第3話 3人目。

始業式翌日の朝。

俺は喉が治らないまま、学校へ向かった。

カラオケ後、俺はすぐ帰宅し、北村さんは『塾ウザすぎる・・・』とガサガサな声で愚痴りながら塾へと向かっていた。


学校へ着き、自分の席へ着席。昨日買った新刊を読み始める。

もちろん3周目だ。帰ってすぐ1周目。読め終えた後、伏線確認のためすぐにもう1周。

大事な1周目を学校で読むはずがないだろう。

数ページほど読み進めた時―――

「及川くん、おはよ。」

「っ!」

いきなり声をかけられてしまい、驚く。

思わず声が出てしまいそうだったが、喉が潰れていたため声にはならなかった。

「あれ、もしかしてまだ喉潰れてるの?」

北村さんの喉はすっかり回復しており、昨日のおばあちゃん声は見る影もない。

俺はガサガサな声で答えた。

「まあね。」

少し沈黙が生まれる。

会話が終わったとも言えるが、それにしては北村さんはずっとこっちを向いたままである。何か圧を感じた。

「あの、どうかされました?」

無言の圧に屈し、思わず敬語になってしまった。

「おはようって言った返事、もらってないんだけど。」

「え?あっ、あぁ・・・おはよう。」

驚きで話しかけられた内容が飛んでしまっていた。

これに関しては俺が100%悪い。

ガラガラガラッ。

教室の戸が開き、戸田先生が入ってくる。

「ホームルーム始めるぞー。日直号令~。」

日直の号令で戸田先生ともあいさつを交わす。

「はい、おはよう。じゃあ早速だが、席替え、するぞ。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(え、また同じ場所かよ・・・)

突然の席替えが始まり、早速くじ引きをしたわけだが、あいにく俺の席は同じ位置だった。

「及川くんはどこだった?」

席に戻ると、まだくじを引いていない隣の席の北村さんに話しかけられる。

「おんなじ位置だった。」

そう言って俺はくじ引きで引いた番号の書かれた紙を見せる。

「ぷくくくく。つまんなすぎでしょ。」

「くっ・・・。」

いたずらに笑われる。昨日と同様、図星すぎるためまた何も言い返せず。

「あ、そろそろ私の番だ。どこの席になるかなぁ~。」

北村さんは立ち上がり、教卓にあるくじを引きに行った。


くじを引きに行った北村さんは暗い表情で帰って来る。

まさか・・・。

「どこだった?」

無言。ただひたすら暗い表情のままこちらを見ている。

「まさか―――同じ場所?」

北村さんは表情を変えず、コクリとうなずく。

「くくくっ。あれだけ人を小ばかにした天罰が下ったな。」

笑いが込み上げてくる。さっきやられた仕返しだ。

「んんんんんんんん!ムカつく~~~~~!!!」

頬をパンパンの膨らませ、怒りをあらわにしている。

どうやら責められるのは慣れていないようだった。煽り耐性皆無というやつだ。


「全員引いたな。じゃあ新しい席に移動してくれ。」

戸田先生の言葉で一斉にクラスのみんなが移動を始める。

俺と北村さんを除いて。

机や椅子を引きずる音や、生徒の興奮した声、がっかりした声が教室に鳴り響いた。

みんなの移動を待っている中、新しく俺の前の席になるであろう人が、机と椅子を持って移動してきた。

「あれ、真凜、席変わってないの?」

「うるさー。って、あれ?そこの席なの?」

「うん、そうだよ。」

どうやら新しい前の席の人は、北村さんの友人のようだ。

小柄でセミロングの髪型。顔だちも整っていて、可愛らしい。

「どう?嬉しい?」

「う、嬉しくないし・・・」

「素直になればいいのに・・・。あっ。」

北村さんと楽しげに話していた女子と目が合ってしまう。

こういう時ってどうするのが正解なんだ?

目を逸らすのも感じが悪いし、声をかける度胸もないし、凄く対応に困る。

体感10秒くらいの数秒の間に終止符を打ったのは北村さんだった。

「及川くん、この子だよ。」

「この子って、何が?」

この子?どういう意味だ?

北村さんの友人も困ったような顔をしている。

「何がって、昨日言ってた―――いわゆる同志?」


放課後。俺たちは人気のない教室に集まっていた。

「及川くん、まずは自己紹介して。」

「あ、ああ。及川実だ。よろしくな。」

「じゃあ結莉も。」

「え、あ、はい。み、みなみ結莉ゆりです・・・。よろしくお願いします。」

南さんか。これは俺の勘だが、何やら俺と同じようなにおいがする。

同族感コミュ障が否めない。

お互いの挨拶が済んだところで、北村さんが切り出す。

「よし、お互い挨拶が終わったことだし、早速・・・」

「ちょ、ちょっと待って真凛。これって何の集まりなの?」

「それを今から説明すらから。いい?結莉には『創作物研究同好会』の再建に協力してもらいたいの。」

「『創作物研究同好会』って去年廃部になった、あの?」

「そう。それを再建したいんだけど、それには最低でも3人の希望者が必要だって言われちゃってさ。ここにいる私と及川くん、そして結莉の3人で再建したいんなって思ってるんだけど、どうかな?」

「どうっていきなり言われても・・・」

「マンガ一冊奢るからさ!及川くんが(ボソッ)」

おい最後の方になんボソッと聞こえたぞ。

「この通り、お願い!」

「ちょ、ちょっと待って。私がその同好会に入るってことは『私はヲタクです!』って公言してるようなもんじゃ・・・」

「そこは上手くやって、バレないようにするよ。私だってヲタクバレたくないんだし。」

「不安だなぁ・・・。私、絶対ヲタバレしたくないからね。・・・てか、真凛はなんでヲタバレの可能性があるのに、その同好会を再建しようとしてるの?」

「えっ・・・?それは、その・・・」

この途端、南さんの表情がこわばる。

「ねえ、及川くん、だっけ?真凛に何か良からぬことを吹き込んだ?」

「いや、そんなことはしてないけど・・・」

「じゃあ、弱みでも握った?」

言い方は悪いが、俺がにしたことのニュアンスはあっている。

「結莉・・・?別に及川くんは、『ヲタクをバラされたくなければ、俺の活動を手伝え。さもなければ・・・わかるな?』なんて言ってないよ?」

「へえ、なるほど。」

おい、言ってないことをさも言ったかのような構文で言うな。

待って。めっちゃ睨まれてるんですけど。

骨の一本や二本折りに来られそうな圧で睨まれてるんですけど。

小便ちびりそうなくらい怖いんですけど!

「絶対に協力しない。そして、真凛にも一切近づけさせない。」

「え?結莉?なんで?」

「いいからこっち来て。帰るよ。で、及川くんは?真凛がヲタクって件、バラしたりしたらただじゃおかないから。」

そう言い残すと、南さんは北村さんを連れて教室の外へと出ていった。

ひとり教室に取り残された俺は、ひとまず大きく息を吸い込んだ。

「どうすんの?コレ。」

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