第26話 散策
なんだかんだ雪守に搾り取られ──結局、和樹と東堂が起きてきたのは十二時過ぎ。
起きてきた二人は、本当に申し訳なさそうな顔で……俺の前で正座していた。
俺はあぐらと腕を組み、二人にきつーい視線を向ける。
二人は申し訳なさでいっぱいなのか、俺を見ず畳をじっと見つめていた。
「被告人、富田和樹」
「ま、待ってくれ。俺も本当に申し訳ないと──」
「死刑」
「弁明すら聞かないだと!?」
「冗談だよ」
「ほ……」
「私刑」
「字が変わっただけで内容変わらないよねそれ!?」
よく気付いたな。流石、よくつるんでるだけある。
俺はそっとため息をつくと、雪守が入れてくれたお茶をすする。ずずず、うまい。
「別に俺は、寝坊したことに怒ってるんじゃない。初めてのセ〇クスだし、お互い快楽を求めて腰を振るのもわかる」
俺の言葉に、和樹と東堂は顔を真っ赤にして俯いた。当たらずとも遠からずといった感じか。初々しいねえ、二人とも。
「今回の旅行の目的の半分は、二人をくっ付けるため……だけど残りの半分は、ちゃんとした旅行だ。せっかく雪守が諸々の手配をしてくれていたのに寝坊しやがって」
「ま、まあまあ、初瀬くん。私は気にしていませんから」
うん、知ってる。
でもこういうのはメリハリを付けないと、後々大変なことになるからな。
付き合いたてのカップルほど燃えやすい。その分鎮火しやすいから、長続きさせたかったら
だけど不当に怒られてることに納得がいかないのか、東堂がむすーっとした顔をした。
「起こしてくれてもよかったじゃん……」
「ほう? 全裸で抱き合って爆睡してたお前らを、俺らに起こさせろと?」
「えっ、ちょっ、初瀬見たの!?」
「安心しろ、見たのは雪守だ」
「雪守さん俺の裸見たの!?」
「ええ、まあ」
ナイス雪守、合わせてくれた。
俺が東堂の裸をガン見したなんて知られたら、最悪殺される。
「まあ、それならいいわ」
「俺がよくねーよ!?」
「だ、大丈夫ですよっ。お徳用な大きさだと思いますから」
「それは暗に量産品だといいたいの!? もうやだっ! ふて寝する!」
うん、今のは雪守が悪い。
結局和樹が復活したのは一時間後。もう十三時も回った頃に、俺らはようやく宿から出発した。
「時間が時間ですし、これじゃあ回れても一つか二つですね」
「和樹のせいだな」
「カズくんのせいね」
「俺のせいなの!?」
お前がいつまでもうじうじしてるのが悪い。
雪守の手配してくれた車に乗り込み、車内で女将さんが用意してくれたおにぎりを食べながら、行き先について話し合うことに。
「箱根は公園や美術館が多いんです。なので散策がメインになりますね」
「最初は強羅公園だっけ?」
「はい。強羅公園を散策して、時間があったら彫刻の森美術館に行こうかと。距離的には問題ありませんけど、強羅公園は広いですからね。のんびりとするのもありです」
スマホで強羅公園のサイトを検索し、マップを元に色々と見ていく。
なるほど、確かに広い。散策と言っても色々と見るところもあるし、休憩所もある。
改めて見るとこの広さは凄いな。花も咲いてるだろうし、噴水広場なんかも綺麗だ。
丁度天気もいいからなぁ。いい散策時間になりそう。
「俺はそれでいいぞ。和樹たちは大丈夫か?」
「俺もオーケー」
「私も! お茶体験とかしてみたい!」
いや渋いな東堂。意外とそういうのがお好き?
まあ中学の頃の東堂はどっちかっていうと大人しめな感じっぽかったから、わからなくもないが。
スマホを見ながらあれこれと話していると、車がゆっくりと停車して運転手が扉を開いた。どうやら着いたらしい。
「おおっ、ここが強羅公園……写真で見るよりずいぶんと広いな」
「季節的にはシャクナゲやボタン、ヤマフジが見ごろですね。バラも少しずつ咲いていますし、ローズガーデンを散策するのもありです」
「俺、お土産見たい!」
「それは最後でしょ。全く……」
まあ和樹がお土産を見たい気持ちはわかる。お土産って見てるだけでテンション上がるもんな。渡す相手いないから買わないけど。……か、悲しくなんてないし。
「ま、ゆっくり見て回ろうぜ。急ぐ必要はないし」
「そうですね。それじゃあ行きましょうか」
正門から中に入ると、なんとなく異空間に入ったような感覚に陥った。
時間がゆっくり流れているような変な感覚。外界と切り離されたような空間に、気持ちがすっと和らいだ。
みんなも同じ気持ちなのか、和樹もすごく溶けたような顔をしていた。
「……俺、ここ一生いれる」
「わかる」
俺と和樹って、意外とこういう場所が好きなんだよな。
がやがやにぎやかなところも好きだけど、普段が忙しいからゆっくりした時間が流れる場所も好きなんだ。
言わずもがな、雪守も全身で公園のゆったりした空気を感じていた。
毎日毎日、本当に忙しそうだからな、雪守。そういや、旅行先の案出しの時も京都とかゆったりできる場所を指定してたっけ。
一応俺も雪守のストレス発散に付き合っている身。もう少し、雪守のストレスをこまめに発散させなきゃならないんだろうけど……どうしたらいいものか。
目を閉じて気持ちよさそうにしている雪守を見ていると、和樹が俺の肩に腕を回してきた。
「おう祈織。そんなに雪守さんのこと見てたら、気味悪がられるぜ?」
「あいつはそんな奴じゃないって」
「お? 誰よりも一番近くにいるから、自分が一番よくわかってるって自負かい?」
「ちゃうわい」
当たらずとも遠からずってところだけど。
すると、東堂も反対側から俺の肩に手を置いた。
「あんた、そろそろ自分の気持ちに素直になった方がいいわよ。見ててイライラするわ」
「そうそう。雪守さんは自分から行くタイプじゃないし、お前から行った方がいいって」
「うっせ」
こっちの事情も知らずに好きに言いやがって。……あ、東堂は俺らの関係を知ってるんだっけ。
「ええ、知ってるわよ」
「ナチュラルに思考読むのやめろ」
「知ってる上で、がんがん行きなさいって言ってんの」
東堂は俺の肩を強めに叩くと、雪守のところへ向かっていった。
知ってる上でがんがん、て……なんで?
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【作者より】
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