第18話 作戦会議

 無事アクセサリーを買い終え、二人と一緒に近くの喫茶店に入った。

 俺はブラックコーヒー。雪守は紅茶。東堂は砂糖ましましココアを飲んでいる。

 一息ついたところで、俺から東堂に話しかけた。



「そんで買ったはいいけど、どうやって渡すんだ? あいつの誕生日ってわけでもないし、いきなり渡すのは変に思われるぞ」

「う、確かに……」



 まあ、和樹ならそんなこと気にせず受け取るとは思うけど。

 ただシチュエーションってのは大事だ。初めてのあいつも結構拗らせた童貞だから、そういうのを意識している。いつも話を聞いている俺が言うんだから、間違いない。

 と、雪守がそっと手を上げた。



「やはり旅行に連れ出して、そこで渡すのはどうでしょうか。富田くん、旅行も好きみたいですから」

「でもそれ、二人きりでってことだよね? 付き合ってもない男女が二人で寝泊まりってどうなの?」

「そうですかね。普通ですよ」

「そりゃあ、毎週ヤることヤってる二人からしたら普通かもしれないけどさ。私からしたら一世一代のことなの」



 …………。



「おい東堂。そのこと誰から聞いた」

「雫以外いなくない?」

「でしょうね」



 雪守を睨みつけると、がっつり目を逸らされた上にクソ下手くそな口笛をしやがった。



「雪守、お前なぁ……」

「あれは事故だったんです。私のせいじゃありません。鎌をかけた明日香ちゃんのせいですから」

「いや口を滑らせた雫のせいでしょ。私に罪を擦り付けないで」

「同罪だばかたれ」



 まさか雪守がこんなに口が軽いとは思わなかった。

 東堂だけならいいけど、これが本当に事情を知らない奴が聞いたら本当に問題になる。雪守にはその辺の危機意識をちゃんとしてほしい。



「ま、まあまあ。でもそれならダブルデートって感じで、四人で旅行に行くのはどうですか? 費用は雪守家が持ちますので」

「マジ? 雫、いいの?」

「ええ、勿論です」



 おお、四人分の旅行費用を全額出すとか、流石雪守。



「俺はそれでいいと思うぞ。修学旅行で突然付き合いだす男女もいるって聞くし、それくらい旅行っていうのは男女の仲を進展させるもんだ」

「で、でも……」

「俺と雪守はいいし、和樹に関しては俺が縛ってでも連れていく。あとは東堂の気持ち次第だ」

「う、うぅ……」



 目をぐるぐるさせて顔を真っ赤にしている東堂。見た目ギャルなのに、意外と小心者だな。見た目で判断するのはダメだけど。

 さて、どうやって東堂を説得するか……。

 と、腕を組んで思案していた雪守が、力強く頷いた。



「明日香ちゃん、ちょっといいですか? 耳を貸してください」

「え? う、うん」



 ……雪守? 一体何を……?

 雪守が東堂の耳に口を近づけ、ごにょごにょと何かを話している。

 東堂の顔が驚愕に染まり、すぐに真っ赤になり、そして一瞬で覚悟が決まった顔になり……。



「行く。旅行、行く」



 見事な手のひら返しで行くことを宣言した。

 一体何を言ったんだ、雪守。



「旅行先の部屋割りを同じ部屋にするって言ってあげただけですよ。年頃の男女。同じ部屋で寝て何も起きないなんてことはなく……ね?」

「そそのかしてんじゃないよ」



 高校生らしからぬことをしている俺が言うのもなんだけど、俺ら高校生だからな。そこんところわかってる?

 だが東堂は既に覚悟を決めているようで、若干緊張した顔でふんふん息まいている。



「旅行までに体のケアとか、私の家でサポートします。頑張りましょうね、明日香ちゃん」

「うんっ。私、頑張る……!」



 恋する乙女は強いと聞くけど……こんなに行動力が上がるもんなのか。

 和樹、いい子に好かれたなぁ。……申し訳ないが、あいつを好きになる要素、どこにあんだ?



「時期はゴールデンウィークとかでいいと思うが、旅行先はどうするよ」

「そうですね……その辺は、富田くんも混ぜて決めてもよいのでは? 世界遺産が好きとなると、富田くん主導で決めた方がいいと思いますし」

「確かにな。今から呼ぶか。確かバイトは休みのはずだし」



 スマホを操作し、和樹の電話番号にコール。ワンコールですぐ出た。



『おー? 祈織、どしたー?』

「ワンコールで出るとかキモい」

『え、喧嘩売るために電話かけてきたん?』

「冗談だよ。ちょっと話があるから、今から百貨店近くの喫茶店に来い」

『お、怒ってる? なんか怖いぞ、今日のお前』

「別に怒ってないから、すぐ来いよ。お前にいい話だからさ」

『……わかった。五分で行く』



 そういうと、和樹は電話を切った。五分とか早いな。



「すぐ来るそうだ。東堂、その荷物片付けとけよ」

「わ、わかったわ」



 そうして待つこと五分。

 本当に五分で来た和樹が、店に入って俺を探している。

 と、俺と目が合ってこっちに来て……固まった。

 そりゃそうだ。呼んだのは俺なのに傍に雪守と東堂までいるんだから、驚くに決まってる。



「おう、和樹」

「富田くん。お呼び立てしてしまい、すみません」

「富田、突っ立ってないでこっち座りなよ」

「お……おう……?」



 まだ現状が理解し切れていないのか、和樹は呆然としたまま俺の横に座った。

 見た目は完全無欠の清楚。中身は欲望お化けの雪守雫。

 見た目は派手ギャル、中身は純情乙女の東堂明日香。

 見た目はイケメン。中身は馬鹿の富田和樹。

 そしてオール平凡、俺。

 周りから見たら異様な集団だろう。



「な、なあ祈織。これなんの集まり? どうして雪守さんと東堂が……?」

「まあ、ちょっと事情があってな。この四人で旅行に行くことになった」

「……は? 旅行? この四人で?」



 まあ、そういうリアクションにもなるよな。



「深くは聞くな。こっちにも事情があるんだ」

「この四人で旅行に行く事情とか全く想像つかないんだけど」

「気にすんな。で、これから旅行先の話し合いをする。時期はゴールデンウィーク。多分二泊三日か、三泊四日くらいだ。和樹、予定は?」

「食って寝るくらいしかやることないけどさ……はぁ、まあ決まってることみたいだし、わかったよ」



 和樹は諦めたみたいにため息をつく。

 まあ、諦めなくても無理やり縛って連れていくから、どっちでもいいんだけどさ。

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