは言え、現実。俺の命も、兵士の命も、等しく一つ。俺の一のために、多を犠牲にするわけにはいかないよな。
よし、ガキが邪魔だ、と後ろに下げられないようにしよう。
そうと決めると、俺は城壁の崖際に立った。そして、弓を構え、飛来する飛行系の魔物に向けて、炎の魔力矢ファイアーアローを放つ。
轟々と燃え盛る矢は彗星のように飛んでいき、蚊柱のような魔物の群れを貫いた。遅れて、打ち上げ花火の火花が落ちていくみたいに、燃えた魔物が地面に墜落して行く。
振り返ると、兵士たちは目を丸くしている。
こっぱずかしいけど、やるか。
「聞け! ソーマ砦の勇士たちよ!」
うん、みんな、真剣な目を向けてくれているし、びしりと姿勢を整えたな。
滑ったらどうしようと思ってたけど、どうやら杞憂ですみそうだ。
「見えるか、あの魔物軍勢を! 千や二千では足りない、地を埋め尽くさんばかりの軍勢を!」
「このソーマを抜ければ、奴らは何万何千もの人々を殺し尽くすだろう! 力を持たぬ民も! 心優しき人も! 夢を持つ子供も! 最愛の家族も! 皆等しく奴らの玩具として朽ち果てるだろう!」
「だがそうはならない! なぜなら、ここに集う勇者たちが、悪しき魔物を滅ぼすからだ!」
「ソーマはこの国、ひいては人類の盾! いかなる邪悪も防ぐ正義の盾だ! 何千何万の魔物がどうした? 我らに守れぬものなどない!」
「武器を掲げろ! 悪しき者共に正義の鉄槌を下し、人々を守るのだ!」
演説を終えると、兵士は皆、武器を手を掲げ、大気が震えるほどの大声を上げた。
耳が痛いし、肌がびりびりする。だけど、熱気と高揚感に満足する。
「総員、配置につけ!!」
そう叫んだ、ロレンツォ将軍に従い、兵士らは忙しなく動き出した。
そんな光景を見ながら、俺はロレンツォ将軍に声をかける。
「将軍、俺はどうしたらいいでしょうか?」
「先程の技を見るに、王子は相当な弓の使い手とお見受けいたしました。遊撃をぜひお願いいたしします」
ようは自由に戦ってくれてってことか。りょうかい。
「わかりました」
「感謝いたします。が、王子は一体いつどこでそれほどの力を身につけたのでしょうか?」
「し、質問は後の方がいいと思います」
「ですね。では」
そう言って、ロレンツォ将軍は兵士に指示を出しにいった。
まあ怪しまれるよなぁ。別に本当のことを言ってもいいんだけど、ダンジョンのボス倒しまくりました、なんて言ったら目立つしなぁ。目立たないようにしないといけないし、適当な作り話でも考えておこう。
それより今は、魔物の大軍をどうにかしないと。
俺は魔物の方向に、弓を構えた。
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