第6話 もしかして意味深?なことに気づきます。

吹き荒れ、木の葉や草々を激しく揺らす風。

押しつぶされんばかりの魔力による圧力。

その中心で大蛇を見上げて突っ立っているのは彩羽いろは

薄暗くなった周りの中で、彼女の双剣と瞳は真紅に輝いていた。


「……」


彩羽はサッと右足を引いて飛びあがったかと思うと、次の瞬間には大蛇の後頭部へと刃を振り下ろしていた。


しかし、剣は大蛇に届く前に何かにはじかれ、彩羽は衝撃を利用して空中で後転。

はじかれて生じた衝撃波は空中で円を描くように青白く光った。

浮かび上がったのは正六角形が7枚。


「障壁魔法か!?」


俺が独り言を叫んでいる間に、彩羽は木を蹴って大蛇の斜め下へ回り込む。

再度地面を蹴り、真っすぐ大蛇へ飛ぶ。

魔法で障壁ができる。

が、ガラスの割れるような音がして大蛇の魔法障壁は彩羽の双剣に突破された。

すれ違いざまに一回転し、大蛇の首後ろに2つの切り傷を負わせて空中で振り返る。


「【暗黒炎弾Dark flame bullet】!」


彩羽の周りから複数の赤黒い炎が現れ、大蛇めがけて隕石の如く降り注ぐ。

大蛇は出鱈目に障壁魔法を展開するが、全て破られ、黒い炎に焼かれる。


黒炎に混じって彩羽が接近してきている事に気づき、大蛇はその赤い目を光らせる。

邪眼だ。

邪眼は、使えば相手を呪うことや焼くことなどが可能だが、神の作り出した神殿にいる神獣なのだから、邪眼を使えばイチコロされるに違いない。


「ふむ。やはり神の遣いなだけはある」


彩羽の真紅の邪眼が一瞬輝きを増す。

ひときわ高くガラスの割れたような音が響く。

――大蛇の邪眼が破壊された。


と同時に大蛇の周りに無数の岩が浮かび、斜め上空から大蛇へと迫る彩羽へと投げつける。

回避不可能なそれを、彩羽はいとも容易く、そして流れるように双剣で切り裂いた。

回避など最初から選択肢になかったようだった。


そして、彩羽は双剣の片方を大蛇の額に突き立てて、その魔石を割った。

魔力の源を失い、大蛇はその場で大きな音を立てて倒れた。


「やった……のか?」


「ああ、大抵それはフラグ発言だけど、今回はちゃんとお亡くなりになってるよ」


恐る恐る大蛇に近づいていく眠月について行って俺は彩羽のもとへ向かう。


「お疲れー。大丈夫か?」


「ん、問題ない」


腕に負った傷もなくなっており、右目には再び眼帯をして、先程の双剣もなかった。


「で、お前は何をしようとしてんだ……」


彩羽は自らの親指の腹を噛んでいる。

そこから滴る血を大蛇の割れた魔石に一滴たらした。

すると、瞬く間に魔石が元通りになり、大蛇の体が光り始めた。


「おわわわわ!?」


はい、かわいい白竜ちゃん登場!


「なんとなく予想ついてたけど、もう蛇じゃないじゃん」


「我が魔石を強化したのだ!」


「うぇーすげぇー」


でかい純白の蛇は、肩に乗るほど小さな純白の竜になってしまいました。


「大丈夫なのかよ……さっきまで俺たちを殺そうとしてた奴だぜ?」


「契約を交わしたから大丈夫だ。我に背くようなことはできないし、その気もこの竜にはない」


「彩羽の方が自分より強いって知ったからな」


俺が遠回しに言う。


「そういうものなのか?」


「というか我を心配していていいのか?」


そう言って彩羽が指さした方向を見る。

そこには泡を吹いて倒れている神様がいた。


「な、なに自分の神殿で死んでんだーー!」


「おもんないぞ」


「おもんないな」


「うん、知ってる」


こうして俺たちは神殿を出た。


上に戻ってきて、あの円形の謎スペースまでくると俺におぶわれた神様が目を覚ました。


「ここは……?」


「神殿の入り口だよ」


「あ、わざわざ連れてきてくれたのですね。ありがとうございます……ぐへっ!?」


妙に丁寧なお礼を言われて調子が狂ったので手を放して落とした。


「もー! ひどくないですかー!」


「すまんすまん。もう腕が限界でな」


「わたし、神様だから体重ないはずなんですけど!」


確かに紙のように軽かった。カミだけに。


「あれ? その魔石竜さんは一体?」


ドラゴンは魔石を持つが、竜は基本的に魔石を持たず、神からエネルギーを得て生きている。そのために神獣と言われるが、この竜族は神の作り出した永遠の魔石で生きているので、神獣の中でも魔石竜と呼ばれるらしい。


「ああ、神殿で戦ったお前のペットだよ。今はもう彩羽の従魔だけどな」


流石の神様もショックかなぁー。目が覚めたら可愛がってた自分のペットが他人の従魔にされてるんだもんなー。


「かわいい~!」


「少しでも心配した俺がバカだったっ!」


更にかわいさを増した元ペットにベタ惚れの神様。むしろこれでよかったのかもしれない。


「神様も目覚めたことだし、とりま教室に帰りますかー」


「あ、私はここで抜けまーす」


「はーい、お疲れ様でしたー。じゃ、ねぇよ!」


どこぞの会社員みたいな乗りでいなくなろうとすんな。


「でも~、私もう神界に帰らないといけないんですよ~」


「ぶりっこしても無駄だぞ」


「ぎくっ」


とは言え、まぁいいか。

俺は溜息をつく。


「じゃあ一つだけ訊いてもいいか」


「か、帰らせてくれるんですね……はい、何でしょうか?」


「昨日俺たちに与えたミッション、もちろん覚えてるよな」


「はい、この世界を生き抜くというものですね」


「……本当にそれだけか? うちにはほぼ無敵の彩羽、今、水道を作ってる天才の優斗。それに他のクラスメイトだって、これから普通に強くなるぞ。そんな簡単なミッションでいいのか?」


「いえ、それが、そんな簡単なことではないのですよ、この世界では」


「そりゃ生きるのは簡単なことじゃないけどさー」


「それもそうなのですが……貴方たちには力をつけていただかなければならないのです」


「え、そ、それはどういう……」


「いずれ分かることですわ」


おふざけ気味に言って微笑みながらも、その声はいつになく真剣に聞こえた。


「では、私は帰りますので。みなさんもお気をつけて~」


「……」


手を振りながら、神様は光の粒となって消えた。


「もしかして意味深……?」


夕暮れ時のため、俺たちは急ぎ気味に教室へと帰っていた。

俺は先程の神様との会話について考えていた。


俺たちは強くならなきゃいけない。生き残るために。でもこの世界で生きるためだけなら俺たち全員が強くなる必要はない。それにこんな世界の果てに召喚するか普通?

いや、それこそなのか?


「おいおい、どうした。そんな難しそうな顔して」


「うん、実際難しいからな」


「神もいずれ分かると言っていた。その時を待てばいい」


「そうだぞー。今考えても分からんものは分からんし」


たまにはいい事言う。

そうだな。いつまで考えても分かるわけないし。


「まぁ、何が起きてもいいように準備しとくに越したことはないな」


石門を開けてもらい、俺たちが中に入ると高速で何かが俺の腹にしがみついてきた。


「ご主人~~!!」


涙目で見上げてくるうちの犬。

あ、もしかして心配させたのか俺。


「ごめんなー、急にいなくなって。ちょっくら神殿に潜ってた」


「もう神殿に行ってきたのかい? さっき話を聞いたばかりだというのに」


「ウォジェルちゃんったら、ご主人が危ないー! って慌ててたんだよ~」


「そうなの! そうなのー! 出ていかないように押さえるの大変だったんだから~」


通りすがりに田中:陽太、上下かみしも又羽または又異まいの双子に話しかけられた。

三人とも腕に木の枝を抱えている。今夜の焚火の材料だろう。


「うん、大蛇ぶっとばして帰って来たわ」


うちの犬が暴れてたって事は、俺がピンチだったの分かったのか?

まぁ、実際は全然ピンチでもなかったんだけど。


「うわ~、どれくらい大きい蛇さんなのー?」


「それがなー、6、7メートルくらいの白い蛇だった」


「そんな大蛇と神殿で戦ったのか……」


「救世くんが倒したの~?」


「いや、彩羽がずばばばばーんってな感じで1人で倒したんだ!」


「彩羽さんすごーい!」


「それはもう、壮絶な戦いだった……」


「想像がつかないな」


陽太は笑い気味に言って、双子は目を輝かせる。


「てか、その木の枝はどこから?」


「ああ、焚火をしようにも、昨日に燃やせるものは使い切ってしまったからね。勝人くんに護衛してもらって木の枝を集めに行ったんだ」


「そしたら、大きな狼さんがいっぱい来たの!」


「でも、全部勝人くんがやっつけてくれたんだよー!」


「まさに電光石火だったよ」


入り口近くのアレはその時のやつか……。

それにしても彩羽と並ぶくらい強いな、勝人。


3人と別れ、俺は優斗のところへ向かう。


「よっ」


「あ、救世さん。水道出来てますよ」


「おー、サンキュー」


「な、なんですか」


謎に迫ってくる俺を、眼鏡を隔てて見つめる優斗。


「ほれ、例のブツだ」


「闇取引みたいなこと言わないでください……」


そう言う優斗の手に、俺は神殿前で見つけた大賢者を渡す。


「これは、辞書……?」


開くと中から水晶玉と部品が飛び出し、宙に浮く。


「どういう原理ですか……!?」


ふむ、珍しく驚いてる。にやにや。


「お前もまだまだ魔法技術の知識が足らぬようだなー」


「どういう技術なんですか?!」


「俺も分からん」


優斗は、あ、っといったふうにリアクションする。


「まぁ、なんかの役に立つ事は間違いないから、頼むよ優斗」


言って、俺は何やら騒がしい焚火の方へ向かう。


「確認。貴方の名前はユウトです。合致しますか?」


「……! はい、合っていますよ」


救世さん、これはすごく役に立ちそうです。

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