第24話 お膳立て

 贅沢で豪勢な夕飯を食べ終え、俺らは部屋に備え付けてあるテレビを見ながらゆったりした時間を過ごしていた。和樹はお笑い番組を見て爆笑しているけど。

 こんな日があと三日も続くって考えると、最高としか言えない。幸せがすぎる。

 食後のお菓子を摘んでいると、東堂が立ち上がった。



「わ、私、もう一度お風呂入ってくるわ。雫はどうする?」

「あ、私も行きます」



 雪守も立ち上がると、意味ありげな視線を俺に送ってきた。

 ははん。なるほど、そういうことか。



「和樹、俺らも温泉行くぞ」

「え? いやいいよ。食後に風呂入ると消化によくないし、お笑い見てたい」

「こんな時だけまともな事いうんじゃねぇ。行くぞ」

「んげっ。ちょ、引っ張んな! わかった、わかったから……!」



 風呂の準備をして風呂場に向かう。

 さっきと同じように男女別に別れて服を脱いでる間も、和樹はぶつぶつ文句を言っていた。



「ちぇー。いいとこだったのによぉ〜」

「和樹、お前は馬鹿か」

「何が?」

「付き合い始めた男女。お泊まり。何もないことはなく……あとはわかるだろ?」

「ッ!? えっ、いや、えっ……ま、待て待て。それは早いような……!?」

「お前ゴム持ってきてただろ。覚悟決めろ」



 しかも俺のせいにしやがって。あとで何かにかこつけてぶん殴る。



「そ……そ、そう、だな……わわわ、わかった。うん、俺も男だ。……やってやるさ」

「おう、頑張れ」

「……待て、そうなると祈織と雪守さんが同じ部屋で寝るのか?」

「それはないだろ」



 流石の雪守も、近くに二人がいるのにやることはないと思う。あいつ、声でかいし。



「そ、そうだよな。……すまん祈織、後ろ向いててくれ」

「あ? ……ああ、なるほど。お前、興奮しすぎだろ」

「男のですぅ! 仕方ないんですぅ!」

「まあ気持ちはわかるが」



 そっとため息をつき、和樹と離れて服を脱ぐ。

 気を使って俺が先に入ると、後から和樹が入ってきて念入りに体を洗い始めた。

 俺も初めて雪守とした時も同じ感じだったなぁ。……こうして見ると、すげぇシュールだ。



「ここここっち見んな!」

「あいよー」



 童貞かよ。……あ、童貞か。

 体を隅々に洗った和樹と一緒に、俺らは部屋へと戻った。

 因みに、雪守と東堂は既に風呂から上がったらしい。東堂の方も、風呂がメインじゃなくて体を洗うことがメインだったみたいだ。



「やべぇ……マジで緊張してきた」

「緊張しすぎるとふにゃふにゃになるらしいから、気を付けろよ」

「……なんでそんなこと知ってんの?」

「ネットで調べた」

「お前もそういうこと調べるんだな」

「うるせ」



 実体験とは言えんだろ。ちゃんと出来たけど。

 と、部屋の前で待っていた仲居さんが、こっちに向かって恭しく頭を下げてきた。



「お待ちしておりました。富田様はこちらの部屋へ。初瀬様はあちらになりますので、ご案内いたします」

「わかりました。じゃあな、和樹。しっかりやれよ」

「わわわわわわわかった……! 童貞の妄想力で鍛え上げたテクニック、炸裂するぜ……!」



 それガチでやめとけ? 多分ドン引きされる。

 ほら、仲居さんも半笑いだし。ほんと、うちの童貞がすみません。

 仲居さんに案内され、旅館の中を歩く。

 と……え、階段? 地下?



「あのー、本当にここですか?」

「ええ。雫お嬢様のご指示で」

「雪守の?」



 ならいいけど……本当になんで?

 螺旋階段を下りていくと、目の前に高級そうな襖が現れた。



「奥で雫お嬢様がお待ちです。それでは、私はここで」

「え? ……はぁ……?」



 仲居さんが去っていき、襖の前に取り残された俺。

 これ、入っていいんだよな? 奥にいるんだもんな、雪守。

 どうしていいかわからず立ち尽くしていると、奥から「どうぞ」という声が聞こえてきた。

 これは……行くしかない、よな。



「お、お邪魔します……」



 襖に手をかけて、ゆっくりと開ける。

 その先には……なんだか異様な光景が広がっていた。

 まず目に入ったのは雪守。だが浴衣姿ではなく、本格的な着物を着崩していて、花魁のような姿をしていた。

 さらに掛け軸、屏風、布団など、まるで遊郭の一室のような感じだった。



「いらっしゃいませ、初瀬くん」

「い、いらっしゃいませって……これ、何?」

「何って、遊郭ごっこですよ。この部屋は、すごく大昔には利用客と仲居さんが使っていた部屋らしくて。今はそんなことはありませんが、凄く歴史のある部屋なんですよ」

「そ、そうか」

「それにここは地下なので、いくら大声を上げても心配ありませんよ♪」

「結局それが理由なんじゃないか」



 雪守が言ってた考えって、こういうことね。

 確かにここなら声が漏れることはないと思うけど、用意周到というかなんというか。



「それに、明日香ちゃんと富田くんも、声は聞かれたくないでしょうし」

「……そうだな。それがいいかも」



 誰だって、行為中の声は聞かれたくないもんだ。雪守もそういう気遣いとか出来たんだな。



「ところで初瀬くん。例のゴムは持ってきました?」

「え? ああ、持ってきたけど……俺ら、これ使ったことないぞ。今更使うのか?」

「ええ。ちょっとやってみたいことがあって」

「やってみたいこと?」






「回数を視覚化するのって、興奮しません?」

「ド変態が」


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【作者より】

 いつもお読み下さり、ありがとうございます!

 当作品についての近況ノートを書きましたので、是非お読みください!

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