第54話 友達になったんですから
「楽しかったね」
「そうですね。密樹先輩がはしゃいでる姿ってなんだか新鮮です。学校では真面目というか優秀なイメージがあったので。こんなにはしゃぐ密樹先輩は新鮮でした」
「新しい私を知ってもらえて良かったよ。私も楽しそうな茜さんを見れて嬉しかったし」
ジェットコースターを乗り終えた後、茜と密樹は感想を語り合う。
いつもは真面目で優秀な密樹しか知らなかった茜は、はしゃいでいる密樹にギャップを感じた。
でもそれは悪い意味ではなく良い意味でのギャップであり、生徒会長と言えども茜と同じ高校生ということを感じ、改めて親近感がわく。
密樹も普通の高校生だ。
密樹も密樹で、楽しそうにはしゃいでいる茜を見て喜んでいた。
「……今度は、早苗も含め三人、……いや、ミチルや渚も含めて五人で来れたら良いな~……」
二人は二人で楽しいのだが、早苗を含めた三人で来たり、ミチルや渚も含めて五人で来たらもっと楽しいだろうなと茜は考える。
でもそれは無理だろう。
早苗とは喧嘩をしているし、早苗と密樹は恋敵だ。
多分、二人が仲良くなることはできないだろう。
それが歯痒かった。
「大丈夫かい茜さん。また元気がないけど、考えごとかい?」
「いえ、大丈夫です。すみません、昨日はあまり寝れなかったので寝不足かもしれません。本当にすみません」
俯いて元気がなかった茜を気にかけ、声をかける密樹。
本当に密樹は気が利く優しい先輩である。
茜は密樹に心配をかけないように、本当のことを交えて話す。
寝不足というのは本当だ。
「実は私も寝不足なんだ。今日のデートが楽しみでな。……あっ、ごめん。今のなし。まだデートじゃないよな。あはは……」
どうやら密樹も今日のお出かけを楽しみにしていたらしく、寝不足らしい。
途中で失言して狼狽している密樹だったがそれはそれで可愛かった。
密樹は本気で茜のことが好きだ。
それは嬉しいほど伝わってくる。
最後は笑って誤魔化したが、バレバレである。
茜も寝不足だが、理由は昨日早苗と喧嘩したことが原因であり、残念ながら今回のデートが原因ではない。
「でもお互い寝不足なら少しなにか食べないか。あそこでソフトクリームを見つけたんだが、行ってみないか」
「良いですね、行きましょう。あたしソフトクリームが好きなんですよ」
「私も好きだ。甘くておいしいからな」
気まずい空気を和ませるために、密樹はわざと話題を変える。
寝不足で力が出なかったので、密樹の提案は賛成だった。
疲れた時は甘いものが一番である。
それに甘いものを食べると、少しの間だけど辛いことや苦しいことも忘れられる。
その後、二人はソフトクリームを買い、空いているベンチに座る。
ちなみに茜は普通の白いソフトクリームを買い、密樹はチョコのソフトクリームを買った。
「やっぱりソフトクリームは甘くておいしいですよね~」
「そうだね。しかも今日は久しぶりに暑くなったし、火照った体に染みわたる」
二人はおいしそうにソフトクリームを食べながら談笑する。
密樹は茜に退屈させないように楽しませ、茜も密樹を退屈させないように話題を振る。
「せっかく友達ですから一口食べて良いですか」
「良いのかっ。わ、私は良いのだが、女の子はこういうの気にするんじゃないのか」
「友達じゃなかったら気にしますけど、友達になったんですから。早苗やミチルともしますよ。……ミチルは最近彼女ができたのでしてませんが」
ソフトクリームをシェアしたそうな密樹の視線と、茜自身せっかく遊園地に来たのだから違う味のソフトクリームも食べてみたかったので、密樹に一口交換を提案した。
密樹は喜びと驚きが混じり合い、動揺している。
でも、とても嬉しそうだった。
確かに異性を気にする女の子もいるが、茜は友達だったら同性、異性はあまり意識せずに食べ物をシェアできる。
「それじゃー密樹先輩、一口どうぞ」
茜は密樹にソフトクリームを向ける。
その時の密樹は照れているのか意識しているのか、顔が真っ赤だった。
でも最後は嬉しそうに茜のソフトクリームを一口食べる。
「冷たくておいしいな。それに甘い」
茜のソフトクリームを食べた密樹はとても嬉しそうな表情を浮かべている。
そんな密樹を見ていると茜まで嬉しくなる。
「それじゃー私のソフトクリームも食べてみてくれ」
「それでは遠慮なく……こちらはビターな味わいでこれはこれでおいしいですね」
密樹はドキドキしながらソフトクリームを茜の方に差し出し、茜はあえて遠慮しないで一口食べる。
チョコ味ということもあり、ほのかな苦みもありそれはそれでおいしかった。
その後、もう一個アトラクションに乗りご飯を食べ、またアトラクションに乗るために動き出す。
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