14

「クソ、どうして!」

 左手=スマホ、右手=怪異を探知するの魔導陣。そしてその両方が同じ方向を示していた。

 こんな危険なときに外を出歩くなんて、と叱る言葉をいくつか考えておいたがそれらが全部吹き飛んでしまった。

「大丈夫。まだそうと決まったわけじゃないから。落ち着いて」ハンドルを握るリンのフォロー。「各車へ。ターゲットの可能性が高い。今から送る座標にパターンBで待機。ターゲットの逃走に備えて。接触はあたしたちでやるから」

 2人の乗る多目的輸送車ハンヴィー=電動モーターの加速でGを感じる/赤色灯&巨大な車体で周囲の車両&無人運転車両が道路の脇に避ける。

「手際が良いんだな」

「あら、おばけ退治より人間狩りが、あたしたちの本業だから」

「軍隊の?」

「陸自の」

「かっこいいんだな」そして頼もしかった。

「あらあら、かわいいとかきれい、とかのほうがいんだけどなー」

 リン=わざとおどけて見せる/赤く染めた左右非対称アシメの髪がなびく。

「GPS表示は下田の住宅街だ。聞いたことがあるな。たしかジュンさんが言っていた。おばけが出るって」

「じゃあ、追っている犯人とは別のおばけ?」

「おばけなんて存在しない。単なる怪異だといいだけどな。A型程度ならモモ1人でもなんとか対処できる」

「そうでなかったら、あたしが鉛玉を打ち込んであげるから」

 リン/にやりと口角を上げる。Mk.IVマークフォーライフルも車体の振動に合わせてガタガタ揺れている。

「かわいくてきれいだな」

「え、いや、感情がこもってないし、今はかっこいいのほうがよかった」

 ふむ=むずかしい。

 多目的輸送車ハンヴィーは住宅街を進んだ。どの家も寝静まっていて、赤色灯で照らされても分厚いカーテンで気づいていない。

 ────────────いた!

 車両のライトに照らされてもやに覆われた犯人&固まって震えている子どもたち。

 モモだけじゃなかったのか。

 ニシ=車から降りようとドアノブに手をかけたがリンに止められた。

「大丈夫だ。怪我はしない」

「こういう場合、こーいうほうがいいの」

「こういう?」

「2.5tの多目的輸送車ハンヴィーが時速100kmで衝突した場合の衝撃はいくらでしょうか」リンの小悪魔的「はい、しっかりつかまってて」

 言い終わらないうちの猛烈な加速/アクセルペダルと床が平行に/AWDの本領発揮/空転したタイヤに電子制御がすぐさま介入/速度を示す電子表示が時速20キロごとに増していく。

 瞬時に犯人に肉薄した/一瞬だけ目が合った気がした。

 運動エネルギー=1/2×質量×速度の2乗。

 もやに覆われた犯人はあっけなく数十メートルも吹き飛ばされた。

「モモっ! 大丈夫か」

 車を降りて柄でもなく叫んでいた。安っぽいB級映画の感動シーンさながらだな、と冷静に見つめるもう一人の自分もいた。

「ニシ兄ぃ!」

 モモをぎゅっと抱きしめた。細い腕がふるふると震えている。

「どうして、こんなところに。うちにいるんじゃなかったのか」

「ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 細く漏れるような声が耳元からした。安堵/しかしここは叱るべきか。モモの後ろ頭を撫でる。細い髪が指の間から流れる。しかし/無事で嬉しかった。

 モモを離してやった。ぐずぐずに泣いて、目が赤く腫れてる。そうとう怖かったのだろう。ここまで泣いてしまったのは、5年前、潰瘍を脱出したとき以来か。

「どうして、ここがわかったの?」

「GPSだ」

「じーぴーえす?」

「2年前、キッズケータイを買ってやっただろう? GPSでどこにいるかわかるんだ。ま、いつも見ているわけじゃないから、今日は気づくのが遅れたんだけど」

 モモは、ズボンのポケットに忍ばせていたケータイを、服の上から触れた。

「スマホを買わなくてよかったな」

 モモの後ろにいたのは、女の子5人。こんな友達がいたかな。いつかの授業参観でも見たことがない。

「で、君たちは?」

 お互いにきょろきょろと目配せしたが、いちばん背が高くて大人びた女の子が一歩前に出た。

「私達は、その、モモさんと同じ学校の、クラスメイトです」

「どうしてこんな時間に!」

 長身の女の子が躊躇するように口を閉じた。

 ニシは、きつい口調になっていたと気づいた。さすがにそれは、子どもたちには酷だろう。このあと会うだろう警察やら両親やら学校の先生の大人たちに都度、言われるのだから。

「まあ、その、何だ──怪我は無いかい?」

「うん、いえ、はい! ありません」

「もう少し待ってね。常磐か警察の車で家まで送るから」

「うーん、でも」

「警察は嫌?」

 はにかんでみせた。子どもたちの心情を考えると納得がいく。できることとすれば、あまり叱らないよう警官に言付けておくことだけか。

 振り返る/その先にリン/強化外骨格APSを着てなお軽やかに/Mk.IVマークフォーライフルを構えて、地面に横たわる犯人に近づく。

 多目的輸送車ハンヴィーのヘッドライトでボロ雑巾のように横たわっている犯人が照らし出された。車で跳ね飛ばされたくらいでは魔導士は死なない。動くようならありったけの攻撃魔導を叩き込んでやるつもりだった。

「死んだ?」

「脈拍を確認するまで気を抜かないで」

 リンの軍人の如きいらえ。少女のような雰囲気はそこになく、プロに徹する軍人の風貌があった。

 横たわる犯人を覗き込んで見てみた。横顔=まだ生きている。リンは戸惑うことなく銃口を向ける。

 カチリ。親指が動いて銃の安全装置を切り替えた。

 動かない/泣いていた。その失ったはずの左腕は、もはや人の形をしていなかった。

「何よ、あの腕。気持ち悪い」

「このマナの雰囲気は、怪異だ」

「怪異が、人に取り憑いた、とでも?」

「以前、見たことがある」

 1ヶ月前、魔導絡みの事件ばかりを担当してる新山刑事に呼ばれて、見た現場/倒した怪異と同じだった。

「まったく、不気味ね」

 リンは吐き捨てるように言った。

「野際カナコだな。殺人容疑および魔導使用取締法違反で逮捕する。常磐は魔取2条に基づき代理執行を行う」

 リンが定型文の口上を述べる。銃口を犯人に向けたままニシへ目配せをした。拘束のため、鎮静剤を投与するためだ。魔導士に手錠なんて意味がないし、そもそもこの女の場合、掛けるべき腕が片方、無い。

「こんなの、違う──」

 腰のベルトのポーチから鎮静剤を出そうとしたとき、すすり泣く声がした。

「こんなの、私の願いと、違う──」

 ゾッとする冷たいマナが溢れ出す/女を包む。しかしリンは気づいていない。

「リンっ! 気をつけろ!」

 その言葉と同時だった。女が跳ね起きた。常人の動きを超えて、物理法則さえ無視するように禍々しく蠢く。左手にマナが込められる。女本人の力じゃない。あの左腕の怪異からマナが供給されるのか。

 リンとはまだ距離がある。冷静に引き金に指をかけて、装填してある弾丸を打ち込むには十分だ。だが、瞬時の動きで左腕の怪異が暴れ動く。

 一瞬だけ時間が止まったような錯覚を覚えた。もはや巨大な触手といっていいそれはリンをいとも簡単に跳ね飛ばした。強化外骨格APSと合わせて100kgある身体が宙を舞う/静寂/盛大な衝突音。多目的輸送車ハンヴィーの鋼鉄製バンパー&フレームが一斉にひしゃげる。

 高速詠唱──声なき声で魔導を唱える=反射的に。魔導障壁×2=ニシの体を魔導の防御層が包み、さらにモモたちをドーム状に魔導障壁が包む。

「リン! 大丈夫か」

 しかしぐったりして動かない。強化外骨格APSの魔導障壁&外殻で、あの程度の魔導/物理衝撃は防げるはずだが──脳震盪だろうか。

 高速詠唱──更に重ねて。魔導を帯びた鈍く光るマチェットが右手に握られる。

 犯人/怪異に支配されたそれが唸る。

「ふん、こいつは嫌いか」

 予備動作なしの投擲/魔導でさらに速度が上昇。

 怪異/マチェットを受け止める弾き飛ばす=想定済み。邁進まいしん してくる。

 さらに魔導を発動。水銀色に輝く杭が空を切る/邁進する怪異は寸前でそれを回避する/水銀色の小爆発が起きる。

「gruuuueeeee!」

 取り憑かれた女の口から漏れる言葉は、もはや人間のものではなった。

「剣は嫌いだろう? だから新商品だ。面白いだろ」

 軽口/挑発。

「gruruuuruu」

怪異は警戒しているように、たたらを踏んで、しかし前後左右どちらでも逃げられるよう、構えている。

 ニシの頭上で、水銀色の球体がひとつ、ふたつと増殖する。それぞれが鈍い光/魔導を帯びている。

「水銀は古代から魔の力を帯びているとされていた。宝石やら黄金の比じゃない。その思いが、魔導の源だ」

 目の前の、できそこないの魔導士に向けて/自分の背中を見てる魔導士の卵に向けて。

 水銀色の球体のひとつが輪から外れる/無数に分裂する。

「さて、速く動けるかな。!」

 水銀の矢と化したそれは、怪異をめがけて一斉に降り注いだ。

 怪異は右へ/避ける/左へ/飛ぶ/前へ/阻まれる。手足を問わず、魔導のやじり が刺さる/怪異の腕で防ぐ。しかし怪異の魔導障壁を破れず。

 敵の足を止めた=第2波を放つ。水銀の槍が3本、順番に/超高速で放たれる。

 地面に刺さる/爆発。怪異が避ける=2本目が怪異に命中/爆発。3本目も立て続けに突き刺さった。

 カナに近接戦闘をなじられた際の解決策=同じ光の魔導をマネするわけにも行かず。常温で液体の水銀の扱いやすさ&伝承で語れる魔の力の召喚。結果として中距離で攻撃ができるように。

 銀色の爆煙=怪異の魔導障壁を蝕む。

 ニシは地面を蹴った/身体強化&マチェットを両手に再召喚=先程より刀身が長く、片刃で切れ味を上げている。

「ここで、決める!」

 踏み込む/地面を踏みしめる。魔導仕掛けの腕力で、短剣が銀色の爆煙を切り裂く=首の位置。

 確かな手応え/しかし防がれる。間髪入れず次の攻撃/下から切り上げる。

 敵=後ろに避ける/予想通り。

 さらに追い込む/踏み込む。右腕の短剣の切っ先を向ける。

 敵=左腕の怪異が枝分かれ/予想外。

 魔導障壁を正面に集中。視界がゆがむ。そこへ攻撃/衝撃。魔導障壁が打ち破られる前に間合いをとった。

 枝分かれした怪異の左腕が、ムチのように空気を切って、ヒュンヒュンと音速を超えたソニックウェーブが轟く。

「gururrrrrrrrrrr」

「また、禍々しくなったなあ」

 さっきより怪異の魔導障壁は薄くなった。そんな気がする。しかしその左腕から供給されるマナは無制限のような気がした。うかうかしているとふたたび障壁も攻撃も強化されてしまう。

 速攻こそ、勝機。

 地面を蹴る/走る。

 同時に高速詠唱。──声なき声を唱える。

駆けるニシの周囲を水銀の球体が取り囲む。それぞれが狂悪な刃物に/鎌に/槍に/戦斧せんぷ に姿を変える。

 攻撃/怪異の腕に弾かれる。槍が人の部分に突き刺さる/魔導障壁で防がれる。マチェットで斬る&刺す&戦斧が頭上から叩き割ろうとする。切っ先が人の方に刺さるも、まだ浅い。致命傷にならない。

 防御/怪異の枝分かれした触手が暴れる/鎌が体当たりで防ぐ。触手の刺突をが相殺=爆発。

 怪異の腕とつば迫り合いにもつれこむ。魔導仕掛けの勢い&腕力でも押しきれず。

 視界の端に触手が映った。まさか。今、動きを封じているのに。

 違う=瞬間的に理解した。背中から生えてる。怪異が人の部分を侵食している。

 伸びた。超高速で。狙いはモモたちだった。

 幸い、枝分かれした細い触手は、分厚い魔導障壁を破るだけのマナがなかった。水銀色の戦斧で切り落とされて霧散した。

 まずい。一旦距離を取る。

 右手のマチェットを喚送/新たな魔導陣が地面に現れる。ルビー色のそれが、時計回りで高速回転する。

 ニシが離れると同時に、魔導を帯びた爆発が起きた。空気を揺らし、怪異を数メートル後退させる/想定より浅い。

「ニシ兄ぃ、大丈夫?」

「大丈夫だ、モモ。俺のほうが強いし、その魔導障壁は簡単には破れない」

 そう言ったものの、内心、不安があった。怪異のマナの量が尋常ではない。その上、その殆どが防御に割り当てられている。怪異の特性か、取り憑かれている人間の防御本能かは判然としない。

 さて、次はどうするか。これはもう、対魔導士戦闘だった。師である近所のジジィからは、いつかこういった戦いが来ると散々言われて、そしてそんな訓練を拒否して以来、偶発する怪異を狩って独学でやってきた。

 なぜだ。なぜ今、あのジジィを思い出す?

 否、違う。その時の言葉だ。「悪の魔導士を封じるには、それを殺さねならない」「魔導は心の鏡だ。思念が具現化する。つまり、殺意がない魔導士に、死に至る魔導は扱えない。お前に魔導士は殺せない」

 クソッ、モモを、リンを守らなくてはいけないのに、心のどこかで、違う自分が叫んでいる。殺せない。魔導は人を救うためにあるんだ。救うために殺すなんて、詭弁きべんでしかない。

 だが、どうする? 援護を期待できない/住宅地のど真ん中で重火器を振り回すわけも行かないだろう。

 怪異が動いた。

 高速詠唱。──声なき声を紡ぐ。

 怪異の進路上に魔導陣が現れる/重力制御魔導。

 空気が揺れる。重力がどんどんと強くなる。怪異は負けじと踏ん張っているが、抑え込むまで時間の問題だ。

 この手段は、やはりどんな敵にも効くらしい。

「gurrrrrrreeeeee!」

 ゾッとする冷たいマナの奔流/もはや濁流だった。目にはっきり映るそれは、展開してる魔導陣を穿つ/遮る/破る。

 重力制御魔導が破られた。怪異と目が合う。

 まずい。まずい────1秒にも満たない時間で肉薄される。次はどんな手を打てばいい?

 怪異がこちらに集中している限り、攻撃にあわせて魔導障壁を生成してしまう。常に敵の防御はこちらの攻撃の1歩先を行っている。

 パンッ

 ライフルの乾いた銃声。

 怪異の人の部分の、頭が弾けた。頭部の左側が半分が、肉片になって宙を舞った。

 怪異の触手どもは、虚しく空を切ったあと、やがてその動きを止めた。空っぽになった体は、支えを失った人形のように地に落ちた。

 静寂が戻ってきて、自分が息を止めていたことに気づいた。

 銃声の元を見ると、多目的輸送車ハンヴィーのバンパーにめりこんだまま、リンが自動小銃を構えていた。

「はぁ、動きを止めてもらったおかげで、ゆっくり狙えた」

 不安定に機械仕掛けの関節を伸ばして、起き上がった。

「リン、大丈夫なのか!」

「ええ、まあ。ちょっと視界が揺れてるけど」

 ちょっと? その自称かわいい顔の真ん中を盛大に血が濡らしているのだが。

「それなのに、撃ったのか」

 銃弾の弾道はニシと1mも離れてなかった。

「ちゃんと外してあげたでしょ」

 強化外骨格APSをガチャガチャいわせながら近づいてくる。表情は苦しそうだが、ぴたっと銃を構えて銃口を外さない。人差し指は引き金にかかっている。

「脳震盪か?」

「ええ。いくら外殻が頑丈でも、中が揺すぶられるとこうなるのよ。105ミリに撃たれた戦車なんて、中は肉片だらけなんだから」

 粛々と/淡々と。口がよく回ってるから、怪我は大したことはないんだろう。

「ねぇ、あの子供たちのところの魔法バリア、目隠しとかできるの?」

「ああ、まあ」

 一瞬で魔導障壁のドームが曇って、中が見えなくなった。

 同時に、乾いた銃声が響いた。

 パン、パン、パン。

「ニシも、見ないほうがいいかも」

 パン、パン、パン。

 しかし、視界の端に見えた。銃声と同時に体が小刻みに動く。

「どう、死んだでしょ?」

 リンの声が冷たく響く。

 怪異のマナの気配が消えた。そのことはリンにもわかったらしい。左腕が消えて、腐敗した肉塊と骨が突き出している。

「俺は、別に死体に慣れてる」

「死体には、ね。でも生きている人間が死ぬのは、

「わかっていたのか? 俺の、魔導の癖を」

 しかし、リンは肩をすくめるだけだった。

「さあ。魔法のことは知んない。でもね、ニシの目の色を見たらわかるの」

「目の色?」

「色が違うのよ」

 思わずに触れてみた。悪意のある魔導士と戦うなんて、かつては思いもしなかった。未熟な頃、反感しか覚えなかったジジィが、結局の所、正しかったわけだ。

「俺は、役に立たなかったな」

「なーに馬鹿なこと言ってんの。ニシが戦ったから、あたしがとどめを刺すことができたんでしょーが。は、あたしの役目なのよ」

 リンは銃の安全装置を戻し、弾倉を抜く/ボルト前後させ空中で銃弾をキャッチ/流れる手付きで弾帯ベルトに仕舞う。確かめるように、薬室を目視して引き金を握って確認すると、器用に小銃を強化外骨格APSの左肩へ固定した。

「ほら、子どもたちが待ってるよ。早く魔法バリアを解除して」

「魔導だ」

 吹き消すように、魔導障壁が消えた。すっかり怯えきった小学生×6。それを出迎えるのは、満面の笑みを作ったリンだった。見たこともないくらいの猫なで声だった。しかし脳天から血を流していることに気づいていないらしい。

「みんな、もー大丈夫だからね。もう大丈夫。だから安心して」

 モモと目が合う。うなずいてみせた。涙の跡を残したまま、少しだけ笑顔になった。

 遠くからパトカーと救急車のサイレンが近づいてくる。それと時を同じくして常磐のロゴ入りの多目的輸送車ハンヴィーも到着した。

「遅い!」

 仁王立ちのリン/怯えるジュン。その後ろにケンが続く。

「ニシ、はい、これ」

 リンがのICキーを投げて渡した。

「これは?」

「後の処理はあたしたちに任せて。モモちゃんの保護者でしょ。一緒に帰ってあげて。できれば、車の凹みも直してくれると嬉しいなぁ」

 つまりは命令である。

「他の子達は?」

「あたしたちが勝手に送るとまずいからね。そっちは警察に任せる。保護者に連絡して、報告書を書いて……でもダイジョブ。あたしがやっとくから」

 リン=ウィンク。あくまで明るく快活に。あるいは、モモに向けられた励まし。

「さあて」

 しゃがむ=モモと同じ目線に。

「その、あの、ごめんなさい」

 いつになく。それだけで十分反省していることがわかった。これ以上何も言うまい。涙を拭ってやった。

「お腹、空いてないか」

「へぇ?」

「俺は、お腹が空いた。あそこにいるちっちゃい隊長が『仕事中だからダメー』って許してくれなかったんだ」

「うん、私もお腹すいた」

「何食べたい? といってもこの時間で開いているのは、牛丼か、コンビニか、マックか」

「マック! マック食べたい」

「そっか。じゃあ行こう」

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