第28話
こんなことで時間を使っていたらまた起こられてしまう。
早く帰らなきゃ。
気持ちは焦るものの、足はなかなか階段を下りようとしない。
視線は灰色のドアに釘付けになり、噂で聞いた仮面のことを思い出していた。
どんな犯罪でもプロ級になれるという仮面。
もしそんな仮面が本当にあったら、自分はどんな犯罪に手を染めるだろう?
考えて、昨日できなかったことを思い出す。
トイレに準備したトイレットペーパーはあの後水に流してしまった。
「放火の才能。なんてね」
クルミはクスッと笑い、ドアに手をかける。
鍵がかかっているものと思っていたそのドアはいとも簡単に開いてしまった。
少し拍子抜けしながら屋上へと出てみると、刺すような日差しに目を細めた。
8月に入るともっともっと暑くなるのだろう。
クルミは夏休みとなると毎日勉強に明け暮れなければならないが、クラスメートたちは海だ山だと遊びにいき、よく日焼けをして新学期を迎えるに違いない。
羨ましさに下唇をかみ締めたとき、光を反射しているものが落ちていることに気がついた。
クルミはまるで引き寄せられるようにそちらへ足を向ける。
「なにこれ」
クルミは躊躇もなく、真っ白な仮面を手に取っていた。
仮面は太陽光を浴びて少し暑いくらい熱をこめている。
「仮面?」
角度を変えて確認し、自分が拾ったものが仮面であるとわかるとクルミは後方を振り向いた。
人の気配はない。
誰かが自分をからかって遊んでいるのではないかと思ったが、そうではないようだ。
クルミはその仮面を手に屋上を出た。
室内で確認してみると、その仮面はなんの装飾もなく真っ白だった。
裏側も同じように真っ白で、なんだか安っぽく見える。
「ふーん。これが噂の仮面ねぇ」
全然信じていないような口調でそう呟きつつ、仮面を握り締めて学校を出たのだった。
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