第5話 神様はどこでしょう?見破りました!
夢を見ていた。
よく晴れた青空の下、ふさふさと雑草が生え揃った草原。
「寝転がったら気持ちよさそうだなぁ……」
俺たちは、全力疾走していた。
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないだろ!?」
眠月が叫ぶ。
後ろからは息を荒げた二足歩行の巨大ブタが物凄い勢いで迫ってきていた。
そう、巨大ブタに追いかけられる夢。
「ああ、酷い夢だ……。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、いままでこんな俺を育ててくれてありがとう。おおじいちゃん、おおばあちゃん、今そっちにいくからね……」
「諦めんな!? そんで、これは夢じゃなくて現実だー!」
早口で死亡フラグを立てる救世に眠月が突っ込みを入れる。
身体強化で通常より速く走れているものの、迫り来る巨大ブタからは逃れられない。
徐々に物理的距離を詰めてくる。
「貴様の足の速さは認めてやろう……しかし! 我が魔法を前に朽ちるがいい! 【
彩羽が噴火魔法を打ちまくる。いくつもの火柱が右、左と地と空気を焦がす。
が、
全て左右どちらかに振れてしまい、ブタの凶悪な顔とバカ筋肉を照らすだけである。
「全部外してんじゃねぇか!!?」
眠月が叫ぶ。
「ふむ、奴の種族はピグリングレートか。どうりてVERY BIGな訳だ」
「おい、誤魔化そうとしても無駄だぞ」
絶望感から帰って来た救世が、三人の真ん中を先頭で走りながら言う。走った事によって全身に血液が周り、落ち着きを取り戻す運動の効果。
今の救世は冷静で余裕がある。
「では、どうしてこうなったか説明しよう」
俺たちは山から下りながら水路を作っていた。
丁度、優斗に蛇口の設置と水路の全体指揮を頼んだところだった。
突如森から現れたのだ。
あのピグリングレートが。
幸いな事に1匹。
視線に気づいた俺は身体強化を使い、初手、顔面パンチを食らわせた。
「ふん!」
気絶したらいいなと思っていたのだが、強靭な顔面は俺のパンチに耐えた。
「あれ?」
「フギィィィィ!!!!」
「ィ」と「!」の数が4。殺してやると言っているらしい。
更に鼻息を荒く、顔を赤くして圧を浴びせながら見下ろしてくるピグリングレート。
「コ、コンニチハ-?」
俺は返事を待たずに走り出した。
山を下る下る。教室の方へ。
「お、救世どした……って、おいおいおい!」
「おお」
目の前に居た眠月と彩羽が声をかけてくるが返事をせず、砂埃を巻き上げながら二人の間を走り抜ける。
「「【
二人が同時に言い、回れ右をして全力で救世に続く。
「なんなんだよコイツ!」
「知るかぁ!」
走る救世が言うが、もちろん眠月が知るわけがない。
「という事で、今に至るという訳だ」
「説明してる場合か! もう追いつかれるぞ!?」
「ご主人ー!!」
ウチの犬が俺を心配して叫んでいる。
3人の背後に迫るのは、背丈が3メートルはある二足歩行のブタ(ムキムキ)。
「よし、俺に任せろ」
「お! いい案があるのか!?」
「ちょっと腹パンお見舞いしてくる」
「え?」
すると救世はすんと立ち止まる。
その真横を眠月と彩羽が走り過ぎていく。
さっと振り返り、体を斜めに右拳を引く。
「食らえ脳筋。16歳の拳の力を……!」
パンチの間合いに入った所で力の限り拳を突き出す。
バァァァン!!
「……」
巻き起こる衝撃波。その勢いで風が起こり、救世の髪が揺れる。
「ブヴヴヴヴ……」
顔を上げる。
ピグリン。
怒ってる。
「ァ」
オワタ。
「今だ! 打てー!!」
救世の斜め上空に大きな岩が現れる。
え……。
「ブッ……!!」
ドスゥゥゥゥン!!
救世の目の前から一瞬でブタが消え去る。
いや、消えたんじゃない。
ぶっ飛ばされたんだ。
真横から飛んできた岩で。
「よっしゃー! 当たったー!」
草原の方にだけに開いた壁の間から学級長の高村:
その横には、高村一人半くらいの高さの投石機が居座っている。
「よっしゃー! 当たったー! じゃねぇよ!? 俺に当たったらどうすんの!? 俺、死ぬんだけど!? 後なんだよ、横のそれ?!」
「安心しろー! なんか魔法付与とかいうので投石機の威力バカ上げしといたからー! あ、でもまだ倒せてないみたいだわ」
「俺は一体、何を安心すればいいんだよ!?」
ピグリングレートの影に飲み込まれる救世。
「……」
さっきまでしゃべり続けてきた口が一瞬にして固まり、
「反射神経最速反応のカウンタァァァァァー!!!!!」
再び高速で動き出した。
起き上がって力尽き、前方に倒れようとしていたピグリンの顔面に救世の止めの一撃が撃ち込まれ、結果的に後方へ倒れた。
言うまでもないが、ピグリングレートはボコボコである。
いつの間にか高村によって編成された「死骸処理部隊」にピグリングレートを任せ、俺は高村の所へ向かう。
「ご主人~!」
涙目で抱き着いてくるうちの犬。
「よしよーし、俺は大丈夫だからなー」
抱き着いたままのうちの犬の頭を撫でてやる。はたから見たら兄と妹に見えるかもしれない。
「で、なんだこれは」
「見ての通り投石機だ。教室を守る兵器が欲しいって意見があって、北原くんが設計してくれたんだ。という事で、この投石機は教室守護兵器第一号って訳さ」
眠月と彩羽は草原でピグリングレートを運ぶ手伝いをしている。
「兵器って……。それで、さっき言ってた魔法付与ってのは?」
「なんか知らんけど、身体強化って魔法あるだろ? あれを自分の体じゃなくて、この投石機に付与させるらしいぜ。啓太がマッチョ像を強化するために使ってて、それに優斗が気づいて啓太が付与させたんだ」
「な、なるほど……」
勝人に切られたのがよっぽどショックだったのだろうか。
このままでは鋼鉄のマッチョ像が出来てしまいそうである。
眠月と彩葉と合流し、場所は壁の横にある教室と草原を結ぶ道。今は山頂の神殿とも繋がっている。
日はまだ傾き始めてすぐだ。
「という事で、神殿に行くぞ!」
「マジで言ってる?」
「マジです」
彩葉は密かにガッツポーズをしている。
そんな訳で俺と眠月、彩羽の三人は山登って神殿前まで来た。
神殿は湖の真ん中にあり、陸と神殿は白い平坦な橋で繋がっている。
湖には大きく二つの島があり、一つは円盤状の床に円柱の柱が立っている謎スペース、二つ目は地下へと続く階段がある建物だ。
俺たちは今、謎の円盤スペースへ続く橋? 床? を歩いている。
「なんだよあのスペースは……。まさかボス戦じゃないだろうな……」
「わくわく」
「……」
眠月はもはや無言である。
救世を先頭にして円盤状に踏み込むと、その真ん中に何か落ちている事に気づく。
「ん? なんだこれ。辞書か?」
「おい、そんなの拾って大丈夫かよ……! トラップかもだぞ!」
「怖がり過ぎだって」
いいながら救世は辞書らしき長方形を開く。
すると、中にはいろいろな形の部品が入っており、途端に辞書は救世の手を離れる。
「うわ! 浮いた!?」
中身の部品が辞書から出て、一緒に入っていたガラス玉の周りを回る。そして、ガラス玉の中が緑色に輝いた。
「データの照合開始_100%合致。セットアップ完了_地球の皆様、ようこそ異世界へ」
「え、喋ってる……機械か?」
「眠月、コイツは……」
眠月は息をのむ。
「な、なんだよ……」
「滅びた古代文明の魔法技術かなんかで精密に作られたあれだぁ!!」
「秘密兵器!!」
「そうそれ!!」
「お前もよくわかってねぇのかよ!!」
救世と彩羽は目をキラキラさせて、浮いた本の上に浮くガラス玉とその周りを回るパーツを見ている。
「皆様、先程は災難でしたね。まさかピグリングレートに遭遇するなんて」
「おい待て。なんでそれを知ってるんだ」
「お気づきではありませんでしたか? スマートフォンに変なアプリが入っている事に」
「はっ!」
「ふっ、どうやら我の秘密に気づいてしまったようだな」
「彩羽、お前、魔法全部外して話そらした時、確かスマホを見てたよな……」
「その通りだが、一つ誤解している。あの時は話を逸らしたのではなく通知が届いたからスマホを見ただけ」
「その通知を送ったのは、あんた……大賢者なんだな?」
「返信。はい、その通りであーーーーー。そう! 私こそがその大賢者なのです! そ、そんなことより! この神殿はダンジョンになっているので! さっそく行ってみませんか!!」
機械的な音声を強引に押しのけて自慢げに言う別の声。それに救世は先程から感じていた違和感を顔に出す。
「よし、お前ら。ダンジョン探索に挑むぞ」
「え!? 今から!? マジで言ってんのか救世?!」
救世はサッと振り返って眠月の肩に片手を乗せる。そして、もう片方の手で親指を立て、最高の笑顔で白い歯を出して、グッド。
そう、無言の会話。
君に拒否権はないよ。
「な」
そうして三人と大賢者(?)は円盤広場の奥にあるもう一つの島。神殿への入り口に入っていった。
そして数分後。
まず最初に待っていたのは下層へ続く長い階段。
そこで救世はとある話題を切り出す。
「ところで、いつまで大賢者の振りしてる気だ神様」
「ギクッ」
「いやバレバレだから。第一、古代文明の魔法技術がどんだけ高くても機械がそんな悠長に喋る訳ないでしょ」
「え、神様?」
「眠月、お前、気づいてなかったのかよ……」
階段を下りて行った救世たちは如何にも神殿らしい、白色を標準とした大きな部屋に入った。
一言で大きな部屋といっても、この部屋にはいろいろある。
床は白のコンクリートのような、神殿の入り口と同じもの。そして、所々不規則に木が植え付けられている。日本人が木と言われて想像するあの普通の木である。
そこだけ土になっており、周りにはみ出て草を生やしたりしているため、少々歩きずらい。
床と同じく天井も白で、複数の円柱が支えている。
俺たちの両サイドの壁は、なんと水のカーテンがある。上から下へ水が流れて、まるで壁のようだ。いや、カーテンだ。
「ここって湖の地下だよな。どうなってんだ」
もちろん湖には水が溜まっているはずなのだから、この部屋は水没しているはずである。
「まぁ、ここは神世界ですからね」
もはや正体を隠す必要がなくなったためか、水晶玉からでてきた神様が言う。
「新世界? まさか、あんたが作った世界か? ダンジョンだとか言っといて、俺たちを最初の住民にしようってんじゃないだろうな……」
神様の近くにいた救世と彩羽が自分の肩を抱えて後ずさる。
「もう! 私はいつからそんな卑怯な人になったんですか!」
え、だって、説明めんどくさいからって逃げたじゃん……正体隠してたし……。
「いいですか、神の世界と書いて神世界です! 正確には、ここは下界との狭間ですけどね。あのダンジョンはここに繋がっているんです!」
驚いたでしょ、的な顔を向けてくる神様。
いや、そんなこと言われなくても分かりますけど……。
「私が作ったダンジョンなんですけど、まぁ、世界の狭間なのであの水のカーテンの先は奈落だと思ってください。落ちたら…………ぐえぇ!」
人間化した神様が容赦なくぶっ飛ばされて、壁に激突する。
「落ちたらなに!?」
ぱっと頭上を見るとそこには純白の大きな蛇が一匹。
「そぉ、その大蛇がこの部屋の主でふ……ああ……いつの間にこんなに大きくなって……数世紀前は手に乗るほど小さかったのに……」
「数世紀前って、どんだけ昔の話だよ……」
「なるほど、このwhite snakeは神の遣いなのか」
「自分のペットくらいちゃんとしつけしろよ!? ぶっ飛ばされてんじゃねぇか!」
眠月、彩羽、救世と順に言って、大蛇に上から睨みつけられる。
「この部屋の主ってことは倒していいんだよな?!」
なぜこんな言い方かというと、一応神様のペットだったらしいからである。
「やめてー! 私の大蛇を倒さないで~!」
神様は目を回しながら上半身を起こして言い、再び倒れた。
きっと今、神様はぶっ飛ばされた衝撃で混乱しているんだ。うん。
「散れ!」
3人はそれぞれ大蛇を回り込むようにして、右へ彩羽が、左へ救世は硬直した眠月を引きずって走った。
救世は眠月と木の影に隠れ、大蛇から姿を隠した。
大蛇は彩羽の方へ行き、いったん神様から離れる。
予想通り。
異世界の蛇というもの、というか上位の魔物は相手の持つ魔力量を測る事ができる。
故に一番魔力量が多そうで強そうな彩羽から先に倒そうとしてくるのだ!
「よし、行くぞ、眠月!」
「あ、ああ……」
小声で眠月に言い2人は背を低くして、ぶっ倒れた神様のもとへ向かう。
「おーい。生きてますかー?」
近寄って肩を叩くが応答がない。今すぐ心臓マッサージを! といきたいところだが、息があるので気を失っているだけだろう。
失神した神様を背に乗せ、出口に向かう前に彩羽に撤退命令を出すため振り返る。
そして救世は目を見開く。
「お、おい、どうしたんだよ。早く撤退しようぜ……」
いち早く出口に向かおうとしていた眠月が振り返ったまま固まっている救世に言う。
救世が見たもの。
遅れて眠月もそれに気がつく。
左腕の肩近くを右手で押さえ後退し、壁に追い詰められている、彩羽。
その右手の指の間とその下から重力に従って流れる、赤い血を。
「……彩羽!!」
間違いだった。彩羽ならあの大蛇と対等に戦えると思っていた。彩羽の強さを過信しすぎた。第一、巨人が出たときもガタついてたじゃないか。
援助にいかなければならない。それは一番に頭に浮かんだ。
しかし、足が動かなかった。
よくある話だ。恐怖で助けようとしても体が動かない。
それも一番戦力のありそうな彩羽が押されているというのだからなおさら。
仲間がピンチのときに自分は恐怖で動けないなど、なんと情けない事か。
すると、彩羽はふっと不適に笑って見せる。
「ついにこの時が来た……!」
そう言うと彩羽は右手を腕から離し、戦闘姿勢から真っすぐ立ち直す。
それを降参と受け取ったのか大蛇はひときわ大きく鳴く。
「Release」
彩羽は魔法の杖を地面に突き刺す、途端に救世は押しつぶされそうになる錯覚を覚える。どうやらそれは彼だけではないらしい。
純白の大蛇もたじろいでいた。
これは彩羽がそれほど大きな魔力を解放したという事だろう。
彼女の周りには強風が巻き起こり、漆黒の煙が周りを薄暗くする。彩羽だけがその場で悠然と佇んでいる。
「黒より黒く、果てなき深淵に」
彩羽は下を向いたままだ。
「真紅は全てを覆し、」
左手が右目へ向かって上がり始める。
「我が邪眼は全てを打ち倒す!」
左手の指を右目にしている眼帯の下辺に差し込む。
「Revolution to reality!」
言い終わると同時に彩羽は眼帯を取り、そのまま左斜め後ろへ投げる。
現れたのは輝く真紅の瞳。
若干細められた眼から覗くその瞳は何もかもを見透かし、それこそ他者の深淵までも見えているのではないかと思わせるほど美しく、魅力的だった。
すると、切り裂かれた左腕の傷口から真紅の血が宙を舞い始める。
グロテスクだとは思わなかった。なぜならどこかあの瞳に似た美しさがあったからだ。演出である全てがアートだった。
真紅は彩羽の両手へと集まり、それぞれ一つずつ形を成した。
彩羽は敵である大蛇を見据える。
その手には双剣が握られていた。
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