第5話 仮説
『こんにちは、及川です』
『及川くんー!手紙気づいてくれたんだね!追加ありがとう(゜▽゜)』
「気づいてくれたんだね、じゃねえよ・・・」
遡ること数時間前の出来事。
日直のため学級日誌を職員室に提出し、教室に戻って帰りの支度進めていた俺は引き出しに入っていたあるものに気付いた。
手紙だ。
差出人不明、ハートマークのシールで封されていたことから、ラブレターだと悟った。
様々な考察や妄想を膨らませ、意を決して俺は封を開いた。
これが、俺の人生のターニングポイント――――にはならず。
まず差出人は北村さんだった。
南さんからだと予想していた俺は少し意表を突かれたが、まだラブレターという可能性しか見ていなかった。
そして肝心の内容。
及川くん!!!
LINEのID書いといたから追加よろしく!!
同好会の作戦練ろ!!
北村
ただのLINE交換の提案。しかも『気になるから』などではなく、学校では南さんのマークによって全く話せないがためのただの会話手段としてのもの。
もちろん女子と連絡先を交換するのは初めてで、嬉しい極まりないことなのだが、ラブレターを想定していたため期待の落差が激しく、複雑な感情だった。
というか北村さんって手紙でもうるさいんだな。
『こちらこそわざわざ手紙ありがとう。』
会話手段を提供してくれたことには感謝を述べる。
『別にいいよ。学校じゃ結莉がくっつきまくってくるし。あとさ、封筒のシールがハートのしかなくて、ややこしいかなって思いながらも使ったんだけど、勘違いしてないよね?ラブレターって。』
そういうことだったのか。こんなの勘違いしない奴なんていないだろ。
というかそもそも別にシール貼る必要なんてないんじゃないか。
『当たり前だろ。勘違いなんかするわけない。』
実際したけど。期待しまくったけど。
しかしそんなこと、恥ずかしくて言えるはずがない。
『良かった良かった。勘違いさせたら悪いなって思って。』
本人も悪気はなかったようだ。
若干気分が沈んだのは事実だが、俺の勘違いが悪い。
『まあ及川くん、自分がモテないってこと自覚してるもんね。そんな勘違いするわけないっか(゜▽゜)』
訂正。こいつが全部悪い。
確かに俺はモテないただのぼっちだ。けど、だからこそ、そんな勘違いをしてしまうものなのだ。
てかさっきからその絵文字微妙にウザいんですけど。
さらに続けてメッセージが北村さんから届く。
『てかなんで結莉は及川くんのことあんなに嫌ってるんだろう・・・』
お前が原因だよ。
なかったことをあったかのように話せる北村さんの特殊な才能が原因なんだよ。
この原因に気付けない北村さんは頼りにならなそうだ。
やはり俺が何とかするしかないんだ。
『考えてたら眠くなってきたや。今日寝るねおやすみ(゜▽゜)』
「なんだこいつぅ!」
とうとう心の中で留めておいたツッコミが声に出てしまった。
ちなみにこれは某ラップ芸人さんへの鉄板ツッコミのマネである。
そんなことはさておき、真剣で考える必要がありそうだ。
諦めかけていた、いやほぼ諦めていた同好会や学校生活に差し込んだ一筋の光。
その光をもう見失いたくない。
そしてその光が見えるのは北村さんのおかげだ。
先ほどは頼りにならなそうとか言ったが、もちろん頼りにさせてもらう。
『あ、明日の予定送ってー!予定表なくしちゃって!!』
新学期開始数日で予定表を失くすか?普通。
やはり頼りにならないかもしれない。
北村さんに予定表を送り、俺は真剣に解決策を考え始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すみません、何も思いつきませんでした。
また昨日と同じ結論に至り、結局無理ゲーに近いじゃんと若干萎え川になりました。
しかし必ず活路はあるはずだ。そう信じて俺は今日も朝から漫画を読む。
なぜそうなるのかと問いたくなるかもしれないが、前にも言った通り漫画は嫌なことをすべて忘れさせてくれる。邪念が消えるのだ。
そのおかげで頭がすっきりとし、何か新しいアイデアが生まれるかもしれないだろう。
読むのは昨日と同じシリーズのものだ。明日新刊が出る。
昨日は集中しすぎたので、ある程度周りを気にかけながら読み進めることにする。
朝のHRまであとどれくらいかを確認するために、時計をチラッと見ようと視野を広げた時、前に座っていた南さんがこちらを見ているのに気が付いた。
昨日も同じような場面があった。
南さんは俺のことをよくは思ってないはずなのになぜだ。考えろ俺。
何か解決策につながるかもしれない。
繰り返しになるが、南さんはおそらく俺のことをよくは思ってない。
けれどこちらを直視している。2日連続で。
俺の隣の席の北村さんと話しているわけでもない。そもそも北村さんは席を外しているし、別の友達と言っても俺は一番後ろの席なのだ。
そして直視しているといっても何かを探るような感じで見ている。
それも俺自身のことをというよりは何か別のものを―――。
まさか。
ここで一つの仮説が俺の中で生まれた。
これは確かめてみる価値がありそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日の放課後。俺は北村さんに出会った店舗の某ヲタクに優しい本屋さんに来ていた。
俺が昨日立てた仮説。結論を言うとドンピシャに合っていた。
俺は昨日一日を使って、いろいろ探っていた。
まあ探る方法といっても休み時間に漫画・ラノベを読む。ただそれだけ。
様々なシリーズのものを読みまくった。
ただそれだけの行動で俺はその仮説が正しいことをほぼ確信し、夜、北村さんに最後の確認を取った。
『北村さん、南さんって漫画好きなの?』
俺が立てた仮説―――南さんは『漫画ヲタク』である。
『(スタンプ)』
北村さんの返事は「Yes」でも「No」でもなく、プルプルと震え、口にチャックが描かれた可愛い動物のスタンプだった。
もはやそれは言ってるようなものであると同時に、もう一つの確証も得られた。
それは南さんはそのことを隠しているということだ。
北村さんが何も答えられなかったのもそうだが、南さんが『創作物研究同好会』加入を嫌っていたのも何よりの証拠になるだろう。
こちらを直視していた理由は、何の漫画を読んでいたのか気になったのであろう。
そして俺が今北村さんに出会った店舗の某ヲタクに優しい本屋さんのにも理由がある。
今日は最近学校で読んでいた俺の推しているシリーズの最新刊の発売日だ。
休み時間に色々なシリーズのものを読んでいたが、このシリーズのときはより強く直視されているように感じた。俺のことをじゃない。その漫画を。
しかしラノベを読んでいるときは、ラノベであると分かった瞬間に全くこちらを見さえしなくなった。
ラノベには微塵も興味もないことが分かったと同時に、心の奥底で少し期待していた『読んでいるものを探っていると見せかけ、本当は俺のことを見ていた』という説も砕け散った。
そんな好きであろう漫画のシリーズの最新刊の発売日に必ず買いに来る。
さらにヲタバレを恐れているということから、学校から離れた店舗で。
これは北村さんに初めて会ったときから学んだ。
見ようによってはストーカー感が溢れているが、そんなことは気にしていられない。
俺の高校生活が懸かっているのだ。
そもそもあくまでこれはただの仮説であるし、ここに来るかは全く分からない。
学校が終わって速攻で来たため、まだ南さんは来てはないだろう。
すこし色んなグッズとか見ておこうかな。
ここに南さんが来ることを祈り、俺は店内に入―――
「「あっ。」」
見事なまでのフラグ回収。
俺が中へ入ろうとすると同時に中から出ようとしてきたのは南さんだった。
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