第3話「CDもレコードも」
昭和歌謡をメインに中古CDを集めたり大学近くの図書館で借りるようになって、CDやケースにも色々なタイプがあることに気づき始めた。例えば、CDが普及し始めた80年代から90年代前半に発売されたCDは、ケースの繋ぎ目が黒かったり白かったり、裏のジャケットはやや味気ないデザインでシンプルに曲名だけが表示されているものが目立つし、当時の価格は今よりもずっと高い。また、ケースに収録されている冊子の一番後ろにはCDのメリットや音の良さが細かく説明されているものもあって、今の時代とのギャップがなんか面白かった。他にも洋楽ではあるけれど、石川レコード店の隅に長方形型の箱が横たわっており、石川店長にそれは何か尋ねるとレコードとCDの移行期、店頭のレコードの棚にCDを収める為に用意されたロング・ボックスなんだと説明してくれた。
「君、レコードとかも買ってみたら?」
昭和歌謡好きになって今日も日課として石川レコード店を訪れると、その石川店長に声を掛けられた。
「CDも良いんだけどさ、レコードはレコードで良さが有るし、まだCDにもなってない昭和歌謡のアルバムとかシングルも沢山有るんだよ。プレイヤーはここでも売ってるし、どう?」
そう、ここでは石川レコード店という名前だけにCDだけじゃなくてレコードも売っている。前から趣味の良さそうなおじさんとか、自分よりちょっと年上位のいかにも「イケてる」感じのDJ風のお兄さんが器用な手つきでレコードをチェックしている姿を頻繁に見掛けていたけど、レコードのコーナーは彼らマニアが築き上げたサンクチュアリに見えたから、そこに踏み入るのには一種の敷居の高さが有ってやや躊躇していたのだ。
「う~ん、でも操作って難しくないですか?」
「慣れれば簡単だよ。手間もCDよりかかるけど、レコードはサイズが大きい分所有している喜びも大きかったりするんだ」
「・・・・。」
石川店長の後押しで、僕は比較的安価なスピーカー内蔵のレコードプレイヤーを買うことにした。そうなると、次は聴くレコードだ。幾つかレコードで所有したいアルバムはイメージに合ったけど、アルバムコーナーの血眼、そして凄まじい早さでレコードを引っ張っては引っ込める、レコードハンターのプロフェッショナル達に恐れおののいた僕は、ハンター達が群がってない安売りシングルレコードのコーナーへ自然と赴いた。
この場所は処分品が集まる所謂エサ箱コーナーとも言われており、邦楽洋楽ジャンル関係なくあらゆるシングルレコードがひしめき合ってるその様はさながらレコードの闇鍋状態だ。とりあえず、適当にレコードをぱらぱらとめくってみる。CD以上に当時の雰囲気が伝わってくる。
郷ひろみの「裸のビーナス」の衣装、凄いなぁ。若大将こと加山雄三、若い!シンディ・ローパーの「ハイスクールはダンステリア」って邦題、どういう意味!?青江三奈ってこの時代から髪染めてたのか。ピーターの「人間狩り」って、妖艶なジャケットは勿論タイトルからして怖い・・・。江原由希子っていう人の顔、割と最近もテレビで観たような・・誰だっけ?ナイアガラ・トライアングルの「A面で恋をして」、良いタイトルだな。あらゆる感想が次から次へと無限に湧き出てくる。中には「中原一郎」と、かつての所有者と思われる名前が書いてあったり、「今日夕飯は要りません トヨ」なんてメモが書いてあったり、ジャケットに写ってる歌手の顔にサインペンでサングラスやヒゲ、シワを付け足した落書きレコードまで有って驚いた。
それにしても、これらの薄くてもCDよりも大きいシングルレコードを手に持っていると、確かに石川店長の言った通り、CDとはまた違った独特の満足感が有るような気がする。それと同時にふつふつと湧いてきた所有欲から、僕は既に聴いたことのある有名な曲、強烈なインパクトや魅力的なタイトルやジャケットのシングルレコードを少しずつ手に取っていく。
そんな中に、あのレコードは眠っていた。
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