第30話 普通のカップル(?)

 雫と恋人になって、初めて体を重ねた。

 体だけじゃない。本当の意味で心まで重なった……そんな感じだった。

 まあ何が言いたいかというと、多分今までで一番燃えた気がする。これでも体力も付いてきたと思ったけど、すっからかんだ。



「祈織くん。私今、すっごく幸せです」

「そっか」

「祈織くんは幸せじゃありません?」

「……雫と一緒ってことで」

「素直じゃありませんねぇ。さっき勇気を出して告白してくれた祈織くんはどこに行っちゃったんですか?」

「天に召されました」

「まさに昇天ですね」

「誰が上手いこと言えと」



 布団の中で雫の背中をつつーっと指でなぞると、雫は「ひゃぅっ……!?」と反応した。相変わらず、いい反応するなぁ。



「ちょ、祈織くんっ……!」

「こちょこちょこちょ」

「ひゃぁぁぁ……! あははっ! く、くすぐったいですぅ!」



 とか言いつつ俺から逃げようとはしない。俺の体に引っ付いて、笑い声を我慢している。

 反応が可愛いな。前から可愛いとは思っていたけど、両想いになったら余計可愛く感じる。というか、愛おしい。

 くすぐる手を止めて、雫の体に腕を回す。

 頭をゆっくり撫でると、雫は首を傾げて俺を見上げた。



「どうしました、祈織くん?」

「雫。好き」

「ど、どうしたんですか突然!? 情緒不安定ですか!?」

「いや、なんかもうすっきりしたら、言葉にしたくなって。愛してるの方がいい?」

「どっちもお願いします」

「雫は言ってくれないの?」

「……大好きです」



 互いに顔を見合わせ、触れるだけのキスをする。

 ……ぷ。ふ、ふふっ。何やってんだろうな、俺ら。



「俺、想像以上に雫のこと好きみたい」

「奇遇ですね。私も、もう好きを止めないでいいとわかったら、好きすぎるくらい好きになりました」

「俺らってもしやバカップルなのでは?」

「あはは、それはないですよ。普通です、普通」

「そっか、普通か」



 普通の基準がわかんないけど。雫が言うなら間違いないだろう。

 雫は布団から起き上がると、脱ぎ捨てた浴衣を羽織った。



「お風呂行きますけど、祈織くんは行きます?」

「ああ」



 汗でびしょびしょだし、風呂でさっぱりしたい。

 俺も浴衣を羽織って、雫と一緒に地下室を出る。雫が途中ですれ違った仲居さんに部屋の掃除を頼んでたけど、第三者に事後の掃除をお願いするの恥ずかしすぎるんだが……。

 と、その時――がらっ。



「「「「あ」」」」



 突然、部屋から和樹と東堂が出てきた。

 二人とも浴衣が乱れていし、東堂は汗ばんだ肌に髪が張り付いている。

 和樹も息絶え絶えだし……これは間違いなく、事後だ。

 そして向こうから見たら、俺らも似たようなもの。

 事後のカップルが二人、廊下で出くわす……なんという気まずさ。なんという空気の冷たさ。



「え、と……風呂、行くか」

「だな……」

「そ、そうね」

「は、はい」



 とりあえず四人で移動。無言のまま男湯と女湯に入っていき、体を綺麗に洗ってから風呂に入る。



「…………」

「…………」



 無言のまま、和樹と並んで風呂に浸かる。

 どう話を切り出せばいいのやら……。

 どうすればいいか迷っていると、和樹が髪をかき上げながら話しかけてきた。



「祈織、上手くいったみたいだな」

「あー……まあ、そういうことで。和樹と東堂が背中を押してくれたおかげだよ」

「やるなぁ。あの学園の女神を落とすなんて」

「その呼び方、あいつの前では言うなよ」

「わかってるって」



 和樹はへらへら笑いながら、俺の肩に腕を置いてきた。



「で、あの様子だとヤったんだろ? どうだった、雪守さんは?」

「どうって言われてもな」

「今日が初めてだったんだろ? 極上の美女を抱いた感想はどうよ」



 え? ……あ、そうか。和樹は俺と雫が、元からそういう関係だって知らないのか。知られてたらやばいけど、東堂は言っていないみたいだ。



「そうだな……控えめに言って最高」

「だよな。俺も明日香と何度ヤってもヤり足りないし。極上の美女っていいよなぁ」

「お前、発言がクソ野郎って自覚ある?」

「ある」

「あんのかい」

「あるからこそ、気兼ねなくクソ発言できる」

「しない努力をしろ」



 俺、なんでこいつと友達やってんだろ。まあ楽しいからつるんでるんだけどさ。

 和樹の腕を振り払い、湯で顔を洗う。



「この話はやめよう。女の子には、知られたくないこともあるだろうし」

「おー、紳士だな」

「これが普通だ、バカタレ」



 和樹みたいなタイプが珍しいんだよ。

 と、和樹はにやりと笑って髪を掻き上げた。



「でもまあ、よかったよ。二人が付き合ってさ。お前ら、お互いに好きなのに踏み出せない感じだったから」

「そんなにわかりやすかったか?」

「おう。見ててじれってーくらいに」



 そんかにか。俺、そこまで雫に対して気持ちを全面に出したことなかったと思うけど。

 まあ、二人のおかげで今の俺らがあるんだよな……。



「改めて、サンキューな」

「もっと褒め称えてくれたまえ」

「調子乗んな」



 こういうところがなければ、素直に感謝出来るんだけどな。

 と、その時──。



「ええええ!? つ、付き合い始めたん!? 本当に!?」

「ちょっ、明日香ちゃん声大きいです……!」

「大きくもなるよ! おめでとー!!」

「わひゃっ!? だ、抱き着かないでくださいっ」



 どうやら、雫から付き合い始めたって話を聞いたらしい。東堂、俺ら以上にテンション上がってんじゃん。



「初瀬ー! あんたもおめでとー! 雫泣かしたら絞めるからー!」

「泣かせねーよ。あとどこ絞めるつもりだ」

「首!」

「ガチで怖いからやめろそれ!?」



 東堂だけは怒らせないようにしよう。マジでやりかねない、あいつ。



「和樹、お前東堂を怒らせないようにしろよ。付き合ってんだからさ」

「怒ってるところも可愛いだろ?」

「…………」

「おい何でそこで引く」



 確かに雫なら、「もうっ」とか「ふんっ」とか「ばーか」みたいな感じで、怒ると可愛いと思う。

 だけど東堂の怒り方はガチだ。やばい。

 これが惚れた弱みと言うやつか……あれ? 和樹って意外とM?



 ──────────────────────

【作者より】

 当作品に関する近況ノートを作成しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る