第19話 四人で話し合い

「でもゴールデンウィークって来週だろ? 旅行に行くのはいいけど、宿は取れるのか?」

「和樹。我らには雪守雫という最強のお嬢様がいらっしゃることをお忘れか?」



 雪守がむんっと力こぶを作るように手を握り、ドヤ顔をした。くそ、可愛いな。

 和樹も納得したのか、雪守に頭を下げた。



「雪守さん、無理言ってごめんな」

「いえいえ、お気になさらず。旅費も全て雪守家が持つので、なんの心配もありませんから」

「気にするんだけど!?」



 あーはいはい。そのリアクションはいいから。話進まないから。

 無理やり和樹に納得してもらい、強制的に旅行先の話に持っていく。



「和樹、ゴールデンウィークにオススメの旅行先とかあるか?」

「ん? そうだな……長期休暇なら、沖縄の離島とかも回れるし、北海道なら丁度桜が見頃らしい。のんびり散策するなら京都。温泉メインで楽しむなら箱根とか」



 流石旅行好き。スラスラと出てくるな。

 雪守と東堂も目をキラキラさせて聞いている。旅行先に思いを馳せているみたいだ。

 確かにゴールデンウィークなら、気温も丁度いい。三泊四日という期間なら沖縄でも北海道でも、どこでも行けそうだ。



「雪守はどこ行きたい?」

「そうですね……確か京都はツツジやサツキが見頃ですね。以前、家のことで京都に行った時、凄く綺麗でした」

「雪守は京都、と。東堂は?」

「私は北海道かなぁ。四人でお花見とか、凄く楽しそう。まあ、それは来年でも出来そうだけど」

「東堂は北海道……和樹は?」

「俺は箱根一択だな。温泉以外にも大涌谷、強羅、美術館もある。贅沢にのんびりするなら箱根だろ」



 京都、北海道、箱根。見事にバラバラだ。

 俺としてはぶっちゃけどこでもいい。タダ旅行が楽しめるなら、俺はへこへこ頭を下げてついて行くだけ。

 でも三泊四日って意外と短い。遠い場所だと、意外と回る時間がなかったりする。

 ふむ、どうするか……。



「あ、それなら私、箱根でいいよ」



 と、そこで東堂が手を上げて意見を変えた。

 目の端で、雪守がうんうんと頷くのが見える。なるほど、これは計算か。

 和樹は気付いていないみたいで、キョトンとした顔をしていた。



「え。東堂、いいのか?」

「うん。さっきも言ったけど、花見は来年でも出来るし。あと温泉旅行とか行ってみたいからさ」

「それなら私も箱根でいいですよ」

「俺はどこでもいいから、箱根で決まりだな」

「お、おう……?」



 あれよあれよという間に決まり、和樹は困惑気味だ。

 雪守と東堂の作戦なら、今更俺が別の意見を言っても変わらないし。



「温泉旅行なら、オススメの旅館がありますよ。山の中にあるんですけど、星空が凄くきれいなんです。ご飯も最高ですし、旅館の中に色々なレジャー施設があるので、遊ぶことも出来ますよ」

「それって、もしかして天空湯治卿か?」

「流石富田くん。よくご存知で」

「そりゃあ、温泉旅行好きなら一度は行きたい旅館だからな。でも今からじゃ無理だろ」

「まあ、とりあえず聞いてみますね」



 雪守はスマホでどこかへ電話を掛ける。多分、例の天空湯治卿だろう。

 その間、俺は俺で天空湯治卿を検索。

 凄く綺麗な旅館だ。完全に和風建築で、温泉も多種多様。値段もそこまで高くない。

 ただ、旅行サイトではゴールデンウィーク中どこも埋まっている。

 これ、無理じゃないか……?



「あ、もしもし、雪守です。いつもお世話になっております。ゴールデンウィークなのですが、三泊四日でお願いしたくてですね。……はい、いつもの裏VIPでよろしくお願いします。それでは。……はい、予約出来ましたよ」

「「「雪守家、ぱねぇ……」」」



 裏VIPなんて聞いたことないぞ。なんだそれ、そんなのあるのか。

 金持ちの世界、すげぇな。



「皆さんは当日、ご自身の着替えなど必要なものを持ってきてくだされば大丈夫です。諸々の手配は、私の方でやりますので」

「悪いな、雪守。何でもかんでも頼んじゃって」

「いえいえ、お気になさらず。お友達と旅行だなんて、私も凄く楽しみですから。幸い今年のゴールデンウィークは予定もありませんし、気兼ねなく行けます」



 そうか。雪守って家のことが忙しくて、こういう旅行とか行ったことなかったのか。

 若干十六歳の少女なのに、下手な大人より濃い人生を歩んでるよな……。



「それじゃ、今日は解散にしまょう。雫、この後買い物したいんだけど、付き合ってくれる?」

「はい、勿論です! 私も色々と新調したいので、行きましょう!」

「だ、誰もそんなもの買わないわよ!」

「買わないんですか?」

「……買う」

「明日香ちゃん、可愛いですね」

「そ、そんなことないもん!」



 何かやいのやいのと言ってるけど、何を言ってるのかわからない。

 俺と和樹は互いに顔を見合せ、首を傾げた。



   ◆



 雪守、東堂と別れ、俺と和樹はそのまま帰るのも勿体ないってことで麺屋ときのに来ていた。

 が、なんか今日は賑わっている。いつもほとんど人はいないのに、やけに多いな。

 忙しく動き回っているおっちゃんだが、俺らを見ると手を止めて話しかけて来た。



「あん? なんだ、坊主共だけか。嬢ちゃんたちは?」

「さっきまで一緒だったけど、解散した。……繁盛してんな」

「この間、嬢ちゃんたちが来たろ? あの子たちが美味い美味いって食ってくれてな。美少女も唸る美味さのラーメン屋ってことで、今忙しいのよ」



 なんと、そんなことが。

 雪守と東堂は、顔面偏差値で言えば学校トップクラス。

 そんな美少女が美味いと口を揃えて食べたって噂を聞けば、気になるのも当然か。



「お前たちいつものだろ? 丁度空いてるから、そこ座れ」

「はいよ」



 カウンター席に座り、おっちゃんに券を渡して待つ。

 隣に座る和樹が水を飲み干すと、「そんで」と口を開いた。



「どうしてこうなった?」

「今更だな」

「いや、口を挟むような空気じゃなかったし。俺も楽しみではあるけどさ」



 まあ、和樹からしたら突然のことだもんな。無理もない。



「深くて浅く、狭くて広いやんごとなき事情があんだよ」

「意味わかんねぇ……」

「でも雪守と東堂と一緒に旅行だぞ。役得だろ」

「確かに。これも、祈織が雪守さんのところで働いてくれてるおかげだな」

「感謝しろよ」

「おっす。あざっす」



 感謝が軽いな。

 先に出された餃子をつまみつつ、ふと疑問に思ったことを聞いてみることに。

 いや、これギリギリダメな気がするが……まあ和樹ならいいか。



「ところで和樹。お前付き合うなら雪守派? 東堂派?」

「なんだよ藪から棒に」

「なんとなく。あんな美少女と旅行に行くんだし、もしかしたらがあるだろ」

「はは、あの二人に限って俺ら? ないない……と、言いたいが……まあ付き合うなら東堂だな」



 お、これは。



「なんで?」

「体がタイプすぎる」

「クソ野郎じゃん」



 流石の俺もドン引きだ。そんな理由で付き合うとか、東堂が可哀想すぎる。

 マジでなんでこんな奴好きになったの、東堂?



「待て待て、それ以外もあるぞ。純粋に昔の東堂を知ってるからな。あの素直で純真で可愛い子を知ったら、そりゃ好きにもなる」

「へぇ、そうなんだ」

「ああ。あと雪守が相手だと、俺も忙殺されそう」

「それはそう」



 事実俺も、高々週一の仕事なのにめっちゃ忙しい。



「そういう祈織は雪守だろ?」

「まあな」

「お、素直じゃん」

「今更否定しても仕方ないからな。でも好きかと言われると微妙だ」

「そうなん? でも傍から見ると──」



 和樹が何かを言うタイミングで、おっちゃんが俺らの前にラーメンを置いた。



「へい、お待ち。悪いがちゃちゃっと食ってくれ。外に客が並び始めたからな」

「あーい」

「うっす」



 和樹と一緒に手を合わせ、ラーメンに口をつける。

 それにしても……和樹のやつ、何を言いかけたんだ?

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