第29話
どうせならさっそくこの仮面をつけてみよう。
校舎を出たクルミは近くの公園のトイレに入り、仮面を見つめていた。
このまま帰ってもどうせ勉強をさせられるだけだ。
それなら少し遊んでいってやろうと考えたのだ。
クルミは手洗い場の鏡の前で自分の顔に仮面を当てて「ガオー」と怪獣のような声をあげて見る。
しかし仮面は能面なので全然迫力はでなかった。
「そうだ。マジックで顔を描けばもっと面白いかも」
思い立ってペンケースからマジックを出すため仮面を外そうとした。
その瞬間、仮面はクルミの顔に吸い付いてきたのだ。
ツルリとした心地のいい感触にクルミは両手を離す。
しかし、仮面は顔に引っ付いたまま離れない。
なに!?
悲鳴は喉の奥にかき消され、変わりにクルミの足は勝手にトイレから出ていた。
そのまま早足でどこかへ向かっているが、どこへ向かっているのかわからない。
止まって!
お願いとまって!
クルミが心の中でどれだけ懇願しても足は止まらない。
気がつけばクツミが知らない場所に到着していた。
周囲には民家が立ち並んでいるが、空き家が多いようで窓ガラスが割られていたり、壁に蔦が絡まったりしている。
なにここ。
私こんな場所知らない。
走ったせいで汗がにじみ、息が切れている。
すぐに帰ろうとするのに、クルミの体はそれを許さなかった。
クルミはの体は勝手に空き家の庭へ侵入すると、乾いた草を踏んで家に近づいていく。
こんな汚いところ嫌だ。
すぐに出たい。
クルミの体は割られた窓の前で立ち止まった。
すると今度は右手が勝手に動いた。
スカートのポケットをまさぐり、あの100円ライターを握り締めて取り出す。
使い物にならないライターだったが、クルミはなんとなく捨てることができずに持っていたのだ。
右手は乾いた草の上でライターをすった。
カシュッカシュッと、乾いた音がして、不発の火薬の臭いがただよい始める。
どうせつかない。
そう思った次の瞬間、火がついた。
えっ!?
驚いているクルミを横目に一瞬ついた火はすぐに乾いた草に燃え移る。
クルミの足は再び勝手に動き出して、空き家から逃げ出したのだった。
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