第3話


 王城に備えられた講義室。何列も並べられた机の一番前に座り、義妹と肩を並べて、黒板前に立つザマス眼鏡の先生の講義を受けていた。


「我が連邦は、北にデインヒル、南にサドラー、東にレガリオ、西にクウェストと四カ国で成り立っています。現在、四カ国の方針を決める元首は、病に伏せっており、各国と足並みがそろわない状態が続いています。幸い、レガリオと国境を接する帝国は内乱の最中にあり、我が連邦に手を出す余裕がありませんので、平和は維持されるでしょう」


 机に頬杖をついて、窓の外を眺める。おい、淫乱レッド。俺の頬をつっつくな。


「しかし連携がとれない現状は、協力体制ができていないということであり、それぞれ独立独歩の姿勢で国家を運営せねばなりません。それは小規模なものとなるため、経済や技術開発等、何においても大きな成果を見込めないでしょう。また有事の際に、他国からの援軍に時間がかかることも予測されていて、魔大陸と国境を接する我が国は、軍閥と王道派の協調が求められるようになり、ネダウィ将軍家から王家にローレル様の養子縁組などの政策が実施されています———」


 おい淫乱レッド。肩に頬を預けてくるな、重い。


「———話を戻して、元首不在のこの状況。各国は代理の元首を求めていますが、元首が存命であり、法の下でも選挙を行うことはできない、そして代理に自国の人間を立てて利権を得たいという思惑が絡み合い、それは見送られています。そのため各国は、13年後の来るべき連邦総選挙、加えて現在の元首がなくられたあとの総選挙にむけて、次代の元首候補を選定している状況に止まっています」


 こんの肩を吸うな、肩を! 腕に腕を巻きつけるな! 離せ!


「王子!!」


 義妹をひっぺがそうとしていると、ザマスメガネの先生に怒鳴られた。


「次代の元首候補ともあろうものが、ちゃんと授業を聞かなくてどうするのですか!?」


「い、いや、ちゃんと聞いてますよ」


「では、内容を仰ってください!」


「元首が機能しないから変えたい。だけどわけあって変えられないから、各国が自国の利権を求めて、次の選挙に向けて元首候補を選定してるんでしょ」


「ふむ。まあ、ざっくりといえばそのようなものです。が、もっと真面目に聞いてください」


「俺より、この義妹に怒ってくれよ」


「ローレル様はいいのです。王女様とはいえ、悪く言えば、人質の身。候補にはなりえませんので」


 先生の言う通りである、この時点では。


 義妹は魔物の大侵攻を防いだ功績により、支持率が爆上がりすることになる。そして、元首を自国から出したいこの国は、俺から義妹にあっさり鞍替えするのである。


 ちなみにゲームでは、このことがきっかけで、元首になりたいレインはローレルに嫉妬するようになり、兄妹仲が悪くなる。そしてローレルから候補の座を奪い取ろうと悪事の限りをつくすようになるのだ。


「時間が来たようですね。それでは、ここで授業を終わりにします。よく復習しておくように」


 講義室から先生が去ったので、俺は義妹の頬をぺちぺちした。


「終わったぞ、起きろ」


「むー、起こし方が雑。兄様は妹に対して愛が足りない」


 それは仕方ない。この義妹と関わるということは、物語に関わるということ。それに、こいつ、可愛い顔して、10年後には俺を生きたまま魔物の餌にするのだ。素っ気ない態度になってしまうのは仕方がない。


 とはいえ、悪印象を抱かれるのはまずいので、俺は優しく接することにする。


「ごめんって。今度からは優しく起こすから」


「じゃあ今から寝るから起こして。お姫様の起こし方は知ってるでしょ」


 目を閉じて、んー、と唇をつきだしてくる、淫乱レッド。


 こいつキスが癖になってやがる。


 義妹とは言え、兄妹でそうチュッチュするのもではない。そろそろ、やめさせないと。


「キスはしません。そう簡単にするものではありません」


「何回もしておいて、今更カマトトぶらないで!」


「何と言われてもしません」


「うう、やだぁ! ただでさえ最近、お兄様が夜出かけてるからキスできてないのに!」


 おい、なんだその不穏なセリフは。こいつ、俺が寝ている間に何をしていた。


 というより、俺の夜間外出がバレてる?


「こうなったら、兄様が出ていかないように、ずっとくっついてやるんだから!」


 うっ、それはまずい。一人ならともかく、この騒がしい義妹についてこられては、ダンジョンに行っているのがバレるかもしれない。


 ここ最近、俺は与一の弓を手にするため、ひっそりとダンジョンに出かけレベル上げをしていた。


 もしこれがバレると、王子が危険なことをするな、と止められるだろう。そして今後監視をつけられるかもしれない。


 そうなれば、与一の弓は手に入れられず、破滅の未来をむかえるかもしれない。


「わ、わかった。キスするから」


「本当? いっぱいしよーね。ちゅー」


 今日も恍惚とした表情になる、義妹であった。

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