第2話


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「ねえねえ」


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「お〜い」


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「お兄様が壊れた」


 失敬な義妹を無視して、俺は弓を撃つ動作を繰り返す。


 どうして俺が、部屋にこもって、こんなことをしているかというと、弓の練度をあげるためだ。


 このゲーム、レベルとは別に、練度というものが存在する。EからA、そしてSまであって、そのランクに合わせた武器を使用することができる。Eでは木の弓、Aではミスリルの弓といったふうにだ。


 弓以外にも剣、戦斧、槍、魔導書があるが、俺は弓を選んだ。それは、このクウェスト国のダンジョン最深部にある神器、与一の弓がぶっ壊れだからである。


 通常、魔法やスキルを使うには魔力が必要とされる。つまるところMPで、強力な魔法であればあるほどMP消費量が多く、使用回数が限られる。だが、この与一の弓、魔力矢を使用するのに、MP消費が必要ない。そのため最強のスキルを連発できるのだ。


 ちなみに、与一の弓を使って、ラスボスに射程外からバンバン最強スキルを浴びせて完勝するプレイヤーに対して、『製作者に謝れ、カス!』という罵声が浴びせられる。


 だが、そんなことは知ったこっちゃない。こっちは命がかかっているのだ。


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「むぅ」


 構われないことに拗ねた義妹は唇を尖らせた。


 そんな態度を取られても辞める気はない。俺はこの義妹に恩を売るために強くなる必要があるのだ。


 各ヒロイン達には、元首となって連邦の方針を決めたい、という夢がある。方針はそれぞれ、商業重視、軍備拡大、科学発展、農業生産の向上だ。ヒロインには、どうしてそうしたくなったのかのバックストーリーがあり、夢を叶えるため、選挙に挑むのである。


 で、この義妹。姫騎士ローレル・クウェストは軍備拡大。どうしてそうしたくなるのか、バックストーリーはこうだ。


 魔大陸と国境を接するクウェスト国は、突如、魔物の大侵攻を受ける。士気を上げるために国境に送られたローレルは、落とされた砦、荒らされる村、多くの人の死、本当の父の死、と悲惨な光景を目にする。


 父の死に覚醒したローレルはなんとか魔物の大侵攻を治める。そして、二度とこのようなことが起きないように、軍備拡大を目指すのだった。


 と、まあそんなわけで。


 俺が強くなろうとしているのは、ローレルの代わりに魔物の大侵攻を防ぎ、彼女の父を助けて恩を売るためである。


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「とりゃあ!」


 ドロップキックをもらう。


 痛え、けど俺は怒らない。


 ふっ、所詮は5歳の女の子の悪戯よ。


 前世の記憶は曖昧だが、18禁ゲームの知識があるから、多分それなりの歳……のはず。ぶっちゃけ人格の上書き、というより、知識が増えただけなので、自分は5歳のレインという感覚しかないが、大人だから怒ってはいけない。


 ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。ぎゅー、びーん。


「むぅ! 無視するんなら、下賤な女って言ったこと許してあげない!」


 こんのメスがきぃ。弱いところを攻めやがって。


 俺は渋々手を止めた。


「わかりました。一緒に遊びますから、許してください」


「やだぁ、キスしてくれないと許してあげない」


 こんの淫乱レッドが!!


 渋々、渋々に渋々、キスをすると、ローレルは蕩けた。


「きしゅ、しゅきぃ」


 とろとろになった義妹を無視して、俺は弓を手に取った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る