第17話 初めてのプレゼント
◆祈織side◆
「で、なんであんたもいんのよ」
「知らん」
平日なのに珍しく雪守に呼ばれたと思ったら、なんと東堂までいるじゃないか。
俺、雪守、東堂という珍しいメンツの上に、場所は地元の百貨店。
学校の奴らも何人か見かけるし、めちゃめちゃこっち見られてる。気まず。
さて、唐突に呼ばれただけだから、訳がわからない。何がなにやら。
唯一事情を知ってる雪守は、気まずそうに指をもじもじ絡ませていた。
「えへへ……えっと、男物のプレゼントなら、男の子の意見が必要かと思いまして……」
「あー、和樹のプレゼントか」
「ちょっ、なんで初瀬が知ってんのよ!」
「雪守に聞いた」
「し〜ず〜く〜!」
「ご、ごへんなはい〜!」
雪守の頬を引っ張ったりこねくり回したりしている東堂。雪守もどことなく楽しそうだ。
そういや、こうやって雪守に接する同性の友達って、いなかった気がする。いつも囲っている奴らは蝶よ花よと愛でるだけで、対等って感じではなかったし。
うんうん、よかったな、雪守。
「全く……まあバレちゃったもんは仕方ないわ。初瀬、協力しなさい」
「上からだな」
「咽び泣いて土下座して懇願すれば手伝ってくれる?」
「そんな趣味はねーよ」
俺をどんな鬼畜生だと思ってんだ。
「事情はわかった。確かこの辺だと、和樹がよく買いに行くショップがある。そこ行こう」
俺を先頭に、二人が後ろを着いてくる。
本当、異質なメンバーというかなんというか。
いつもは学校から直帰する、お嬢様の雪守。
同性と絡んでるところを見たことがない、ギャルの東堂。
そして二人と殆ど絡みのない、男の俺。
どうしてこうなった。誰か教えてくれ。
少しだけ、後ろを振り返る。
「えっ、あそこの限定バッグ、手に入ったん!? いいなぁー、私ゲット出来なくて……」
「よろしければ、お一つあげましょうか。予備でもう一つ買っていたので」
「マジ!? 雫、神! ありがとー!」
「にゃぷっ」
興奮した東堂が雪守へ抱き着く。頭一つ分身長が違うから、東堂の特盛のお胸に雪守の頭が埋もれた。
雪守もそれなりにでかい方だが、東堂はそれ以上だ。なんかエロい。
それに、雪守は全然嫌そうじゃない。
いや、胸に埋もれてげへへってなってる訳じゃなく、こういう風に友達と接せて嬉しいって感じみたいだ。
「ん? ……何見てんのよ」
「……いや、いいなと思って」
「すけべ」
「そういう意味じゃねーわ」
単純に、これを機に雪守のストレスが緩和されたらなと思ってるだけだ。
……そうなったら、俺もお役御免になるのかな。
まあ仕方ないさ。俺と雪守は別に付き合ってるわけじゃないし、契約解除と言われたらそれに従うしかない。
でも……寂しいな、それは。
「っと、着いたぞ。ここだ」
「おぉ……如何にもですね」
小綺麗なアクセサリーショップではなく、少しファンキーな外観のテナントだ。
ドクロの指輪。十字架のネックレスなどが手頃な価格で売られている。
「富田ってどんなものが好きなの?」
「基本なんでも買うが、新作だったり十字架系はよく買ってるな」
「十字架……」
東堂がガラスケースの中のアクセサリーを物色する。
雪守も珍しいのか、東堂と一緒にあれやこれな言いながら見ていた。
と、雪守が何かに気付いたように俺を見た。
「あれ? でも初瀬くん。ここによく来るってことは、富田くんはこの辺のものは殆ど持っているのでは?」
「よく気付いたな。その通り、ガラスケースに入っていてあいつの趣味のものは、もう一通り買ってるはずだ」
「マジ? それじゃあ意味ないじゃない」
「大丈夫だ。店先に出てないもんなら、あいつもまだ手に入れてないはずだし。ちょっと待ってろ」
店の奥に行くと、レジの奥でアクセサリーを磨いていた女性の店員さんに話しかけた。
「んー? おー、初瀬さん、久々だね」
「お久しぶりっす、佐藤さん」
耳に大量のピアスを付け、指輪、ブレスレット、ネックレスと、まさにこの店の店主らしい格好をしている。
佐藤さんは俺の後ろをちらっと見ると、ダルそうに首を傾げた。
「おや、女性連れなんて珍しい。富田さんは一緒じゃないのかい?」
「ちょっと訳ありで。こっちのギャル……東堂が、あいつへのプレゼントを探してるんだ」
「と、東堂、です」
「どーも、佐藤です。健気な子じゃないか。今後ともご贔屓に」
佐藤さんはくすくすと笑うと、磨いていたアクセサリーをしまい、別のものを取り出した。
「富田さんは確か、クロス系が好きなんだよね。いいのあるよ。これなんか私がデザインしたもので、今んとここの店にしかないし、まだ店頭にも並べてない」
少し大きめのネックレスだが、シルバーの十字架の枠の中に、さらに小さな十字架が浮かんでいる。
多分、一部分を金属で固定しているんだろう。
揺らすと、中の十字架が揺れて鈴の音のような音を鳴らした。
「凄いですね、これ」
「うん。凄く綺麗だし、かっこいい……因みにこれおいくらですか?」
「今のところは二万円で考えてるよ」
「う……」
二万円か……高校生からしたら、かなり高額だ。
俺は雪守のおかげで結構懐が暖かいし、雪守も言わずもがなお金持ちだ。
でも東堂は違う。
「流石に……いや、でも……うぅ……!」
「俺が貸してやろうか?」
「私も出しますよ」
「そ、それはダメっ。初めて渡すプレゼントだし、ちゃんと自分で出したいから……!」
……なんか、すげーいい子だ。こんなギャルっぽい見た目なのに。
あ、そういや和樹が、中学の頃は可愛いもの好きでいい子って言ってたな。なるほど、納得。
ネックレスを前に唸る東堂。すると、佐藤さんがニカッと笑った。
「随分と好きなんだね、富田さんのこと」
「……はい」
「ふむ……なら特別価格。二千円でいいよ」
「……え!?」
東堂は目を見張って佐藤さんを見る。
佐藤さんは、手際よく梱包しプレゼント用の包装をしてくれていた。
「い、いいんですか……?」
「うん。恋する女の子が、私のデザインしたアクセサリーを選んでくれた。そして真剣に悩んでくれた。それが何より嬉しいんだ、私は」
紙袋に商品を入れると、東堂に手渡す。
そっと東堂の手を包み、にこっと笑いかけた。
「その代わり、しっかり富田さんの心を射止めること。次来るときは、二人でおいで」
「……はいっ。あ、ありがとうございます!」
本当、いい人だよな、佐藤さん。こういうところがあるから、この近辺でも佐藤さんのファンは多い。
かく言う俺も、佐藤さんの隠れファンだったりする。
「よかったですね、明日香ちゃん」
「うん! 私、本気で頑張るよ!」
後ろで二人がきゃいきゃいしているのを見る。
なんだか、俺も欲しくなってきた。久々に一つ買うか。
「佐藤さん、俺にも何か出して」
「はい、ドクロのリング。三万八千円ね」
「たっか!? しかも量産品だし!」
「彼女の赤字分は取り戻さないと。これも商売さ」
今日限りでこの人のファンやめよ。
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