第56話 自意識過剰です

「来年もまた見たいな」

「来年って、鈴木先輩はもう卒業してますよね。無理じゃないですか。私は高校生で鈴木先輩は大学生なんですから」

「無理じゃないさ。だってまた北野後輩の家にお邪魔すれば良いだけなんだから。それに大学生になったら高校生の後輩と友達を辞める法律もないだろ」

「……まっ、そうですけど」


 来年に思いを馳せている紗那に真希は苦笑する。

 留年していなければ来年、紗那は大学生になっている。


 つまり来年、紗那はもう高校生ではない。


 大学生になれば、また新しい人間関係が始まる。


 そうなれば高校の時の人間関係が希薄になることは容易に想像がつく。


 しかも真希と紗那はただの『先輩後輩』の関係で、しかも二年も離れている。


 紗那が卒業したら、この関係も勝手に終わると真希は思っていた。


 だが紗那は違うらしい。


「あたしは大学生になっても社会人になっても北野後輩と仲良くしたいと思っている。北野後輩はどうなんだ?」

「私も疎遠になるのは、なんか嫌です」

「それならなんの問題もないだろ。来年もまたここで花火を見よう」


 これはただの口約束だ。


 ずっと仲良くいれる保障なんてない。


 今は二人とも同じ学校に通う高校生だから頻繁に会うことができ、仲良くいたいと思っていても一年後も五年後も同じ気持ちでいるとは限らない。


 だが紗那は未来になにも悲観していなかった。


 そんな紗那の言葉を聞くと、真希もなぜか大丈夫なような気がしてくるから不思議である。


「それでさっき北野後輩はなんて言おうとしてたんだ。『す』の後が聞こえなくてな」


 紗那は先ほど真希がなんて言おうとしたのか気になるらしく、その話を掘り返す。


「べ、別になんでもありません。っていうかなにも言ってません」


 紗那のことを『好き』と言った自分が信じられず、またそんなことを馬鹿正直に言ったらからかわれると思った真希は誤魔化そうとするも動揺してしまう。


「怪しいな北野後輩。もしかして『好き』とか言ったんじゃないか……まっ、冗談だけど」

「はぁー、そんなこと言うわけないじゃないですか。自意識過剰です。別に嫌いじゃないだけであって好きではありません」


 紗那に図星を突かれた真希は、最後の紗那の冗談を聞く前に反論する。

 そのせいで最後の紗那のセリフは真希の耳には入らなかった。


 冗談のつもりで言った紗那は真希に烈火のごとく反論され、面食らっていた。


「ただいまー、戻ったよー。あれ、もしかして仲直りできた感じかな?」

「ただいま戻りました。どうやらそのようですね」


 かき氷を買いに行っていた清美と麗奈が帰って来る。


 二人はいつも通りに戻った二人を見て笑みを浮かべた。


 その後買ってきたかき氷を食べながら四人は、花火を観賞する。


 真希の記憶のアルバムに新しい思い出の一ページがまた刻まれたのであった。

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