第8話 期待

今日は俺の好きな女性声優さんが表紙を飾っている雑誌の発売日である。

さらに忘れてこそはいたが、これから俺の希望でもあった『創作物研究同好会』の設立の申請をして、晴れて今日は転校後素晴らしい日になる――――はずだったのだが。

目の前で繰り広げられているものは、そんな素晴らしいとは真逆のものだった。

「どう考えても漫画よりアニメだから!」

「逆にどう考えたらその思考になるの?100人に聞いたら100人がアニメより漫画って答えるよ。」

「そんなことないですー!100人に聞いたら100人が漫画よりアニメって答えますー!ねえ!!」

「「及川くんはどう思う?」」

散々言い合いした後、二人して俺に意見を問いかけてくる。

「ど、どう思うって言われても・・・」

俺の答えは最初から決まっているのだ。

「アニメも漫画もどちらも引けを取らない良さがあるのではないでしょうか・・・?」

俺は二次元の創作物に関してはオールマイティであり、すべての二次元創作物を愛している。

「及川くんの優柔不断!バカ!アホ!ぼっち!」

「北村さん・・・?最後の方はただの悪口では・・・?」

「及川くん大丈夫だよ。ホントは漫画の方が好きって言いたいけど気を遣ってるだけなんだよね。私にはわかる。」

「うん、大丈夫じゃないね。南さん、ぜんぜんわかってないね。」

ここでふと一つの思想が芽生える。

俺はとんでもない二人と同好会を設立することになるのでは?

それともぼっちだから知らなかっただけで俺みたいなオールマイティヲタクは珍しいのか?

「まあ私たち、アニメと漫画の話になったらいつもこんな感じだから安心して。」

そう言って北村さんはぐっと親指を立てる。

というか出来ないだろ、安心。いつもこんな感じって。

薄々感じていたが、この同好会、一筋縄ではいかなそうだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「代表、及川実、会員、北村真凛、南結莉。以上3人だな。よし、『創作物研究同好会』の設立申請承ったぞ。」

「ありがとうございます、戸田先生。」

俺が代表して職員室へ行き、戸田先生に同好会の設立申請書を提出した。

「まさか連れてくる2人が女子とはな。お前もなかなかやるじゃねえか。」

「いえ、たまたまですよ。たまたま。」

戸田先生が冷やかしてくるが、本当にたまたまなのである。

たまたま学校最寄りの某ヲタクに優しい本屋さんの店舗を間違え、たまたまそこで一人の同級生と出会った。

いくつものたまたまが集まって、こうして憧れていた同好会の設立申請を出すことができた。

ヲタクの俺が語るのであれば、これはたまたまが重なって生まれた奇跡なのである。


同好会の設立申請書を提出し、職員室を後にする。

「これでよしと。忘れていてすまなかった。それと、どうもありがとう。」

協力してくれら二人へ、ここまで迷惑をかけていたのにこんな大事なことを忘れていたことへの謝罪と、俺の希望の実現に手を貸してくれたことへの感謝を述べる。

「別にいいんだよ。私たちも興味あったし。ね、結莉。」

「うん。むしろ誘ってくれてありがとう。」

ヲタクスイッチがはいるとめんどくさい二人だが、本当にいい人たちだ。

この二人と同好会が設立できることをうれしく思う。

そして北村さんが再び口を開く。

「まあ、忘れてたことは忘れないけど。」

「うっ・・・」

「そのお詫びはまた致します・・・。」

これに関しては俺が100%悪いため、何かお詫びをすることは義務であろう。

「ううん、そのお詫び、じゃなくてしてほしいな?」

「え?」

「及川くん、これから行くところあるんだよね?」

「あっ。」

全てを察した俺の顔を見てニッと北村さんは笑った。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「今日はどうもありがとうね、及川くん。」

「及川くん、ありがとう。」

「いや、もともと悪いのは俺だし。」

俺たち三人は学校を後にし、『某ヲタクに優しい本屋さん』へ向かった。もちろん学校最寄りの店舗ではない。

そこで俺は今日購入予定だった声優雑誌と2人の希望の品を購入した。

北村さんは同じ声優雑誌、南さんは最初は漫画を選んでいたのだが、突然同じ声優雑誌に変更し、結局声優雑誌3冊を購入した。

「結莉はなんで声優雑誌にしたの?声優さん興味あったっけ?」

「だって二人が同じもので私だけ違うものだったから。なんか仲間外れみたいでいやだった。」

「可愛い!可愛いよ結莉!私が男だったら結婚したいレベルで可愛いよ!」

「ちょ、抱き着かないで。私は嫌だ。」

「えっ、ふ、振られたんですけど・・・。私もうお嫁にいけない・・・。」

「お、大げさ・・・」

2人のやり取りを見守りながら、俺はこれからの学校生活に胸を弾ませた。

「二人とも、これから宜しくな。」

じゃれ合っていた二人は俺の方を見てニッと笑って言った。

「「こちらこそ!!」」


この翌日、戸田先生から『創作物研究同好会』の設立が認証されたとの連絡があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

このラブコメはヒロイン全員が(めんどくさい)ヲタクです。(仮) 橋口むぎ @hashiguchi_shousetsu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ