第46話 ……茜のことが好き

 その後、ホームルームに遅刻するわけにもいかないので、早苗はホームルームギリギリで教室に入る。


 すでに茜は自分の席に座っていたが、早苗はなにも話しかけなかった。


 ガチで泣いてしまったため、目元が腫れている。


 こんな姿、茜には見られたくなかったからわざと茜の方に顔を向けなかった。


 茜も教室に早苗がやって来たことに安堵した表情を浮かべていたが、すぐにホームルームが始まったため、話しかけることができなかった。


 ホームルームが終わるとすぐに茜が早苗に話しかけてくる。


「どうしたの早苗。先に教室に行ってるって言ったのに教室にいないし……って目、腫れてるじゃん。本当にどうしたのっ」


 早苗の目が腫れていることに気づいた茜はさらに早苗を心配する。

 本当に茜は心優しい幼馴染で女の子だ。


 でもその優しさが辛い。


「……やっぱり、凄くモヤモヤして……胸が痛くて……」

「あたしと飯島先輩が話してるとやっぱり苦しいの」

「うん」


 あの時は茜の隣に密樹がいたため、弱音を吐くことができなかった。


 密樹にはなぜか泣き顔を見られたくはなかった。


 また泣き出しそうな早苗を茜は早苗を抱きしめる。


 茜の胸にうずくまる早苗。


 茜の胸の柔らかさや体温が直接伝わり、落ち着く。


「少しは落ち着いた」

「うん」

「良かった」


 茜も早苗が落ち着いたことに安堵の表情を浮かべている。


「どうしたの早苗。今日は珍しく茜と一緒じゃなかったじゃん。それにホームルームギリギリだったし……って本当にどうしたのっ。目、めっちゃ腫れてるけど」

「ホームルームが終わってすぐに抱き合ってると思ったら、これはなにかあったようだね。もし悩みがあれば相談に乗るよ」


 茜と一緒に登校してこなかったことや、ホームルームギリギリに来たことにおかしさを感じたミチルは心配そうに早苗たちの方にやって来る。


 そして目元が腫れていることに気づいたミチルはさらに驚き心配する。


 ミチルと一緒にやって来た渚もすぐに状況を呑み込み、優しく手を差し伸べる。


「昨日から、ううん、最近早苗の様子がおかしくて。モヤモヤしたり胸が急に苦しくなることがあるんだって」

「そうなのね。それってどういう時になるの。今もモヤモヤしたり、胸が苦しかったりする?」

「ううん、今は大丈夫。茜ちゃんに抱きしめてもらってるから」

「う~ん、それは大丈夫って言うのかな~」


 茜が最近の早苗の状態を二人に伝える。


 ミチルはもっと詳しい状況を知るためにさらに突っ込んだ質問をする。


 今度は早苗がミチルの質問に答える。


 なぜか分からないが茜に抱きしめられると、さっきまでのモヤモヤが胸の苦しさが嘘のように消えていくのだ。


 早苗の答えを聞いたミチルは複雑な表情で首を傾げていた。


「……ミチル、これって」

「……多分、早苗の嫉妬よね」

「……それしかないよね。ボクたちでもすぐに分かるよに、早苗と茜、二人とも分からないのは少し意外だったな」

「……逆かもしれないわよ。距離が近すぎるからこそお互いの気持ちに気づかない。それが二人にとって当たり前になってるから。これは完全に早苗が飯島先輩に嫉妬してるわよね。そして多分早苗は――」

「……茜のことが好き」

「……正解。もちろん幼馴染としてではなく恋愛的な意味だけどね」


 二人がなにやらコソコソと話しているが、声が小さすぎてなにを話しているのかは聞こえなかった。


 ところどころミチルや渚が呆れていたのが印象的だった。


「最終確認だけど、二人ともなんで早苗がモヤモヤしたり胸が苦しいのか分からないんだよね」


 ミチルは念には念を入れて、二人に最終確認を行う。


「うん」

「あたしも分からない」


 それが分かるなら悩んでいない。


 早苗も茜も素直に頷く。


 それを見たミチルがなぜか深いため息を吐いていた。

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