第二章 なりたてのカップル

第15話 でももう少し優しくしてほしいな……

 一週間も経つともう早苗と茜がカップルだと勘違いしている人はほとんどいなくなった。


 だが最初はいろいろな生徒に根掘り葉掘り聞かれたせいで、特に茜が不機嫌だったが一週間が経った今、ようやくそれも落ち着いた。


 早苗と茜が思うよりも早苗たちは注目のカップルだったらしい。本当はずっとカップルではないけど。


「おはよう茜ちゃん」

「おはよう早苗」

「茜ちゃん、早いね。今日は私が起こしに来る日なんだからもっと寝てても良いのに。むしろ寝ている茜ちゃんを起こしたい」

「そうなんだね。次は寝て待ってるよ」


 今日は早苗が茜を起こしに行く日だったので、茜の家にお邪魔して部屋で寝ている茜を起こしに行ったらすでに茜は起きていた。

 たまには寝ている茜を起こしたいと我がまま言う早苗に茜は素直に早苗の言うことを聞く。


 茜は早苗に甘々な女の子だった。


 その後、歯磨きをしたり洗顔したり朝食を食べたりして学校に行く準備を進める。


「それじゃー学校に行きますか」

「うん、そうだね」


 二人は戸締りをしてから学校へと向かう。


 今は五月中旬。


 日差しも強くなり、汗ばむ季節になってきた。

 繋いだ手からも手汗が出てくるが、早苗はもちろん茜も気にしていないのでなんの問題もない。


 早苗は茜の汗を汚いと思ったこともないし、茜もまた早苗の汗を汚いと思ったことはないと言っていた。

 二人とも夏用の制服に移行し、下は変わらないが上はワイシャツ、もしくはブラウス一枚でネクタイを締めているだけである。


「それにしてももう暑いね」

「そうだね。夏みたいな暑さだね」

「暑いのは嫌だけど夏になると夏休みもあるし、海やプールで遊んだりバーベキューしたり花火をしたりして遊べるから良いよね。虫は多いけど」

「それはしょうがないよ。今年の夏休みもたくさん遊ぼうね、早苗」

「もちろんっ。今年も四人でたくさん遊ぼうね」


 夏を感じさせるほど暖かくなりつつある朝の通学路を歩きながら、早苗と茜は雑談をする。


 早苗も茜も暑いのは嫌だが、その分夏は夏休みやいろいろ楽しいことがあるのも事実だ。


 今年の夏も去年のように茜やミチルたちと楽しく遊びたい。

 早苗と茜はまだ二か月以上先の夏休みに心を躍らせていた。


 その後学校に到着し、そこでミチルたちとも合流する。


「ミチルちゃん渚ちゃん。今日来る時に茜ちゃんと今年の夏休みのこと話してたんだけど――」

「ずいぶん早いわね。まだ五月だよ。気が早くない」


 ミチルに今朝茜と話していたことを話したら、話が終わる前にミチルにツッコまれてしまう。


「早くないよ。もうゴールデンウィークも終わったんだから」

「いや、まだ中間テストもあるし、それにまだ二か月も先じゃん」


 早くないと主張する早苗と早いと主張するミチル。

 二人の意見がぶつかり合う。


「……そうだった。夏休みの前に中間テストがあったんだ……。憂鬱だな」


 テストが嫌いな早苗は、ミチルから中間テストのことを聞いた瞬間、テンションが一気に下がる。

 中間テストは夏休み前のラスボスである。


「大丈夫だよ早苗。今回も一緒に勉強合宿するから。頑張ろう早苗」

「ありがとう茜ちゃん。今回も赤点を取らないように頑張るね」


 嫌なテストを思い出しテンションが下がっている早苗に、茜は救いの手を差し伸べる。


 毎回赤点ギリギリの早苗からすれば、茜はテストの女神である。

 早苗は茜が勉強合宿してくれるおかげで毎回、赤点を取らなくて済んでいる。


「でももう少し優しくしてほしいな……」

「早苗、赤点取りたくないんでしょ。赤点取ったら夏休み減るよ」

「はいっ。茜ちゃんと一緒にテスト勉強頑張ります」

「うん。頑張ろう」


 早苗はもう少し優しく教えてくれるように懇願するもの、氷のような冷たい笑みで脅される。


 基本茜は早苗に甘々なのだが、テスト勉強の時だけは例外である。


 テストの時だけはいくら早苗が困っていても茜は答えを教えてあげることができない。


 だからこそ一人で解けるように心を鬼にして茜は早苗に勉強を教えるのだ。


 テストは嫌いだが夏休みが補習で消える方がもっと嫌いなので、早苗は改めて気を引き締め、茜は嬉しそうに笑みを浮かべる。

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