第4話 恋文
席替えの日の翌日。
新しい席順で心機一転、新しい学校生活が送れるかと思っていた矢先、俺は窮地に立たされていた。
唯一話しができる北村さんには、南さんが徹底的にマーク。
話すどころか、近づくことすらできない状態にあった。
その状態が1日中続き、何の解決策を見つけられないまま放課後となってしまった。
こうなった原因でもある北村さんに上手く説得してもらいたいところなのだが、おそらくなぜこの状況になったのかも北村さん自身がしっかり理解してないのだ。
出会って3日のくせして北村さんの何が分かるのかと思われるかもしれないが、昼休みに北村さんと南さんの会話が意図せず耳に入って来たのだ。
昼休み。
「ねえ、なんで今日はこんなに私にくっついてくるの?そんなに私のこと好きなの?」
「なっ!べ、別にそういうわけじゃない。」
「素直になんなよ。てか、私及川くんといろいろ相談とかしたいんだけど・・・」
「す、好きかどうかは別として、一つ言える理由は真凛を守るため。相談なら及川くんじゃなくて私にするといいよ。」
「守るって・・・。別に私、及川くんに『お前の好きなアニメのブルーレイ、全部かち割るぞ』なんて言われたわけじゃないんだけど。」
「そ、そんなことまで・・・。なんて極悪非道なの・・・。尚更だめ。安心して。私が真凛もブルーレイも守ってあげるから。」
「え?え?なんで?なんで状況悪化しちゃったの?」
お前のせいだよ。と思わずツッコミを入れたくなったが、それは心の中のみで留めておいた。
本人としては悪気はないのだろうが、ここまで天然だとは。
そして今日は何か打開策につながる可能性も見て、南結莉という人物を少し観察していた。
南さんのキャラクターを俺の中ではっきり印象づけたのは授業での出来事だった。
授業中、先生に当てられて発言するときなんかは籠り声で、モジモジしていて、内気な性格のように見えた。
俺に対してはかなり怖いがそれも北村さんを思ってのことなのだろう。
その彼女の豹変ぶりは友人を思いやる優しさがゆえのものなのだ。
日常生活では怖さの片鱗を全く見せない、内気で気弱な友人想いの少女。
それが今日南さんを観察して感じた彼女のキャラクターだ。
北村さんが状況を理解しきれてない今、俺自身で放課後に誤解の釈明をしようとしたが話すら聞いてもらえなさそうな雰囲気だったので諦めた。
さて、これからどうしたものか。
今日は家に帰ってゆっくり考えることにしよう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
なにもいいアイデアは浮かばなかった。
そりゃそうだ。俺の話は確実に信じてくれないだろうし、頼りにしたい北村さんはというと悪気のない発言で状況を悪化させるしで、誤解を解く手段が全くと言って良いほど見当たらない。ほぼ無理ゲーに近いのだ。
一体どうすれば良いのやら。
ひとまず、漫画でも読んで心を落ち着かせよう。
漫画というのは素晴らしいものだ。物語に集中することで、先ほどまでの悩みをすべて忘れさせてくれ、感情をポジティブなものへと変換してくれる。
今読んでいる漫画は現段階でこそメジャーではないのだが、俺がこれから絶対に来ると確信しているものである。
「―――わ、――いかわ、及川?」
「は、はい!」
ふと俺を呼ぶ声に気付きハッとする。
俺を呼んでいたのは戸田先生だった。
「及川、日直だろ?号令を頼む。」
「あっ、はい、すみません。」
思いのほかどっぷりと集中してしまっていたようで、周りの声が完全にシャットアウトされていた。
号令を終え、先ほどまで熟読していた漫画をカバンにしまおうとしたところで、ふと前の席の南さんがこちらを見ているのに気が付く。
明らかに後ろを振り返ってこちら見てきているため、俺は何か用があるのかと思い勇気を出して声をかけた。
「ど、どうかした?」
「えっ?あ、その、別に、なんでもない。」
そう言い残して南さんは前を向いた。
「そ、そうか。」
一体何だったのだろうか。何か探るような感じでこちらを見ていた気がしたのだったが、勘違いだったのか。
結局この日も誰と会話するわけでもなく、一日を終えた。
放課後、学級日誌を記入し、職員室に届ける。
教室に戻るともう全員は帰宅か部活動かでその場にいなかった。
「さて、俺も帰るとするか。」
俺は一人の教室で帰りの支度をする。
引き出しの教科書を取り出した時、何やら紙のようなものが床に落ちた。
「ん?なんだこれ。」
プリントだろうか。俺はしっかりファイルにしまう主義だが、しまいそびれたのだろうか。
俺はその落ちた紙のようなものを手に取り、なんだったのかを確認する。
手にとって分かった。
封筒だ。
そしてその封筒にはハートマークのシールが貼られている。
俺は頭の中が真っ白になった。
「ま、まさか、ラブレター・・・?!」
宛名にもしっかりと『及川くんへ』の文字が書かれており、
鼓動が高鳴る。
差出人は書いてない。相手は誰だ?
思い当たる人なんて―――
まさか、南さん?
いやいやいや、あんなに睨んでくる人が俺のことを好きになるはずがない。
しかし、朝、必要以上にこっちを見ていた理由は?
好きな人を見ていたかったから・・・?
あれだけ北村さんと仲良しで、あれは天然発言だと気づかないのか?そんなことあるのか?
本当は最初から気づいて、守るってのはただの口実で、俺のことを好きだから他の女子を近づけさせないのが本当の目的だったり・・・?
やばい!面白いくらいに辻褄が合う!!!
妄想が膨らみすぎて、俺の鼓動はさらに高鳴る。
今一度教室には俺一人であることを確認して、その封筒を開け、中に入っていた便箋を読んだ。
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