第27話 決めた覚悟
「おぉ、綺麗ですね〜……!」
「満開ねっ。見てて心躍るわ」
雪守と東堂が花々を見て楽しそうに笑っている。
そんな二人を、俺と和樹はベンチに座り、ジェラートを片手に見守っている。
「なあ、祈織。聞いていいか」
「なんだ?」
「俺の彼女、最高じゃね?」
「さあ……そうなんじゃないか」
「おいおい、どうした祈織。いつものお前ならツッコミ入れるところだろ」
「お前が俺をどう見てんのかよーくわかったわ」
流石の俺も、無粋なことは言わねーよ。
そっとため息をついて、ジェラートに口を付ける。
ただまあ、イマイチ気持ちが乗らないのは確かだ。
理由は、さっきの和樹と東堂の言葉。
俺と雪守の関係を知った上で、俺にがんがん行けと言う……いや、どう考えても行けないだろ。俺らの関係って、そんな簡単に前に進めるもんじゃない。
「なあ和樹。さっきがんがん行けって言ったけど、どういう意図で言ったんだ?」
「いんや、特に何も」
「は?」
「明日香が煽ってたから乗っかっただけ」
こいつ、マジでどついたろか。
拳を握ってぷるぷる震えていると、和樹が手を上げて苦笑いを浮かべた。
「まあ落ち着け。確かに乗っかっただけだが、あの言葉は本当だ」
「……俺から行けってやつ?」
「そうそう。お前、雪守さんのこと好きだろ」
「好きじゃない」
「いやいやいや。今更隠しても遅いくらいわかりやすいからな」
肘でつついてくんな。うっとうしい。
「まあ……嫌いではない」
「だよな。嫌いだったら、旅行なんて来ないもんな」
「うっせ」
「それにお前、雪守を見る目と俺らを見る目が明らかに違うし。恋する男子高校生の目になってんぞ」
「まんまじゃん」
「お、自白したな」
「……言葉の綾だ」
俺だって、雪守と体の関係なんてなければ、堂々と好きだって言える。
海外は体の関係を経て、なんとなく付き合うみたいな流れが主流らしいが……俺は生粋の日本人。体の関係から相手を好きになることに、どうしてもちょっと抵抗がある。
というか、不誠実と思ってしまう。
雪守も嫌だろ、こんな不誠実な奴。
「何に悩んでるのか知らんけど、雪守としっかり話し合ってみろよ。思いの外、すんなり行くと思うぜ」
「話し合い……」
「責任は持たんが」
「クソ野郎」
「それが俺だ。わかってんだろ?」
「……ありがとう」
「おうよ」
和樹はジェラートを食い終えると、俺から離れて雪守と東堂の方へ歩いていった。
話し合い、か……確かに和樹と東堂も、奥の間で話し合ってたっけ。
そういや、俺って雪守とまともに話し合ったことなかったな。ストレスのことも、欲望の発散のことも。
……今日の夜あたり、少し話してみるか。
「初瀬くん?」
「うおっ!?」
ゆ、雪守っ、顔近っ……!
「あ、驚かせちゃってごめんなさい」
「い、いや、大丈夫だ。どうした?」
「そろそろお茶体験の時間なので、移動しようかと。大丈夫ですか? 少しお疲れですか?」
「……大丈夫。少し考え事をしてただけだから」
「はぁ、考え事……です?」
「ああ。だから気にすんな」
雪守から視線を逸らし、ベンチから立ち上がった。
二人に変なことを吹き込まれたから、なんとなく雪守と顔を合わせづらい。
俺は雪守と少し距離を取るように、和樹たちの元へ向かった。
◆
公園内を歩き、俺たちは趣のある建物へと入っていった。
緑に囲まれた古き良き建物の中で、点ててくれたお茶と茶菓子を前に、四人並んでいる。
そよ風が気持ちいい。草木が擦れる音で、心が洗われる。
横目でみんなを見ると、雪守は流石の所作だった。綺麗な正座で、ゆっくりとお茶を楽しんでいる。
東堂もだ。全身で日本文化を堪能しているように見える。
和樹に至っては、一瞬でお茶と茶菓子を食い終わり、眠そうに船を漕いでいた。
かく言う俺は、正直集中出来ていない。
雪守と話し合うって決めても、何を話すかは決めかねていた。
やっぱり日々のストレス解消について? それとも欲望のこと? ……俺らの関係?
どれを話そうにも、どう話し始めたらいいのかわからん……。
じっと雪守を見ていると、雪守は少し頬を赤らめてムスッとした顔をした。
「初瀬くん。そんなに見られたら恥ずかしいんですけど……」
「あ、すまん。つい見蕩れてた」
「そ、そういうことをサラッと言わないでください……!」
怒られた。いや、怒られたのか?
雪守がぷいっとそっぽを向いてしまった。それを見てた東堂が、呆れたような顔をしている。ごめんて、だからそんな顔しないで。
わかってる。俺がチキンなのがいけないんだ。
臆病な心を押し殺し、覚悟を決める。
俺と雪守が前に進むには、それしかないんだ。
「って、今何時だ?」
「えっと……十六時丁度ですね。なんだかんだ、結構探索しましたねぇ」
「えー、もうそんな時間なの? もっと遊びたかったなぁー。……あ、嘘ですごめんなさい。私とカズくんのせいですよね、すみません。だからそんな目で見ないで」
わかってるならよろしい。
「今日はもう宿に戻りましょうか」
「そうね。そうしましょ。カズくん起きて、行くわよ」
「むにゃ……あすかのむねはぼいんぼいん……」
「なんつー夢見てんのよ!」
「ほべ!?」
おお、見事なラリアット。こんなに見事なのは初めて見た。
「ふふ。仲良いですね、お二人は」
「ま、中学が一緒だからな」
「でも、私たちも負けないくらい仲良しですよっ」
「…………」
「……初瀬くん?」
仲良し……仲良し、か。
「雪守。今日の夜、ちょっといいか?」
「夜、ですか?」
「……話がある」
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