第8話 ボクは三人と友達になれて凄く幸せだ
ミチルに告白されたのは昨日だった。
いや、正確に言えば告白はされなかった。
昨日渚は、ミチルと渚の家で遊んでいた。
早苗も茜も二人で遊んでいるらしく、二人は誘わなかった。
「な、渚って好きな人っているの?」
渚の自室で、声を震わせながらミチルは渚に質問した。
脈絡のない質問に困惑する渚だったが、勘の良い渚はミチルがなにを考えているのか分かった。
「いきなりだねミチル。好きな人とか……好きな人はいるよ」
「……えっ」
渚に好きな人がいることが分かった瞬間、ミチルは露骨にショックを受けた表情を浮かべる。
「もちろん、ミチルと早苗と茜の三人だよ。ボクはこの三人が大好きだ。一番の親友と言っても過言じゃないよ。ボクは三人と友達になれて凄く幸せだ」
もちろん、渚が好きな人はイツメンの三人のことだ。
これは比喩でもなんでもなく、渚は高校でこの三人と出会えて幸運だった。
そのおかげで毎日、楽しく送れている。
だけど、これは半分本当で半分嘘である。
渚は三人全員が好きだが、そのうちの一人だけは他の二人とは違う意味で好きだった。
よく渚は周りから大人っぽいと言われるが、まだ高校二年生の女の子である。
自分の『好き』と相手の『好き』が違かったらと思うと怖いし、今のこの三人の関係が壊れたりするのは怖い。
「そ、そうなんだ」
「そういうミチルは誰か好きな人がいるのかい」
「……いる」
渚はミチルが言いやすいように、ミチルにも好きな人がいるのか聞くと、ミチルは恥ずかしそうに頷く。
「ミチルが好きな人って誰なんだい」
渚はミチルの目をそらさずに見つめる。
渚もまた、覚悟を決めた。
その後、ミチルが何度も口をパクパクしてなにか言おうとしたものの、十分経ってもミチルはなにも渚に言わなかった。
いや、言えなかった。
部屋の空気がいつもより何倍も重い。
空気が喉に張り付いているようで、息苦しさも感じる。
気のせいかもしれないが、ミチルの鼓動が空気を通して伝わってくる。
「ミチル。ボクからもミチルに伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな」
渚は迷った挙句、覚悟を決めてミチルに話しかける。
ミチルは緊張しているのか、言葉を発さずに首だけを縦に動かした。
いつからミチルのことが好きだったのかと問われれば困る。
いつの間にか好きになっていた、が答えだからである。
ミチルはいつも堂々としており、生意気だが可愛いし照れる屋ではずかし屋がりでたまに見せる甘えた表情はギャップ萌えで可愛かった。
そんなミチルの隣にいるといつも幸せで、心地良かった。
もちろん、早苗と茜も好きだが、二人とミチルの好きは似ているようで違う。
ミチルの好きは『恋愛』として好きだ。
低俗なことを言えば、ミチルとならセ〇クスしたってかまわない。
「ボクもミチルとの関係が、いや四人の関係が壊れるのは怖い。だからボクは友達という安全な関係を続けていた。でもミチルに好きな人を聞かれ、ミチルのその反応を見て覚悟を決めたんだ」
渚は一度、ここで言葉を区切って、ミチルを真正面から見つめる。
「ボクはミチルのこと、恋愛対象として好きです。もし良かったらボクとお付き合いしてください」
言ってしまった。
これで誤魔化すこともはぐらかすこともできない。
渚はミチルに自分の思いを赤裸々に伝える。
「私も渚のことが恋愛対象として好きです。こ、こちらこそよろしくお願いします」
ミチルも恥ずかしがりながらも、自分の思いを赤裸々に伝える。
なんとなく分かっていたがミチルも渚のことが恋愛対象として好きだったらしい。
「これからは友達ではなく恋人としてよろしくねミチル」
「こちらこそよろしく。でもホントに良かった~。振られたら次の日からどんな顔して渚に会えば良いか分からなかった~」
友達という関係が終わり、恋人になった二人。
ミチルは渚に振られ、このままの関係でいられなくなることを怖がっていたが、告白したのは渚の方だし、それは渚も同じだった。
もし、ミチルに告白して振られたら次の日、ミチルにも会いづらいし今までの関係のままではいられなかっただろう。
「もう恋人同士だけど、実感がわかないね」
「そうね。嬉しすぎてまだ実感がわかないわ」
お互い恋人同士になったことを理解しているが、まだその実感がわいていない。
「こ、恋人同士になったんだから、は、ハグでもしとく」
「そ、そうだね。ミチルがしたいならボクは良いよ」
恋人になった証が欲しかった二人はとりあえず、ハグをする。
渚もミチルもいくら仲の良い友達とはいえ、ハグしたことはなくぎこちなかった。
いつも人目を憚らずにハグをしている早苗と茜はある意味猛者である。
恋人同士なら人前でハグぐらいは当たり前なのだろうか。(この時、渚たちは早苗たちは恋人同士だと勘違いしていた)
「渚の体って大きくて柔らかいんだね」
「そういうミチルも小さくて可愛いね」
初めて抱いたミチルの体は、想像よりも小さくて細かった。
ハグしたことによりミチルの胸が渚の胸に当たり、激しい鼓動が伝わってくる。
それと同時に自分も激しく鼓動しているので、それがミチルに伝わっていると思うと恥ずかしかった。
抱きしめたミチルからは、甘い香りがした。
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