第12話 東堂からの相談
「ご、ごっそうさん……」
し、死ぬ……流石に死ぬ……。
時間は掛かったが、ようやく俺と雪守の分を食いきれた。ほぼ三人前のラーメンを食った計算になる。
もう胃がはち切れそうだ。しばらくラーメンはいいな……。
四人で店を出て、俺らは近場の公園で食休みの休憩を取っていた。
「ごめんなさい、初瀬くん。私のせいで……」
「き、気にすんなって。これくらいなんとも……ぅっ」
ごめんやっぱキツい。ちょっと喋れそうにない。喋ったら吐く。マーライオンになっちゃう。
「祈織、おめーは男だよ……!」
「いや残せばよかったじゃん」
「東堂ばかやろー! 祈織は雪守さんを悲しませまいと頑張った。男の中の男だよ……!」
「ばかじゃん?」
ごめんな和樹。庇ってくれるのは嬉しいが、こればかりは東堂に同意せざるを得ない。
呼吸を整えて気持ちを落ち着けていると、ふと雪守が首を傾げた。
「ところで、お二人は何故ご一緒に?」
「あー、違う違う。東堂の友達かなんなが誰かを好きらしくて、それについての相談だ。つっても、あんま要領を得ないというか」
「…………」
……? なんだろう。なんとなく東堂から気まずそうな空気を感じる。
「相談……ですか?」
「ああ、同中のよしみでな」
まあ聞こうにも口を開けばマーライオンだし、聞くほど東堂と仲がいい訳でもないが。
「東堂さん、よろしければ私もお手伝いしましょうか?」
いや豪胆だな、雪守。
雪守も東堂と仲がいい訳じゃないと思う。いつも雪守を囲んでる中に、東堂はいなかったはずだ。
それでも相談に乗るって、お人好しなのか好奇心なのか……あ、ちょっと楽になってきた。
「え、いや悪いよ。それに、内容が内容だから……」
「何をおっしゃいますやら。お友達が困っているのですから、助けるのは当然ですよっ!」
「……友達? 私らが?」
「はい! 一緒にご飯を食べたんですから、お友達です!」
ぐいぐいくる雪守に、東堂はたじたじだ。
わかる、わかるぞその気持ち。雪守って何故かぐいぐい来るんだよな。パーソナルエリアが広いというか。
グイッと前のめりになった雪守から逃げるように、東堂は体を逸らした。
「雪守さんって、こんなに押しが強いんだな。ちょっと意外だ」
「こんなもんだぞ、雪守って」
「お? みんなが知らない雪守さんを自分だけ知ってるってマウントか? なんだ喧嘩売ってんのか? 腹押してやろうか」
「ちげーしやめろ」
和樹の手を弾き、雪守と東堂を見る。
でもそうか。こんな雪守って、学校では見せないんだったな。そりゃギャップに驚くか。
夜とかむしろぐいぐい来るから、俺からしたら見慣れた姿だが。
「や、やっぱいいよ。私の問題だから、雪守サンに悪いし……」
「悪くありません! さあさあ、さあ!」
あ、こいつ好奇心のままに聞いてるだけだ。
だけど今の俺に、雪守を止める力は残っていない。許せ、東堂。
迫られて遂に諦めたのか、東堂は深く息を吐いて俺を睨んできた。いや、だからごめんて。
「……雪守サン、ちょっと来て。あいつらには聞かれたくない」
「わかりました!」
……俺らには聞かれたくない? なんで?
東堂が雪守を連れて、俺と和樹から少し離れる。
小声で話してるから、全く何も聞こえない。一体全体、なんだってんだ……?
「和樹、お前も相談されてたんだろ? どんなこと相談されてたんだ?」
「言ったろ。友達に好きな人が出来たとかなんとかって。あと東堂がいない場所でお前に言うと、後でボコられそうだから言わん」
むぅ……確かに東堂に黙って事情を聞くのは、確かに無粋が過ぎる。
でも気になるなぁ。
和樹が二人に目を向け、俺もそっちに視線を向ける。
何か話している東堂と、聞いている雪守。
──直後、雪守の顔が驚愕に染まり、こっちを見た。
「東堂の相談ってのは、雪守も驚くもんなのか」
「知らん。話の内容的に、そこまでではないと思うけどな」
「どんな内容だよ」
「だから言わねーつってんだろ前歯折るぞ」
「サラッとえげつないこと言うのやめろや」
想像だけで前歯が疼く。
でもこいつならやりかねない。こわ。和樹こわ。
「お、戻ってきたぞ」
和樹の言葉に、顔を上げて二人を見る。
ちゃんと相談出来たのか、東堂はどこか清々しそうな顔をしていた。
それと打って変わって、雪守は気まずそうにそわそわしている。
あの雪守がソワソワする内容……余計気になる。
「東堂、相談はいい感じか?」
「ええ。スッキリしたわ」
「そっか。これで俺はお役御免だな。女同士の方が、話せることもあるだろ」
「あー……うん、ありがとう」
和樹の言葉に、東堂は頬をかいて顔を逸らした。なんか、微妙な反応だな。
それを横目に、俺は雪守へ話し掛けた。
「大丈夫か?」
「は、はい。少なくとも初瀬くんのお腹の具合よりは」
「原因のお前に言われると腹立つな」
「…………」
おいコラ顔を逸らすな。
……やっぱこいつ、変だな。腹がいっぱいすぎって訳でもなさそうだが……体調が悪いのかも。
「和樹、東堂。悪い。俺らそろそろ行くわ」
「おう、またな」
「初瀬、雫。また学校で」
「ま、またです。富田くん、明日香ちゃん」
俺が宮部さんに連絡すると、数分も経たないうちに車がやって来た。とこかで待っていたみたいだ。
雪守、俺の順で乗り込み、発進する。
車の中でも雪守はどこかぎこちなく、宮部さんも空気を察したのか黙っていた。
てか雪守と東堂、いつの間に名前で呼び合うように……? さっきまで苗字だったはずなのに。
女子の距離の詰め方、すげぇな。
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