第9話 ピグリングレートたちを迎え撃ちます!!

美里みさとからの報告を受け、救世きゅうせいは教室へと向かった。


「おーい、学級長! 今どうゆう状況ー?」


俺は教室の上に登っていた高村たかむらに声をかける。


「デカい人型の豚が三十匹くらい、林から出てきてるぞ!」


「わかった! 迎え撃つぞ! 戦えるやつは俺についてこい!」


「じゃあ、俺は投石器を用意しておくか」


魔物の進行を受けて少し騒がしくなっている空間の中で、高村はさらっとそんなことを呟く。


「あのさ、前から気になってたけど、その投石器ってどうやって作ったんだ? 俺らが林に行ってる間に木の加工とか縄とかみんなで作ったのか?」


確か、眠月たちと林に入っていた時間は半日もなかったと思うが。


「ん? ああ、そういえばどうやったんだろうな。優斗ゆうとが設計書をノートに書いてー……」


「書いて?」


「んー、気づいたら出来てたっていうか……あんま覚えてねぇな」


そ、そんなことある???

若干呆けたような顔になりながらも、俺はちょうど近くを通りすぎた人物に声をかける。


「あ、津島つしまさん」


夕方に眠月の止めた岩を切った長いくせ毛の彼女は振り向いて言う。


乃愛のあでいい」


「じゃあ、乃愛さんも良かったら来てくださいね。正直、戦力が不安なので」


「ああ、もちろん行かせてもらう」


夕方の実績を見てでの誘いだったが、どこか先輩のような雰囲気のある人だなと、俺は思った。


「師匠! 私は?」


「小桜、今回は私だけでいくよ。相手が相手だからね」


「むぅー、そうですか……」


小桜と呼ばれたクラスメイトは、その苗字のとおり髪が桜色で、それを両サイドにツインテールで纏めている。


「師匠の活躍、ここで見てますからねっ!」


ちなみに小桜は上下双子かみしもふたごと同じくらい小さく、こう、並んでいるところを見ていると、乃愛は意外と背が高い方なんだな、と俺はひそかに思った。


そうして、教室の周りを囲む石の壁を岩石操作で開けてもらい、集まったクラスメイトたちと共に夜の草原へと出た。


「みんな、無茶だけはするなよ! あと、なるべく静かに! 他の魔物までくると厄介だからな」


集まったメンツは、きゅうせい彩羽いろは勝人まさと乃愛のあ、そして夕方に巨人を見事に転倒させたたけし


「なんで俺まで!?」


「だって、巨人倒したじゃん」


そう叫ぶ毅に、俺は連れてきた理由を言う。


「いや、殺傷能力が……!?」


「「「毅ー! 頑張れよー!」」」


そんな声援が後ろから聞こえて振り返ると、宮本、下田、知野の男子三人が腕を突き上げて毅にエールを送っていた。


「おう、任せとけ」


すかさず、毅はイケボと顔でかっこつけた。


「まぁ、無属性魔法しか使えないなら、俺と同じ感じで殴ったり蹴ったりしてればいいから」


俺はグッドをしながら毅にそう言うと、毅は絶対帰らせないオーラを彼に当てている彩羽と勝人をおずおずと見ながら応える。


「そんな、お前みたいに精度高く動けないけどな。てか、救世お前、運動音痴じゃなかったのかよ」


「俺の攻撃がいつも当たってると思ったら大間違いだぞ?」


「え?」


「よし、ピグリングレートも迫ってきてることだし、いくぞ!!」


言って、俺は二度目のピグリングレート戦を始めた。



月光に照らされた草原で夜風の冷気を肌に感じながら、光を反射する深緑を踏み、全員が身体強化の魔法を使って約三十匹のピグリングレートと戦っていく。


「【風刃ウィンドブレイド】!」


乃愛が放った風の刃は、少し遠くに居たピグリングレートの体を切り裂く。そして、刀身の長いナタを優美に振るい、目の前の巨体を倒した。

一方、勝人はというと、慣れた手つきで自前の刀を振るって一体のピグリングレートと戦っていた。


「っ!」


しかし、勝人の戦い方は動きまくっている他のメンツとは違い、圧倒的な刀捌きでその場からあまり動かないものだった。

そのため、いつの間にかピグリングレート三体に囲まれた。

どれも傷一つついていない負傷なしの相手だった。

ピグリングレートたちが持っていた大きい木の棍棒を持ち上げ、振り下ろす。


「はああっ!」


落ちてくる棍棒の早い順を見極め、左に振り下ろして右上を切り、振り返って素早く最後の棍棒を切り落とす。順番にそれぞれ素早く刀を振って切り落とした。

腕を振り切った、もしくは勢いで弾かれたピグリングレートたちの隙を突き、勝人は跳躍して敵の首と肩の間を狙って刀を振り下ろした。


毅はというと、


「【空気弾エアーバレット!!】」


どうやらのってきたようで、特大空気弾を打ってピグリングレート三体をぶっ飛ばしていた。


「知ってるか? エアーバレットがなんで風属性じゃなくて無属性魔法なのかを! それはな」


そして、こそこそとよそ見をしているピグリングレートの背後に回っては強烈な回し蹴りやら、直線的な飛び蹴りを後頭部に一撃いれていた。お陰で不意を突かれたほとんどが脳震盪で倒れている。


「風属性魔法は風を魔法の対象にして操るのに対して、エアーバレットは空気そのものを物理的に押し出す。つまり、空気そのものが魔法の対象だからなんだよ!」


毅は自分で考えたらしいそんな理論を自慢げに言った。

そんなみんなに対して救世はというと、ピグリングレートに殴り込みに行き、攻撃を避けながら素早く動き回ってなるべく弱点を狙ってパンチキックを繰り返していた。


「くそったれぇぇぇ!!!!!」


無論、始まってから一度もは当たってなどいないのだが。


「では説明しよう。なぜ拳が当たっていないのに、攻撃がピグリングレートに当たっているのかを」


突然動きを止めて人差し指を立てる救世を見て、俺と戦い最中だったピグリングレートは何事かと動きを止め、耳を立ててしまう。

救世は入ってしまったのだ。有酸素運動による冷静沈着モードに。


「まず第一に、俺は運動音痴だからして――


>>しばらくお待ちください。


――次はこの技の行使の仕方についてだが」


「?」


あまりの長さと難しい話に、ピグリングレートは真顔で棍棒を振り上げ、救世に向かって振り下ろしてくる。


「腕全体で【空気弾エアーバレット】を発動させてだな……」


バァン!


「こうする」


ピグリングレートはみぞおちに強烈なを食らって、口から体液を飛ばしながらその場で倒れた。

つまり、腕全体でエアーバレットを発動させ、俺のパンチに合わせて腕の向いている方向に飛ばす。そうすることで、例え拳が届かなかったりミスって横を通りすぎたりしても、エアーバレットの空気パンチが代わりに当たるということである。


「イメージとしては腕の周りに拳の方に向いたたくさん矢印を作って、それをパンチと同時に発射する、みたいな感じかな」


なら普通にエアーバレット打った方がいいのではとは思うが、


「チッチッチ、こうすることに意味があるんだよ」


なにやら意味があるらしい。その説明はまた今度訊くとしよう。


「おーい。みんなどんな感じ……」


「【噴炎イラプション!】」


どぉぉぉぉん。


「おーーーーーい! 静かにしろって言ったろ!?」


盛大に爆発音を立てて魔法を使う彩羽に、俺は叫ぶ。


「救世! 我は……我は、このままでは勝人に負けてしまう!!」


「だからって違う敵を増やそうとするんじゃないよ!?」


「大丈夫だ、救世! 今ので同数だ!」


「よし分かったお前らそれ以上争うな!!」


差し込まれた勝人の発言によると、今のところお互いに引き分けらしい。てか、いつの間にライバル対決してやがる……。

意外と林の近くで戦っていた俺は、林から違う敵の気配と目線を感じて急いで離れるため、壁の内側から取り出してあったたいまつで明るい教室の方へと走る。


「うわーー!」


「きゅうせーい!」


すると、教室の方から元気そうな明るい雰囲気を纏った女子が走ってくる。鈴木すずき烈花れっかだ。


「烈花!? こっちは危ないからくるんじゃ……」


「よいしょおー!!」


「よいしょぉおー??」


どっかーん。


烈花が何かを投げたと思った次の瞬間、救世は背後で巻き起こった強風に背中を押され、前にすっ転んだ。

頬に少し熱気を感じながら起き上がると、さっきまで救世が戦っていた場所が衝撃波で浅く削れ、倒したピグリンビーストと地面が黒く焦げていた。


「オーマイガー」


「私の爆弾第一号はうまくいったみたいだね〜!」


「烈花さん……? これは一体どうやってつくったのかなぁー……」


「火薬さえあればなんかできるよ!」


そういえば、夕方に巨人が教室側の山の斜面壊したときに、そこから黒い粉が露出してたような気が……。

なんとも烈花らしい魔法だなと思った。


ぶぅ〜〜。


草の上に手をついて座っていた俺は、そんな戦いの始まりそうな音を聞いて、音の発生源を見ると、倒れたピグリンビーストが空に向かって大笛を吹いているのが見えた。


誰もそれを中断させるようなことはせず、すぐさま森の中からピグリンビーストの援軍が駆けつけた。

集まってきていた他の魔物たちはいなくなったが、援軍は最初の二倍近くの数いた。


「まじか」


棍棒を待ったピグリンビーストが前線に出て、積極的に勝人たちと戦いはじめ、持っていないピグリンビーストは倒れた同種を森へと運び始めた。

救世はその姿にどこかしみじみとした気持ちを感じながらも、立ち上がった。


「弱肉強食か。相変わらず異世界だなぁ」


俺は気持ちを切り替え、戦いに出向くために全体を見る。ざっと六十か。


「いくさじゃあぁぁぁあー!!」


「一石二鳥ぅー!!!」


どっかーーーん。


「今度は何だ!?」


「空から岩が落ちてきたぞ!?」


救世と毅が声を上げながら振り向くと、教室から坂を下った草原に例の投石器があった。ようやく準備が整ったらしい。

いやまてよ?


「一体どうやってあんなデカい石を乗せたんだ? そもそも投石器なんて作れる技術あるのか?」


「うちのクラス、ムキムキマッチョなんていたっけ? 啓太はガタイがいいけどムキムキってわけじゃないしな」


毅が言い、俺は一つのとんでもない結論に辿り着く。

そして、投石器の近くを目を凝らしてよく見てみる。すると、そこに見えたのは……。


「え……」


「あれは……啓太さんが造っていたムキムキマッチョ像ですね……」


「わざわざ説明ありがとう、勝人」


そう、初日に啓太が岩石操作の練習として造っていたあのムキムキマッチョ像


「ありゃどういう……」


さすがの救世さんも苦笑いしながら呟くと、少し控え目に光っている光の玉が救世の横に漂ってきた。

俺はそれを一目見て正体を見破った。


「これはこれは、お久しぶりの登場ですね、自称神様」


「もう! だから自称じゃなくて本物の神様だっていってるでしょう!?」


神様はまた少し光を強めようとしたが、状況を考えてかすぐに薄い明るさへと戻った。

俺だって分かっている、この人が本当の神だということを。教室ごととはいえ異世界転移をさせたのだから。だが……俺のプライドがこの人を神様と呼ぶことを許さない。


「で、あのムキムキマッチョ像が動いてるのはどうゆうことだ。啓太の魔法か? 解説を求む」


「あなたは! あなたという人は!!」


「すまん、すまん。だが、俺はお前を神様と呼ぶことはない」


俺は両手を合わせて謝ったものの、神様が破裂しそうなほどに頬を膨らませたのが光を通してみえた気がした。


「ん~~!! ほんとに神様使いの荒い人ですね!? ……私にも分かりませんよ」


「へ? あのムキムキマッチョ像が動いてることがか?」


俺は光の玉をみた。


「はい。あれは魔法ではないです。……おそらく……」


神様にも分からない現象……その事実に俺は驚きながらも生唾を呑んで訊く。


「……おそらく?」


「おそらく、私の感じることのできないなにかです」


「期待した俺がバカだった……」


あまりにも浅すぎる推理に、俺は肩を落とした。


「なんでしょうね? なにか気配は感じるのですが、魔法の気配ではないのですよ……。私にはわかりかねますね!」


開き直ったぁぁぁぁ。


「じゃあ、あの投石器は?」


正直、神様に訊くことではないが、話の繋ぎとして一応訊いてみた。


「あ、あれですか? あれは私がプレゼントしたものです」


「?」


「だからー、投石器は私からクラスメイトの皆さんへの転移祝いですって」


まじか。っと俺は冷静になった心の中で呟いた。


「異世界で投石器あげる神様は初めてみたわ」


「あ、今、私を神様だと認めましたね!!」


「あーごめんごめん。自称をつけ忘れてたわー!」


「そこは訂正しなくていいんですよっ!! もー!」


きっと光を通して俺を睨みつけたであろう自称神様は小さく揺れて、空気中に光の玉として消えていった。


「そういえば、さっき一石二鳥とか言ってたな」


岩が飛ばされるときにそんな言葉が聞えたが、岩でピグリングレートを倒せたし、周りのやつを怖気づかせることもできたので、まあ間違いではないだろう。

そう思考していた救世の背後に棍棒が迫る。


「おっと!?」


なんとか躱し、振り向くと、救世はいつの間にか五体ほどのピグリングレートに囲まれていた。


「ちょっと多すぎやしないか!?」


「救世!」


勝人に名前を呼ばれて、俺はようやく周りに目を向けられた。ピグリングレートの援軍は確か六十くらい。しかし、少し経った今でも、その数はあまり変わっていなかった。


「っ! さすがに人数不利か!」


毅が言い、俺は自称神様とのんきに話していたことを悔やんだ。このままでは教室までピグリングレートが進行してしまう。それだけは避けなければならない。


「一か八か……」


俺はそんな明らかピンチっぽいことを呟いた。

その影響か、次の瞬間、救世はゲーマーとしての自分の思考に頭が切り替わってしまった。よって、それに元づくプレイが行われた。


「……」


無言のまま、救世は身体強化で強化された足で真上に跳躍し、ピグリングレートの頭上まで飛び上がって拳を用意する。


「【空気弾エアーバレットスキャダー】」


魔法を唱えると同時に救世の周りに五つの空気の塊が生じ、救世は拳を地面に向け、自身の落下と共に拳を地面に振り下ろした。


そして、囲んでいたピグリングレートたちは強烈なゲンコツを喰らったときのように一瞬だけ頭が縦に縮み、意識を失って倒れた。


「いでよ! 我が従魔! 今こそその力を見せるとき! 召喚【純白竜アルティメットしろ】!」


彩羽が唱え、その右手中指にはめられていた銀色の指輪が輝いて雪のような白い粒子が舞う。

それは形を成して純白の竜となった。神殿で戦って彩羽の従魔となり、大蛇から竜に進化したあの竜が夜空で舞う。その姿はミニサイズではなく、大蛇のころと見た目は竜になっていたが、同じ、それ以上の大きさだった。

急な竜の出現に、全員の視線がそちらに向く。


「……」


めったにない救世の活躍は、誰にも見られることはなかった。

ひそかに涙を流しながらも、救世は出現した竜を見上げる。大蛇のときよりいくらかスマートでスタイリッシュな見た目になっており、主の影響もあるのかはやりかっこがいい。


「アルティメットしろ、【焔鱗Blaze scale】!」


すると、竜の周りに白いオーラのようなものが見え始める。

そこに、近くにいたピグリングレートがやけくそで突っ込むと、その棍棒が竜に届くより先に棍棒が赤い火を出して燃え、ピグリングレートは弾かれたように尻もちをついた。

どうやらあの竜は全身に白い炎を纏っているらしい。


『ギャァアアアオ!!!!』


夜の澄んだ空気を竜の咆哮が震わせ、それに怖気づいたピグリングレートたちは急いで森へと帰り始める。

ピグリングレートたちが森の奥まで走っていったのを見届け、救世はふぅと肺に溜まった空気を吐く。


「あーあぶなかったぁ」


俺は森の奥を名残惜しそうに見ている彩羽のところへ向かう。


「あーぁ。行っちゃったぁ……」


「おつかれなー彩羽」


「っ、救世。どうしたのだ」


「いや、お前のお陰で助かったわ。さすがにあの数はきつかったよな」


「そ、そうだな。勝人との決着はつかなかったが、さすがの我でもあの数同じ敵となると飽きる」


「RPGやってたからその気持ちは分かるけど、お前余裕だったのかよ」


「大丈夫だ。我にはアルティメットしろがいるからな」


「……」


あえて名前については追及しないでおこう。それと、救世がかなり疲れているというのもあった。戦いが終わったと思うと一気に疲れが出てきたらしい。


「あと、その竜についてなんだが」


「なんだ?」


「ちょっとそいつの力を借りたい」


だから、この発想が浮かんだときも救世はなんのリアクションもしなかったし、もちろん少し垣間見えた彩羽の素も見過ごしていた。

――そして、この後について一つ問題があるとすれば、まもなく時刻が深夜帯に入るということだった。

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