エピローグ 可愛げのない後輩
第57話 私は可愛げのない後輩ですので残念でしたね
春祭りが終わって最初の平日。
真希のマンション前の河川敷は、お祭り騒ぎがまるで嘘だったかのように平穏に戻っていた。
もう五月になり、日差しも強くなり制服が汗ばむ。
今週末からゴールデンウィークということもあり、プラットホームに並んでいる学生たちのテンションがいつもより高く感じる。
「おはよう北野後輩」
「おはようございます鈴木先輩」
「一昨日は楽しかったな。今度は四人で屋台とかに行きたいな」
「いやだから、人混みが苦手なので遠慮します」
「そう言うと思って、あたしはある作戦を考えたんだ。あたしと清美と麗奈の三人で北野後輩を囲むように歩けば人混みは気にならなくなるだろ」
「どこの主要人物ですかっ。逆に恥ずかしくて歩けませんっ」
一昨日行われた春祭りは真希の部屋で過ごしたのだが、紗那は真希と屋台巡りとかもしたかったらしい。
しかし真希は人混みが苦手なので断ると、紗那はとんちんかんな作戦を考案し発表する。
馬鹿である。
もちろん、却下である。
「ん~……良い案だと思ったのにな……」
紗那的には名案だと思っていたらしく、真希に否定されションボリしていた。
その後、電車がプラットホームに入って来て真希たちは電車に乗り込む。
「あと鈴木先輩、ライン多いです。さすがに一日百通以上よこさないでください。さすがにウザいし多すぎです」
座席は空いていなかったので真希と紗那はつり革を掴み電車に揺られる。
春祭りの時紗那たちとラインを交換してから、紗那からたくさんのラインが送られてくるようになった。
その数は昨日だけで百通以上。
いくらなんでも多すぎる。
「そんなに多かったか? これでもかなり抑えていたつもりだったんだが」
これでも抑えていたつもりだった紗那は不服そうな表情を浮かべている。
「これで抑えていたんですか。ならもっと抑えてください。さすがに多すぎます」
「……すまない。もう少し抑えるよ。十通ぐらいまでで良いか?」
「……まっ、それぐらいでしたら。それに毎日こうして会えるんですから少しは我慢してください」
真希もさすがにこの事実には驚きを隠せなかった。
もし、抑えていなかったら一体どれほどのラインが送られてきてたのだろうか。
想像するだけでも怖い。
真希に叱られた紗那はシュンとし、反省する。
そんな紗那を見て真希もまた逆に罪悪感を覚え、紗那をフォローする。
ウザい紗那も面倒だが、気まずい紗那はもっと嫌だ。
「……そうだよな。北野後輩とは毎日会えるし」
紗那はなにが嬉しいのか分からないが頬が緩んでいる。
「そう言えば今日から五月だが予定とかあるか?」
「いえ別にありません」
「それならゴールデンウィーク、四人で遊びに行かないか。せっかくのゴールデンウィークだ。一日ぐらい良いだろ」
「……まっ、一日ぐらいでしたら別に良いですよ」
「……」
「どうしたんですか、鈴木先輩」
ゴールデンウィークの予定を聞かれたので、遊びの誘いだと推測した真希だったがその推測は見事に的中した。
紗那も真希のことを配慮し、ゴールデンウィークのうち、一日だけで良いから付き合ってほしいとお願いする。
別にゴールデンウィークは一日だけではない。
それ以外の日を一人でゆっくり過ごせるなら一日ぐらい紗那たちに付き合っても良い。
まさか一発でオッケーをもらえるとは思っていなかった紗那は呆気に取られている。
「いや、まさかすぐにオッケーをもらえるとは思わなくてな。かなり驚いている」
「だって一日だけなんですよね。それなら他の日は自由に一人で過ごせますし、それにここで断ったらまたしつこく誘うじゃないですか。なら最初から頷いた方が無駄な体力使いませんし」
ここで断ってもどうせしつこく誘ってくるのが鈴木紗那という女だ。
こんなことで押し問答しても結局真希の方が折れることが多い。
なら最初から誘いを受けた方が楽である。
それに誰かと一緒に過ごすのもそこまで悪いものでもない。
真希は友達と過ごす時間の楽しさを知り始めた。
「なんだ。少しは素直になったと思えばいつも通り可愛げのない後輩か」
「はい。私は可愛げのない後輩ですので残念でしたね」
紗那に悪態を吐かれたので、真希は嫌味たっぷりの笑みで返してやった。
真希は久しぶりに心からの笑みを浮かべたのであった。
ウザい先輩と可愛げのない後輩 黒姫百合 @kurohimeyuri
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